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北海道大学との連携協定で未来につなぐ「KUBOTA AGRI FRONT」に期待される
“食と農業”の仲間づくり

2023 . 03 . 27 / Mon

北海道大学農学部本館の玄関前に立つ、石井一英教授と野口伸教授

写真・文:クボタプレス編集部

いよいよ北海道日本ハムファイターズの新球場を核とする「北海道ボールパークFビレッジ」が、2023年3月30日の開幕戦に合わせてオープン。敷地内に建設中の農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT(クボタ アグリ フロント)」も同日に開業し、カフェなど一部の施設をご利用いただけます。

「“食と農業”の未来を志向する仲間づくりの場」をコンセプトとするこの施設はクボタだけでなく、株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント、北海道大学の3者が連携して設立されたものです。

そこで今回は、このプロジェクトに関わる北海道大学の石井一英教授と野口伸教授のお二人に、3者連携協定に至った経緯と意義、KUBOTA AGRI FRONTへの期待、ここから始まる食と農業の未来について語っていただきました。

開業が目前に迫るKUBOTA AGRI FRONT

北海道ボールパークFビレッジがある北広島市は、新千歳空港と札幌市のちょうど中間地点に位置しています。まだ雪が残る開業間近の3月初旬、北広島の建設現場を訪れると、完成間近となったKUBOTA AGRI FRONTのガラス張りの外観が朝日を受け、煌々と輝いていました。

道路側から見た建設中のクボタ アグリ フロント外観

3月初旬に撮影した建設中のKUBOTA AGRI FRONT。波打つようなカーブの屋根がユニーク。背後には北海道ボールパークFビレッジの中核をなす新球場「エスコンフィールド北海道」が見えます。

KUBOTA AGRI FRONTは2021年秋に締結されたクボタ、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント、北海道大学の3者連携協定に基づいてつくられたもの。次世代を担う青少年の育成や持続可能なまちづくりをめざすボールパークを起点に、北海道の基幹産業である農業の未来を発信する場にしたいという、3者の想いが重なったことで実現しました。

3者連携協定締結時の代表3人の記念写真

建設中の新球場をバックに、右から、寳金清博・北海道大学総長、川村浩二・ファイターズ スポーツ&エンターテイメント前社長、北尾裕一・クボタ社長(2021年10月9日撮影)。

明るい未来を象徴するような施設の姿を目にすると、これからここで何が始まるのか、期待に胸膨らみます。

北海道大学 石井一英教授に聞く3者連携協定の背景と価値

1876年に設立された札幌農学校を前身とする北海道大学は、脱炭素やSDGsという概念が生まれる100年以上も前から、北海道の豊かな自然を背景にしたフィールド研究を強みとし、持続可能な社会の実現に資する教育・研究に力を入れてきました。現在、社会貢献の取り組みにおいて、世界の大学の中でも高い評価を受けており、「THEインパクトランキング2022」*では世界で総合第10位、国内で総合第1位にランクイン。またSDGsの目標の一つである「飢餓をゼロに」の項⽬では、スマート農業をはじめ、持続可能な1次産業の実現に向けて地域の生産者に知見を提供していることなどが評価され、世界第1位にランクインしています。

  • イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が毎年発表しているランキングで、国際的な目標である持続可能な開発目標(SDGs)に対する各大学の取り組みなどに基づき、大学の社会貢献度をランク付けしている。2022年は世界の1524大学がエントリー。

また、2018年には農学に工学の考え方を取り入れ、食のバリューチェーンのロバスト化(堅牢化)を図る新しいプラットフォーム「ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点」(以下、ロバスト拠点)を設立。分野の垣根を越えた産学官の連携による、新たな研究・価値創造に向けたさまざまな活動を行っています。

ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点

産学官共同のロバスト拠点の組織図

北海道大学は最重要ミッションとして「フードバレー構想」を掲げ、農林水産業に生産工学の概念を取り入れることで、食のバリューチェーンの堅牢化をめざす「ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点」を設立。官庁や行政、民間企業と連携したイノベーションを誘導しています。

そのロバスト拠点の代表を務めるのが、北海道大学大学院 工学研究院 教授の石井一英さんです。

石井一英教授

北海道大学大学院 工学研究院 教授で、ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点代表を務める石井 一英(いしい かずえい)さん。廃棄物循環の研究を専門に、現在はエネルギー循環などの視点から地産地消でカーボンニュートラルな社会をめざし、自治体や地域市民と一緒に、さまざまな取り組みに参画しています。

北海道大学が3者連携協定に参画した背景について、石井さんは次のように語ります。

「今回の企画について話を伺った際、世界の課題解決をミッションとする北大の考え方と非常に相通じるものがあると感じました。自然や地域を相手に取り組んできた我々ですが、これをきっかけに新たなフィールドに飛び出すことで、より多くの皆様に北大の取り組みを知ってもらい、地域に貢献できるチャンスになると考えています」

どのような期待を寄せているかを尋ねると、KUBOTA AGRI FRONTは体験と学びが詰まった施設であると同時に、新しいものが生まれて常にバージョンアップされていくような、ダイナミクスを感じる場だと石井さんは言います。

「大学と企業による産学連携はよくあるものの、今回はスポーツや文化の領域であるファイターズが加わった点が非常にチャレンジングであり、新しい産学連携の姿を発信できると期待しています。将来、この場で地域の皆さんとともに学んだ子どもたちが新しい北海道の農業を支える人材として育ち、全国、世界へと広がることによって、ここでの取り組みが社会のより良い変化につながるのではないでしょうか」と石井さん。

「建物などのハード面もすばらしいですが、私が注目するのはソフト、つまりそこで繰り広げられる人々の『交流と学び』の場になる点です。ロバスト拠点としても、いろいろな場として活用していきたいですね。たとえば、ここで出た生ごみを使って自家製堆肥をつくり、それを活用した家庭菜園の作り方を教える講座を開くのもいいかもしれません。食と農業という傘のもと、スポーツ、栄養学、文化、サイエンスなど、異分野がコラボレーションすることでシナジー効果が生まれると思います」

なぜ「交流と学び」が大切なのかを問うと、地域やロバスト拠点といったダイバーシティに富んだ環境で活動する石井さんらしい答えが返ってきました。

「人は自分の得意分野をなかなか手放すことができません。人間にとって、変化はある意味、怖いと感じるものでもあり、現在の環境・組織の中で過ごそうとするからです。これを私は『システムの慣性』と呼んでいますが、この力は人にとても大きく作用します。一方で同時に、今のままではいけない、変わらなければとも思っているものです。その突破口となるのが、異分野との交流です。縦割りの自分の世界から次のステップに進むには、階段を上るように徐々に上がるのではなく、一度大きく上がり切る力が必要で、それをつくるのが交流と学びだと思います。KUBOTA AGRI FRONTはまさにその『交流と学び』のつながりを生む場所であると感じます」

スマート農業の第一人者・野口伸教授に聞くKUBOTA AGRI FRONTの意義

次に、スマート農業研究の第一人者として知られる、北海道大学大学院 農学研究院 副研究院長・教授の野口 伸さんにお話を聞きました。

野口伸教授

北海道大学大学院 農学研究院 副研究院長・教授の野口 伸(のぐち のぼる)さん。スマート農業の研究には大別して「農業の自動化・ロボット化」と「ほ場のデータの収集・解析」という2分野があり、野口さんはその両方を研究対象にしています。

昨今、日本では農業従事者の高齢化と後継者不足によって農業人口が減り続けていますが、その社会課題を解決するために、スマート農業は非常に有効だと話す野口さん。これまで重労働だった作業が楽になって生産性が向上すれば、農業はもっと魅力的な産業になり、就農人口も増えるはずだと語ります。

「目下、世界では人口の増加、気候変動、新興国における食生活の変化に伴う家畜用飼料需要の増加など、食と農業を取り巻く課題は多岐にわたっています。中でも世界人口が現在の80億人から2050年には97億人、2100年には100億人を超える予測の中で、食料不足が顕在化していくでしょう。また、どの国も経済発展の中で、労働力は1次産業から、2次、3次産業に移行していく。すると日本同様、農業における労働者不足が深刻化していきます。こうしたさまざまな問題の中で、スマート農業は有効な手段といえます。今後、日本においてもスマート農業の普及を進め、現在は38%しかない日本の食料自給率をどう上げていくか、日本の食料安全保障にもどうつなげていくかを考えていくことが重要です」

遠隔操作で自律移動する2台のトラック

北海道大学フィールド科学センター内の農道で、改造したトラクタ2台が遠隔監視下で自律移動する様子。

ロボット監視室

一人で複数のロボット農機を同時に作業監視できるロボット監視室。ロボット農機を遠隔で操作することもできる。

スマート農業に対する注目度は高まる一方ですが、普及にはまだ課題があります。野口さんは、コストを含めた参入障壁を下げることも大切ながら、より重要なのは啓発やコミュニケーションの仕方だと主張します。

「従来の農法によって経験と勘を頼りに生産効率を上げてきた農業者は、なかなかスマート農業の必要性を感じにくいのです。農業従事者の平均年齢は68歳ですから、普及には時間がかかります。そのリードタイムを短くするには、世代ごとのスマート農業の啓発であり、伝え方を変えていく必要があると思います」

たとえば、60代以上にはスマート農業を取り入れるメリットをなるべくわかりやすく、使いやすい形で見せることを重視し、40〜50代にはスマート農業による規模拡大や収量を上げるための適切な技術の導入について詳しく学んでもらう。そして、10〜20代にはもっと「夢のある話」をして、関心を持ってもらうことが必要だと野口さん。

「KUBOTA AGRI FRONTはそういう若い方々に、スマート農業・未来の農業っておもしろいな、ワクワクするねという夢を共有し、農業の魅力を伝える場になるのではないでしょうか」

今後、国内外の課題を解決するためにテクノロジーが鍵になるのは確実としつつも、野口さんはスマート農業の推進によってすべてを自動化しようと思っているわけではない、と言います。

「社会の主役は人であり、人がテクノロジーを生むのです。将来ほとんどの作業が自動化されたとしても、何をつくって売るかを考えるのは人間です。『収穫祭』という言葉があるように、農業は長い時間をかけて人が食料をつくってきた営みであり、喜びでもあります。収穫のその瞬間を楽しむ、手をかけて作物を育てることに生きがいを感じる。テクノロジーとはそんな人の営み・喜びを支えるTool(ツール)であり、スマート農業とはそのToolを使って農業者が幸せな生活を送り、消費者が食を楽しむためにある、というのが私の考え方です。KUBOTA AGRI FRONTで、そうした未来のさまざまな可能性を感じてもらえることを期待します」

“食と農業”の未来を担う次世代が集う仲間づくりの場

KUBOTA AGRI FRONTは子どもから大人まで幅広く楽しめる施設ですが、なかでもこれから日本や世界の食と農業を担う若い世代が楽しんで未来を考える場になればと、さまざまなプログラムを用意しています。そこで、お二人それぞれに次世代に期待したいこと、また、KUBOTA AGRI FRONTはその次世代に対してどのような役割を果たす場になるかを尋ねました。

農学部本館内の階段に立つ石井教授と野口教授

改修後も昭和初期の竣工当時のままのレトロな趣をとどめる北海道大学農学部本館の中央階段にて。
「農業学習施設というコンセプトに非常にワクワクしています」と石井さんから一言。

最近は大学生のみでなく、高校生とも交流する機会が多いという石井さんは、今の若者の中には「自分が社会を変えたい」と思っている人が、昔より多いと感じるそうです。

「私が若かった頃はパブリックとプライベートの距離は遠く、芸能人にでもならないと有名にはなれないと思っていましたが、今の若者はSNSなどの影響で、少しがんばればすぐ世の中の大勢に知られた存在になれるという感覚が強い。それだけに、自分は社会とつながっていることを意識し、私たちの世代が抱えた社会に対する責任とはまた違う、今の世代が持つ未来への新しい責任、それに対するアクションをぜひ積極的に発信していってほしいですね。輪が広がることで、新たな『交流と学び』が生まれる。KUBOTA AGRI FRONTでは実際に幅広い分野の人々との交流が生まれ、未来の社会の可能性がさらに広がっていくのではないかと感じます」

一方、野口さんはこう述べます。

「いま10歳の子どもは2100年まで生きるんです。だから、我々以上にシビアに持続的社会をつくっていくには何をすべきかを考える必要があります。そのために、我々はどういう未来を描き、それはどういう技術によって実現するのかを子どもたちに示し、継承していかねばなりません」

昨年11月、札幌の小学生に向けたスマート農業見学会を開催したという野口さん。子どもたちが想像以上に素直に、拍手したり歓声を上げたりと喜ぶ姿を目にして、とてもうれしかったそうです。

「やはりバーチャルで見せるのと本物を見せるのでは全く違います。そういう経験はきっと彼らの心に残り、将来、新しい発想につながると思います。全く異なる3者が連携し生み出すシナジーを、実際に見て、触れて、学ぶことができるKUBOTA AGRI FRONTでの体験は、必ずや次世代の心に残り、同じような役割を果たす場になっていくのではないでしょうか」

北海道大学が小学生向けに開催したスマート農業見学会の様子

2022年11月、札幌市立緑丘小学校の社会科の授業としてスマート農業見学会が開かれた。写真は農業用ドローンについて、野口さん(左から3番目)が実際の作業風景を見せながら説明する様子。初めて実物が飛んで農作業する姿を目の前で見た子どもたちは大喜び。

最後に、お二人が描く食と農業の未来について聞いたところ、まず野口さんは人にとって大変な作業はロボットに任せ、やり甲斐のある作業は残しつつ、農業を成長産業化することが目標だとしたうえで、次のように語りました。

「たとえば農業を継ぎたくないからと若者がどんどん都会へ出て行くのではなく、『農業は私がやる』『いや、僕が…!』ときょうだい喧嘩が始まるぐらいになればいいですね(笑)。その一方で、全ての人のもとにおいしいものが手に入り、笑顔で食が楽しめる未来になってほしいです」

また、石井さんはこう締めくくってくれました。

「栄養を摂るだけなら点滴でも事足りますが、やはり食はコミュニケーションツールであり、楽しいものでなければなりません。年齢や国、文化を越え、誰でもどこでも、どんな人にも平等に、生きるためだけでなく楽しむための食を提供できるのが農業だと考えると、農業の価値の高さに気づかされます。今後、そうした農業の魅力をより多くの人々が知ることによって、生産者と消費者の距離がどんどん近づき、みんなが農業に関わりながら生きていく未来を私は想像します。もしかしたら、いずれ農業は『業』とは呼ばない日がくるかもしれません。そういった未来を実現するために、KUBOTA AGRI FRONTが多くの人々で賑わい、“食と農業”の仲間づくりの場となることを期待しています」

球場側から見たクボタ アグリ フロント外観

入口がある、道路とは反対側から見上げたKUBOTA AGRI FRONT。1階のカフェは3月30日オープン。新球場が一望でき、誰でも利用可能です。

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