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TECHNOLOGY

CES® 2025 Best of Innovation 受賞レガシーな技術が新たに生み出した
中山間地域農業の新型ソリューション「KATR」

2024 . 12 . 20 / Fri

クボタの研究施設内で撮影された、新たな車両型ソリューション「KATR」。

写真・文:クボタプレス編集部

世界の農業が抱える課題と向き合い、時代の先端を走るテクノロジーを用いたソリューションを提供しているクボタは、2025年1月に行われるデジタルテクノロジーイベント「CES®」に、昨年に続いて出展します。

今回のCES®では、中山間地域*1の農業を支えるクボタの車両型ソリューション「KATR」が、機能性やデザイン性、革新性などを踏まえ選定される「CES Innovation Awards® 2025」において、「Best of Innovation」を受賞しました。

このKATRとは、一体どのようなソリューションなのでしょうか?本記事ではCES®での公開に先駆けて、製品化をめざし開発が進むKATRの開発背景や特長、めざす姿をご紹介します。

  1. *1山間部とその周辺の地域

中山間地域の農業が直面する省人化・省力化の壁

世界中で農業従事者の減少と高齢化が進む中、農業の課題先進国である日本においては特にその影響が顕著です。例えば、果樹栽培農家の数は2000年の約33万戸から2020年には約17万戸*2にまで減少しています。

こうした農家の多くが営む中山間地域は、全国の総耕地面積の約38%、総農家数の約45%、農業産出額の約40%*3を占める重要な食料生産の場です。しかし、傾斜地や不整地が多いこの地域では、機械化が難しく、人手不足が深刻な課題となっています。

  1. *22000年、2020年の数値はそれぞれ「農林業センサス2000」「農林業センサス2020」より
  2. *3農林水産省「中山間地域等について」より
中山間地域の斜面に広がる果樹園。

山の斜面に広がる果樹園。トラクタのような平地向けの農機は、このような傾斜地では横転するリスクが高まってしまいます。

中山間地域の農業が衰退すれば、安定した食料生産が困難になるだけではなく、多様な生態系の保全や土砂災害の防止といった多面的な機能も損なわれる恐れがあります。持続可能で安定的な食料生産の実現をめざすクボタは、この中山間地域の農業を守ることを責務と捉え、省人化・省力化をめざした技術開発に取り組んでいます。

コンセプトはブロック設計とオープンプラットフォーム

2021年、中山間地域の農業向けにKATRの開発を本格的にスタートさせました。開発を牽引するのが、機械総合研究ユニット 機械研究開発第二部の山中之史(やまなか ゆきふみ)さんです。

KATRの開発現場でインタビューに答える開発者の山中之史さん。

山中之史(やまなか ゆきふみ)さん。1991年にクボタに入社し、トランスミッションなど走行駆動系の制御ソフト開発に従事。2021年からKATRの開発を担当しています。

「クボタは、水田に向けたソリューションでは世界一の技術を持っていると思います。ただ、水田は平地です。日本の耕作面積のうち約4割にも上る中山間地域にも、もっと魅力ある製品を作りたいと思い、開発に着手しました」と山中さんは開発初期を振り返ります。

KATRの開発コンセプトは2つあります。1つは「ブロック設計」。KATRは複数のブロックに分かれて構成されており、用途に応じて柔軟に作りを変えることができます。例えば、畑の畝をまたいで作業したければ、ブロックの組み合わせでトレッド幅(車輪間の幅)を広げることができます。

もう1つは「オープンプラットフォーム」です。外部からコントロールできるインターフェースを設けたり、外付けのモジュールを簡単に接続できる構造にし、トラクタのように多様な作業を可能とすることをめざしています。

レガシーな技術が中山間地域の農業で発揮する新しい価値

全地形対応型プラットフォーム車両「KATR」とは

KATRは、傾斜地や凹凸のある路面でも、荷台を水平に保ったまま走行できる全地形型プラットフォーム車両です。4本の脚を油圧で伸縮して重心位置をコントロールし、不整地でも荷台を傾けずに最大240kgの積載物を運搬できたり、さまざまな機器を組み合わせて多様な作業を行うことができます。

機体から伸びるジョイスティックやリモートコントローラーで直感的な操作が可能。商用バンや軽トラックの荷台に収まるコンパクトなサイズで小回りが利き、大きな機械が入りにくい狭小地でも活用できます。動力源はエンジンのほか、環境に配慮した電動仕様も開発が進められています。

荷台を水平に保ちながら斜面を走行するKATR。

斜面でも荷台を水平に保って走行するKATR。

KATRの足元を支えるクボタの高度な油圧制御技術

中山間地域の農業向けソリューションとして軽視できないのが走破性です。「傾斜不整地で活用するためには、荒れた斜面でも安定して走行できるパワーが必要です。なので、走破性は最も重要なポイントでした」(山中さん)。

KATRの走破性を支えているのが、農業機械(農機)や建設機械(建機)の開発・製造で長年培われてきた油圧制御技術です。

「世の中に存在する車両型ソリューションは多くが電動で、傾斜不整地ではパワー不足に陥ったり、稼働時間が非常に短くなってしまいます。KATRは確かな動力源と着実に動力を伝達する機構が備えられているので、小さなコンポーネントでも傾斜不整地での走行や作業に必要なパワーを発揮できるのです。また、農機や建機で使われている技術なので、過酷な環境でも安定稼働を続けられる高い耐久性も兼ね備えています」(山中さん)

KATRの開発に先立ち、クボタは油圧制御技術の新たな可能性を追求する基礎研究を行っていました。油圧制御技術はクボタの製品づくりにおける中核的な存在であり、長年にわたり磨き上げられてきた技術です。このレガシーな技術が、いま中山間地域の農業の省人化・省力化という課題を解決するという新たな価値を創出しようとしています。

省人化をめざしたオープンプラットフォーム

KATRのもう一つの特長であるオープンプラットフォーム。外部の機器やモジュールを接続し、さまざまな作業を可能とすることを見据えています。

その第一歩として基礎研究が進んでいるのが、KATRによる防除作業です。人の手で行う防除作業は薬剤を噴霧するため、ゴーグルや防毒マスクなどを装着する必要があり、特に気温35度を超える真夏は負担が非常に大きくなります。例えば、エアコンのきいた車内からKATRを操作し、防除作業ができるようになれば、大きな省力化につながります。

とはいえ、これはめざす姿の第一歩に過ぎません。「まずは省力化のためにKATRを介した防除作業の実現に取り組んでいます。しかし、農家さんが儲かる農業を行えるようにするには省力化ではなく、省人化が必要です。最終的には、KATRだけで防除や剪定、収穫作業を可能にし、省人化を実現したいと考えています」と山中さんは強調しました。

このオープンプラットフォームを実現しているのが、クボタの若き技術者が磨いてきたロボティクス技術。KATRは、歴史上長く培われてきた油圧制御技術と、新しいロボティクス技術の融合とも言えるでしょう。

クボタの研究施設内で写真に収まる、KATRの開発メンバーたち。

KATRの開発に参加しているメンバーたち。

中山間地域の活用に貢献する製品をめざして

KATRの開発は、わずか5人の小規模なチームで始まりました。それでも、「中山間地域の農業をサポートしたり、放棄されている里山の自然を守ったりできる機械を作りたい」という思いをメンバーで共有し、開発の原動力としてきました。今では10人のメンバーが、同じゴールをめざしながら製品化に向けて開発を進めています。

CES® 2025でのBest of Innovation受賞については、「まだ実感は湧きませんが、嬉しく思っています。世界の農地でKATRが活躍する姿を目にしたら、実感が湧くかもしれませんね」と山中さん。最後に、KATR開発への思いを語ってくださいました。

「世界の中山間地域の田畑をしっかり活用できる製品を提供したいとの思いで開発を進めてきました。例えば、環境にやさしい製法を採る米国のヴィンヤード(ブドウ畑)で使われることを想定して、排ガスを出さない電動式KATRの開発も進めています。少し大げさかもしれませんが、世界や日本の食料自給率を上げ、食料安全保障を担保する。その結果、中山間地域の自然や動植物の多様性が保たれるといった、当社のESG経営にも貢献できる製品をこれからもめざしていきます」

KATRの実機は、他のクボタ製品・ソリューションとともにCES® 2025にて展示されます。また、後日CES® 2025のレポートも掲載予定です。どうぞご期待ください。

  1. The CES Innovation Awards are based upon descriptive materials submitted to the judges. CTA did not verify the accuracy of any submission or of any claims made and did not test the item to which the award was given.

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