システム連携の実証試験に参加する、JA全農、クボタ、BASFの担当者

2023 . 08 . 31 / Thu

TECHNOLOGY

KSASのオープン化が 「日本の農業の時計」を進める

写真・文:クボタプレス編集部

スマート農業の推進に伴い、多様な営農支援システムが登場し、企業の垣根を越えたデータ連携による農業情報の一元管理を求める声が高まっています。こうした農家のニーズに応えるべく、クボタは自社の営農支援クラウドサービス「KSAS」の営農データを他企業の各種システムで利用可能にする「KSAS API*1」の提供開始に加え、KSASのユーザーが他社の営農管理アプリなども取得できるウェブサイト「KSAS Marketplace」を開設。また、KSAS APIを活用した他社とのシステム連携の実証試験もスタートしました。

KSAS APIとKSAS Marketplaceの開発に携わるクボタの担当者、さらには実証試験が行われた石川県の現場に集結した関係者にも話を聞き、なぜ今、営農データのオープン化が進められているのか、日本のスマート農業の最前線を取材しました。

*1 「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)」の略称。システム間連携を容易にするために、連携のルール・仕様を定義し、一部の機能を効率的に共有できる仕組み。


日本の農業における課題とスマート農業の役割

高齢化や農業従事者の平均年齢が年々上昇し、2005年には約200万だった農業経営体数は、2020年には107.5万にまで激減。今後、離農農家から委託される農地や休耕地は増え続け、経験の浅い担い手が大規模で点在したほ場を管理しなければならなくなるという、課題が見えてきます。

このような、労働力不足の解消、生産性向上などの社会課題を解決するカギとなるのが、スマート農業です。ドローンや自動運転農機を活用した無人化・省力化が注目されがちなスマート農業ですが、もう一つ忘れてはならないのが、データ活用によって農業の「精密化・効率化」を図る取り組み。勘や経験則に頼る従来の手法ではなく、センシング技術や過去のデータに基づくきめ細かなコントロールを行うことによって、作物のポテンシャルを最大限に引き出し、農作物の収量と品質の向上、資材削減、省力化を実現する農業管理手法を指します。

2014年にクボタが提供を開始した営農支援システム「KSAS(Kubota Smart Agri System)」の開発プロジェクトに携わってきたスマート農業推進室長の小林義史さんはこのように振り返ります。

「当時は100haもの広大なほ場をまだ紙の地図やノートに記録している農家さんが多く、従業員をどうマネジメントするか、数種類の作物の収量をどう管理するかなど、問題が山積していました。そうした課題に対し、クボタ独自のハードとソフトによってソリューションを提案しようと、KSASを普及させるプロジェクトがスタートしたのです」

クボタの小林義史さん

小林義史(こばやし よしふみ)さん。現在、カスタマーソリューション事業推進部 スマート農業推進室長。長年、農業機械の営業を担当した後、KSAS対応コンバインの開発プロジェクトに関わったことが縁で、KSASの開発に携わることに。モットーは「農家目線」。常に農家の立場に立ち、何に困っていて、どうすればそれが解決できるかを一緒に考える姿勢が大切だと語ります。

近年、他社からも営農支援に係るシステムが数多くリリースされ、異なる企業の農機とシステムを組み合わせて使う農家が増えてきました。農家の利便性を向上させるには企業間の垣根を越え、連携によってデータが相互利用できる『オープン化』が必要不可欠だという認識に至ったと小林さんは言います。

2022年6月、クボタはKSASに蓄積する営農データを、他社がサービス提供する各種システムで利用可能にするため、システム開発者向けに「KSAS API」の提供を開始。これにより、他社農機、システム、サービスとのオープンな連携が可能となるだけでなく、新たなシステム・サービスの開発も加速。KSASを基盤とした「スマート農業のエコシステム*2」が形成され、農家にとっては、一気通貫で多様なサービスが利用できる利便性の高い環境が実現します。

*2 エコシステム=本来は「生態系」の意。ここではKSASを中心に、さまざまな社内外サービスをデータ連携させることで、共存共栄し、相互に発展していく構造を表す。


3者連携による「KSAS API」を利用したオープン化の取組みとは

KSAS APIの提供開始から約1年後の2023年5月、全国農業協同組合連合会(以下、JA全農)・クボタ・BASFデジタルファーミング社およびBASFジャパン(以下、総称してBASF)の3者は、JA全農とBASFが開発・推進する栽培管理支援システム「xarvio® FIELD MANAGER(ザルビオ®フィールドマネージャー、以下ザルビオ)」とKSASのシステム連携の実証試験を開始しました。

ザルビオは人工衛星画像をAIで分析することで、ほ場の地力*3や生育のムラを確認し、元肥や追肥を調整する「可変施肥」マップが作成できる点が特徴。今回の試験は、ザルビオが作成したデータをKSAS対応の田植機に取り込み、田植えの際に可変施肥を行い、システム機能や操作性を確認することが目的です。

*3 地力=その土地が農作物を育てる生産力。


もともとKSAS対応田植機には、地図上のメッシュごとに施肥量の増減を設定できる可変施肥マップの機能が付いており、前年までのほ場内で収穫されたお米の食味・収量を確認し、可変施肥を行うことができますが、衛星画像を活用したザルビオのマップを読み込むことで、より精密な作業が可能になります。

ザルビオとKSASのシステム連携のイメージ図

KSAS APIを活用して、ザルビオとKSASのシステム連携を行う流れのイメージ。

ザルビオで作成した可変施肥マップをKSASに取り込んだイメージ図

ザルビオで作成した可変施肥マップ(左図)をKSASに取り込んだイメージ(右図)。

JA全農とBASFが日本におけるザルビオのサービス提供を開始したのは、2021年4月。JA全農の平野幸教さんは、今後、1軒の農家が管理すべきほ場の面積が増え、かつ若い未経験者が就農することを考えると、スマート農業の普及が不可欠であることから、「農家にはまず手軽に始められるソフトウェアに慣れてもらい、スマート農業を馴染みのあるものにしていきたい」と語ります。

JA全農の平野幸教さん

平野幸教(ひらの ゆきのり)さん。現在、全国農業協同組合連合会(JA全農)耕種総合対策部 スマート農業推進課 課長。前身の「推進室」発足当初より室長を務め、今回の日本におけるザルビオの開発をはじめ、スマート農業の陣頭指揮を執ってきました。

JA全農とクボタが連携を行う意義については、「BASFとの連携においては、農機とのデータ連携が非常に重要になります。たとえ精密な可変施肥マップをつくれたとしても、そのデータを農機側で正確に読み込まない限り、機械が自動的に施肥量を調節して撒くというゴールにはつながりません」と平野さん。データ農業の分野に参入するIT業界やベンチャー企業の多くが長続きしないのに対し、農業界に軸足を置いたクボタと全農の両者が手を結ぶ意義は大きいと言います。

次に、BASFの五味剛史さんにお話を伺いました。BASFはドイツに本社を置く総合化学メーカーで、ザルビオがアジア太平洋地域で展開されるのは日本が初とのこと。

「日本には米作りに関して長い歴史があり、農業にまつわる各地の研究機関には、天候や生長のスケジュール、品種の特性など、膨大なデータの蓄積があります。これらのデータを活用し、AIに分析させることで、うまく日本向けのシステムが開発できたと考えています」

BASFジャパンの五味剛史さん

五味剛史(ごみ つよし)さん。BASFジャパン株式会社 アグロソリューション事業部 マーケティング部 技術士。日本の農業がグローバルスタンダードになるためには、環境保全型農業が大前提であり、今後は無駄な肥料を使わない可変施肥が常識になっていくと語ります。

また、ザルビオの可変施肥マップと農機がシームレスなシステム連携でつながることは非常に画期的であり、これまで進んでいなかった可変施肥の効率化が一気に加速し、日本の農業の力の全体的な底上げにつながっていくだろうと、平野さんも五味さんも口を揃えます。

石川県で行われた実証試験の現場から見えてきたこと

今回の実証試験は、石川県・津幡町の河原農産の協力のもと、行われました。

KSAS対応田植機で田植えを行う様子

河原農産は石川県津幡町で約40haのほ場で主に米を栽培。3年前からKSAS対応田植機を導入しています。

ザルビオの可変施肥マップのデータを移行したKSAS対応田植機を用い、実際の環境下で田植え・施肥作業を実施。機能や操作性の評価を行いました。

田植機に肥料を投入するところ
田植機で田植えと施肥が同時に行われる様子

左:田植機のホッパーに元肥を投入しているところ。
右:あらかじめ設定された可変施肥のデータに従って、田植えと同時に施肥も自動で行われます。

上:田植機のホッパーに元肥を投入しているところ。
下:あらかじめ設定された可変施肥のデータに従って、田植えと同時に施肥も自動で行われます。

田植機の液晶パネル画面でデータを確認する様子
液晶パネル画面のクローズアップ

左:田植機の液晶パネル画面で施肥量などのデータを確認する様子。
右:画面のクローズアップ。

上:田植機の液晶パネル画面で施肥量などのデータを確認する様子。
下:画面のクローズアップ。

河原農産の河原吉治さんがKSASのユーザーとなったのは6年前。これまで記憶が曖昧だった作業履歴や実績がデータで確認できる便利さを実感しているそうです。

河原農産の河原吉治さん

河原吉治(かわら よしはる)さん。地元の高専を卒業後、家業である農業の道へ。親子二人三脚で徐々にほ場を取得し、作付面積を増やしてきました。2004年に、現在の農業生産法人を設立。

河原さんによれば、栽培しているコシヒカリは草丈が長いため、肥料が多いと伸びすぎて倒伏しやすい半面、肥料が少ないと倒れにくくはなるが収穫量が減るという、管理が非常にむずかしい品種。「いろいろなツールを組み合わせて施肥の管理ができれば、より早く理想の形に近づけられるのでは」と河原さん。

KSASオープン化の取り組みに携わるクボタ KSAS開発推進課の小田達也さんにもお話を聞きました。

クボタの小田達也さん

スマート農業推進室 KSAS開発推進課の小田達也(おだ たつや)さん。IT系企業でシステムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、ユーザーとの接点を持ちながらスマート農業に関われる点に魅力を感じ、約2年前にクボタに転職。

小田さんは現在、国内で他企業が展開中の可変施肥、水管理、病害虫診断、生育予測、会計・在庫管理など、多種多様なシステム・サービスの中から、KSAS APIと提携するサービスを選定し、交渉する重要な任務を担当しています。連携先を選ぶ基準を問うと、こんな答えが返ってきました。

「生産性の向上だけでなく、軽労化や省力化、環境負荷の削減など、どこが農家さんにとっての価値につながるか、儲かる農業を実現できるかという視点を常に忘れず、1社1社丁寧に対応しています。これからも連携企業の拡大を図り、農家の皆様の経営を多面的に支援していければと思います」

ほ場と田植機をバックにした、関係者4人の集合写真

左から、JA全農の平野さん、河原農産の河原さん、クボタの小田さん、BASFの五味さん。

クボタが「KSAS Marketplace」を開設した理由

クボタは、今年3月29日、KSASの追加機能や他社の営農関連アプリ等を取得できるウェブサイト「KSAS Marketplace」を新たに開設しました。今後、多様な営農システム提供者が参画することで農業を支援する機能や情報の集約が加速し、各農家のニーズに合ったアプリやサービスが『KSAS Marketplace』を通して選択できるようになります。

KSAS Marketplace(ケーサスマーケットプレイス)の画面

KSAS Marketplaceの追加機能選択画面。

KSAS APIやKSAS Marketplaceの開発に携わってきた美馬京志さんは、データのオープン化の意義について、次のように述べます。

「農作物は植えて生長して収穫するというサイクルがあるため、農業は1年1年の積み重ねが大切で、革新にはとても時間がかかります。それを1社ではなく、複数の企業と連携しながら知見やノウハウを持ち寄ることで、『日本の農業の時計を進める』──すなわち、イノベーションのスピードを上げることがこのプロジェクトの意義だと考えています」

クボタの美馬京志さん

スマート農業推進室 KSAS開発推進課長の美馬京志(みま あつし)さん。大学で農業を学んだ後、ユーザーに近い場所に行きたいと考え、クボタに就職。さまざまな仕事に携わってきましたが、もともと興味があったKSASの開発に関わりたいと希望を出していたところ、念願がかない、2019年から現職。

さらに、「クボタには、ハードとソフトとリアルの三つが揃っている」と美馬さん。つまり、農機、KSASに加えて、農家と日々直接コミュニケーションがとれる販売会社やディーラーといった“リアル”の方々がコンサルティングやサービスを提供できる点が、クボタの強みということです。

KSASの営農情報プラットフォームのイメージ図

KSAS APIの提供やKSAS Marketplaceの開設を通じて、クボタがめざす営農情報プラットフォームのイメージ。KSASプラットフォームが整備されることによって、ユーザーは農業サービスの検索が簡単になり、自分に合うようにカスタマイズできる一方、連携企業はKSASの会員にリーチでき、クボタが決済・課金を代行することで手続がスムーズになります。

最後に、冒頭にご登場いただいたスマート農業推進室長の小林さんに、日本のスマート農業の推進においてクボタが果たす役割について尋ねたところ、このように締めくくってくれました。

「クボタは今後、機械の製造販売サービスだけでなく、デジタルの分野でも、農家に貢献するソリューションカンパニーとして歩んでいきます。そのためには、農家の方々はもちろんのこと、地域の行政の方や他社のパートナー企業とも手を組む必要があります。皆様にご協力いただきながら、一緒に社会課題の解決に取り組むプラットフォーマーになる──それがクボタのめざす姿だと思っています」

編集後記

インタビュー中の「農業の時計を進める」という言葉は、スマート農業に携わる人々の思いを代弁するような名言です。実証試験の現場を訪ね、実際にお話を伺うことによって、「KSAS API」や「KSAS Marketplace」の開発に関わる大勢の関係者の皆さんが、同じ熱い思いをもって農業の課題解決に立ち向かっていることが伝わってきました。

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