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TECHNOLOGY

スマート化は自動車や農業だけじゃない!水環境インフラを知り尽くすクボタが実現、下水処理施設でIoT活用へ

2018 . 02 . 19 / Mon

水環境インフラを知り尽くすクボタが実現、下水処理施設でIoT活用へ

文・写真=クボタプレス編集部

いまや見聞きしない日はないほど、あらゆるメディアで話題に上る「IoT」。この言葉に、車の自動運転、あるいはエネルギー消費と快適性を最適化するスマートホームなどを思い浮かべる人が多いことでしょう。IoTとは、元来「モノ同士がインターネットでつながり、人を介せずに互いをモニタリング・制御できる仕組み」。遠隔監視制御が関係するところであれば、広くどこにでも使われる可能性があります。

イノベーションを⽔環境インフラにも――。時代の求めるソリューションを切り拓いてきた“⽔のクボタ”は、昨年、新サービスKSIS(後述)を開発・発表しました。すでに大規模な水処理施設での遠隔監視を実現し、今後、診断など一部の新しいソリューションは実証試験を通して、年内の実用化を迎えようとしています。

はじめに

創業以来、自然との共生・都市と人にやさしい環境づくりを目指し、多様化する時代のニーズに取り組んできたクボタ。水事業においては、現場作業の効率化と経営改革につながるサービス『クボタスマートインフラストラクチャシステム: Kubota Smart Infrastructure System (略称、KSIS)』を通じて、快適な生活をリアルタイムで支えるため、現在、 開発を進めています。

その取り組みの一環で 、2016年6月に「農業・水・環境インフラ分野におけるICTイノベーション創出に向けた連携協定」をNTTグループと締結しました。連携 によって開発したLPWA (Low Power Wide Area) 無線を利用したセンシング技術の2018年度内実用化 にむけ 、昨年7月、千葉県内の下水処理場で実証試験が行われました。大型の下水処理施設は広い敷地にあり、設備点検にかかわる 作業効率のほか、状態保全に必要なデータの蓄積などに課題を抱える現状から、遠隔監視やデータ診断技術による改善が期待されます。

以下、研究開発本部計測制御技術センターの末吉康則KSIS開発グループ長に、水環境インフラとIoTの可能性について、お話を聞きました。

茶色は汚泥、濃い青は雑排水

施設内を縦横無尽に走るパイプ。茶色は汚泥、濃い青は雑排水を運んでいます。

単なる監視ではないKSISのメリット

――KSISは、機器/プラントメーカーであるクボタが長年培った施設運用のノウハウと、NTTグループが強みをもつ低消費で広範囲に稼働するネットワーク、センサーやICT関連技術が結集したサービスですね。「施設をセンサーと通信を使って管理する」と聞くと、汚水・雨水のコントロールなどで、これまでも24時間365日の監視がなされているのでは? と思います。イノベーションと評されているのは、どのような点でしょうか。

「確かに、遠隔監視自体は当社でも1980年代後半から行っています。その従来型システムと比較して、下水処理施設のIoTは、単なるリモート監視・来歴収集といった機能にとどまらないのがポイントです。監視データに基づく現場の維持管理、延いては経営の強化に役立ていただけるソリューションになります」(末吉 KSIS開発グループ⻑)。

――課題解決につながる仕組みについて、詳しくお願いします。

「IoTによるモニタリングが、現場の作業効率やライフサイクルコストの改善につながるのです。スマートフォンなどインターネットに接続している端末があれば、機器・プラントをいつ/どこでも“見える化”し、観測データもクラウド上のサーバに蓄積していきます。その結果から、水質・電流・振動など計測値のわずかな変化、不具合のパターンが把握されます。警報設定値をあらかじめ設ければ、不具合を事前予測して管理者へ通知し、速やかに状況確認と対策措置を取ることも可能です。状態に応じて修理の規模や費用をコントロールし、稼働を維持しながら適正な中長期的修繕計画も立てられます。もし、経験の浅い担当者が異常に遭遇しても、データの診断結果やこれまで対処履歴から的確な判断がなされ、技能継承の不安も緩和できるでしょう。施設が広大で人員不足や即時対応の負荷が高いといった問題点は、PCやスマホを通じたフレキシブルな情報共有をすることで、省力化や効率化への一助となりますね。
下⽔処理施設は、全国的に⾃治体の予算削減と⼈材不⾜の問題に直⾯していますから、導⼊によってお客様の維持管理が改善されれば幸いです。」

末吉グループ長

「データの閲覧に専用機器は不要。パソコン以外にスマートフォンからも、処理施設のどこに異常が出ているかなどの情報を確認できます。遠隔操作で状況確認も可能になりました」と語る、末吉康則KSIS開発グループ長。

NTTグループとのタッグで経済性の確保と技術の発展

――IoTがこのように注目を集める背景には、センサーや通信機器、そしてIT技術の著しい発展がありますか。

「IoTはさまざまな分野に導入が始まり、新たなビジネスの機会や生産性を生み出しています。特に産業機械や車の自動化・事故予防など、製造業での実用化が顕著です。
一方、社会や地域インフラの分野では、まだあまり浸透していません。広範囲に多数の施設が点在する環境では、費用面と安定した無線ネットワークの構築・利用が難しいことを理由に挙げられます。公共施設・プラントなどインフラのIoT実現には、経済性を確保するうえでセンサーと通信の低価格化、広域通信を可能にする省電力化が必要でした。クボタはそこに貢献すべく、『農業・水・環境インフラ分野におけるICTイノベーション創出に向けた連携協定』をNTTグループと結びました。
クボタのKSISでは複数のシステムを提供しています。携帯電話網を利用して、施設や機器の遠隔監視を行うサービスは2003年より行い、機器の点検・診断に関連するさまざまな開発をプロジェクトで担っています。ひとつは低価格なクラウドサービスと低消費電力のLPWA無線を利用した機器のセンシングシステム。もう一方は精密診断システムです。無線のセンシングシステムは、10分ごとに取得したデータを元に機器の傾向管理などを行い、安価の状態監視をします。万一の異常検知に際しては、精密診断システムを用いて異常個所を診断します。ポンプを例にお話すると、無線センシングシステムで振動を管理しておき、振動値が上昇した場合に、精密診断システムでモーター、減速機、軸受け、羽根のどこに不具合があるかなども検知して、診断結果をフィードバックできるようになりました」

広い施設内で点検作業するスタッフ。

広い施設内で点検作業するスタッフ。下水処理場は、全国的に予算削減と人材不足の問題を抱えています。

水環境のプロフェッショナル、クボタが有するワンストップの強み

――IoT市場は、クボタのような機器・プラントメーカー以外に、重電メーカーやIT企業などの参入で、競争が激化しています。クボタの強みは何でしょうか。

「水環境施設に関する設備とそのオペレーションを知り尽くしていることです。パイプ・ポンプ・バルブ・水処理設備などの製品供給に加え、プラントの全体設計・施工や運転管理、保守点検、修繕更新までのソリューションをワンストップで実現し、業界の技術を牽引する立場にあります。水インフラの維持管理では何が重要であるか、クボタグループは長年にわたって現場をつぶさに見てきました。クラウドによって容易にビッグデータを得られるようになった今日、大切なのはデータの量だけでなく、解析・診断する力。どのデータをどう活⽤するのが有効かをスペシャリストが⾒極めていき、そのノウハウをAIで構築します。また、現在、クラウドサーバでは業界標準を大きく上回る20年間分のデータを蓄積しています。将来は、それを『機械メーカーとして機械寿命を越える保存期間』とし、私どもが提供する製品の管理をお任せいただき、お客様の設備に関する課題解決に貢献していきたいと思います」

――最後に、現況と展望をお聞きします。

「LPWAは、従来比1/10の消費電力で数10倍の長距離通信、ならびに100もの大量機器接続を可能とする無線技術です。都市部の下水処理場は、地下空間に広がる巨大なコンクリート施設で、これまでの技術では無線通信が困難でした。今後LPWAによって、自動でデータ収集できます。また、音声処理の実証試験も別途実施します。点検作業の履歴や指⽰事項の入力にはタブレットなどの導入をしていますが、一部、⼿書きでの記録も残っています。⾳声⼊⼒を使えば1/3程度に時間短縮を図れるでしょう。ただし、プラント内は機械や処理音が反響する閉鎖空間です。航空機の機内レベルの騒音環境下で正確な入力のできる、高精度音声認識技術を要します。これらの開発に、目下NTTグループと連携して取り組んでいる最中で、2018年4月以降の実証試験を通して実用化していきます」

――快適な⽣活と環境にやさしい⽔資源リサイクルを維持するために、⽔インフラを担当するお客様の職員・予算不⾜は何としても解決したい問題です。今後の実用化に期待しています。

地下に広がる巨大なコンクリートの閉鎖空間。

地下に広がる巨大なコンクリートの閉鎖空間。騒音環境下での高精度音声認識技術を開発中です。

編集後記

通信技術の実証試験をした千葉県内の下水処理場を見学しながらのインタビューでした。下水処理は、微生物の分解作用を利用して行っています。微生物活性化のための酸素供給装置は、まるで金魚鉢のエアーポンプそのもの。また、施設内を縦横無尽に走るパイプは、識別のために、茶=汚泥、白=空気、濃い青=雑排水、薄い青=上水、緑=薬品、と色分けされ、電気機器の配線を見ているようでした。一番驚いたのは、ほとんど水を目にしなかったこと――人知れず、もくもくと水処理が進んでいく印象が強く残りました。都市部の下水処理施設は、臭気が漏れたり、鳥が群がったりすることを避け、地下空間に設けて蓋をしてしまうことが多いのだそうです。下水処理が地下の深いところで、文字通り“縁の下の力持ち”の活躍をしていると実感した一日でした。

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