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農業を続けるために、発電もする。クボタが挑む営農型太陽光発電農地の2階建ては、地域を変えるのか

2026 . 07 . 15 / Wed

営農型太陽光発電の下で田植え作業をしている風景

写真・文:クボタプレス編集部

農地の上で発電し、その下で作物を育てる。そんな「農地の2階建て」が、栃木県や茨城県で広がり始めています。クボタは2024年7月から営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)に取り組み、現在は約50ヵ所、今後は約200ヵ所への展開を計画しています。

クボタが実現しようとしているのは、地域の人たちから「あってよかった」と感じてもらえる営農型太陽光発電です。こうした取り組みの背景には、日本の農業が抱える担い手不足や耕作放棄地の増加、そして脱炭素社会の実現という二つの大きな課題があります。

クボタは長年にわたり、農業機械を通じて日本の農業を支えてきました。その中で、農地そのものが維持できなくなることを、自らの課題として捉えてきました。

その課題に向き合うために取り組んでいるのが、農地の上空に太陽光パネルを設置し、その下で農業を続けながら発電を行う営農型太陽光発電です。地域の農地を維持しながら、農業の活性化や温室効果ガス削減につなげるとともに、農業と発電の両立という新たな可能性に挑戦しています。

ただし、クボタがめざしているのは、農地に太陽光パネルを設置することそのものではありません。

機械が走り、作物が育ち、農地が次の担い手へ受け継がれていく。その前提に立ち、発電設備をどう設計するか。そして、農地から生み出される作物と電力が地域の中で循環し、農地そのものが地域の新たな資産となる姿をどう実現するか。そこに、クボタの営農型太陽光発電ならではの考え方があります。

農業と発電は、本当に両立できるのでしょうか。クボタが挑む営農型太陽光発電の現場を訪ねました。

農業を続けながら発電する。その仕組みとは

営農型太陽光発電の下で麦が生育している様子

「宇都宮プロジェクト」と呼ばれるクボタの営農型太陽光発電のほ場。ここでは麦が栽培されています。

営農型太陽光発電の特徴は、農業を継続する事を大前提として発電設備を設計している点にあります。クボタの発電設備では、太陽光パネルの間隔や高さを工夫することで、米や麦、大豆などの栽培と農業機械による作業が可能な設計となっています。

上空から見た太陽光パネルの下で行われる田植えの様子

太陽光パネルの下で行われる田植え。この場所で農業を続けられるか。その挑戦は、一枚一枚の田んぼから始まっています。

こうした取り組みを進める中で、クボタは営農型太陽光発電をどのような事業として位置づけているのでしょうか。その考え方について、GX事業開発部の谷直人(たに なおと)さんに話を聞きました。

クボタ 農業機械事業部 GX事業開発部 谷 直人さん

クボタ 農業機械事業部 GX事業開発部 谷 直人さん。

農地を守るために、農地の役割を広げる

「農業の活性化を図るためには、農地が作物の生産だけではなく、新たな役割を持つ必要があると考えたのが起点です」

営農型太陽光発電に着目した背景について、谷さんはそう説明します。農地を「2階建て」として活用するという発想も、そうした考え方から生まれました。

これまで農地は作物を生産する場所としてのみ利用されてきました。しかし営農型太陽光発電では、1階(農地)では食料を、2階(上空)ではグリーン電力*1という新たな価値を生み出すことができます。食料とエネルギーという異なる価値を、一つの農地から生み出す発想こそが、本事業の出発点となっています。

  1. *1.グリーン電力とは太陽光、風力、地熱などの自然エネルギーによって発電された電力のことで、発電の際にCO₂を排出しないのが特徴です。

では、こうした営農型太陽光発電は、どのような農地で展開されているのでしょうか。谷さんは、本事業を進める上で最も重要なのは「農地を維持すること」だと話します。

「私たちが対象としているのは、すでに耕作放棄地となった農地だけではありません。今は耕作されていても、担い手不足や高齢化などによって、将来的に維持が難しくなると予想される農地も含まれています」

現在は作付されていなくても、地権者が周囲に迷惑をかけないよう除草管理だけを続けている農地。あるいは、立地条件などから農業がしづらく、引き受け手の確保に不安を抱えた農地など、そのような土地は全国各地で増え続けています。

田畑別耕地面積の推移図

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昭和36年をピークに、日本の耕地面積は減少を続けています。営農型太陽光発電は、こうした農地を未来へつないでいく新たな選択肢の一つとして期待されています。(参照:農林水産省 田畑別耕地面積の推移より)

そうした農地を活用しながら、営農を続けられる仕組みをつくること。そこにクボタが本事業に取り組む意義があります。

「私たちは、『農業を支える人を支え続ける取り組み』をめざしています。一つの農地から作物と電力という二つの価値を生み出すことで、耕作放棄地の解消や農業生産者への新たな収益機会の創出、新規就農の促進につながると考えています」

この構想の実現には、クボタだけでなく、地元農家や自治体、金融機関、電力需要家など、さまざまな関係者との連携が欠かせない。谷さんはそう話します。

さらに、営農型太陽光発電が持つ可能性は、地域農業の活性化にとどまりません。日本では食料自給率の低下が課題となる一方、エネルギー自給率も諸外国と比べて低い水準にあります。

食料を生産する農地が、同時に再生可能エネルギーを生み出す場所にもなる。限られた土地をどう生かし、食料とエネルギーをどう支えていくのか。谷さんは、本事業を「食料安全保障」と「エネルギー安全保障」という二つの課題に対する解決策の一つと捉えています。

我が国と諸外国の食料自給率(2022年)の図

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食料をどこで、どのように生産し続けるのか。食料自給率のデータは、日本の農業が抱える課題を改めて浮かび上がらせています。(参考:農林水産省)※日本のみ2024年の数値

我が国と諸外国のエネルギー自給率(2023年)の図

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限られた資源をどう活用し、エネルギーを生み出すのか。農地の上空で発電する営農型太陽光発電は、その問いに向き合う一つの試みです。(参考:経済産業省 資源エネルギー庁)※日本のみ2024年の数値

農業を起点に、発電設備を設計する

本事業では、クボタが発電設備の保有・運営から発電した電力の利用までを担い、太陽光パネル下での営農は株式会社アグロエコロジー(本社:栃木県芳賀町)が担当しています。

営農、発電、エネルギー利用を一つの仕組みとして構築した事業スキームの図

※拡大画像を見る
農業を続けることを前提に、営農、発電、エネルギー利用を一つの仕組みとしてつないでいます。

「農業は、地域ごとに環境や文化、栽培方法が異なります。そのため、営農については地域で実績を持つアグロエコロジーに担っていただいています。一方、クボタは発電設備の運営を通じて事業の継続性を担保しています」

谷さんは、こうした役割分担が本事業の特徴だと説明します。

営農型太陽光発電は、農業ができて初めて成立します。そのためクボタでは、設備設計の段階から農業機械による作業を前提としてきました。

例えば、トラクタや田植機、コンバインなどが作業できるよう、支柱は縦横5m間隔で配置し、高さは3.1mに設定しています。さらに農地の端部には、これらの農業機械が旋回できるスペースも確保しています。また、作物の生育に必要な日射量を確保するため、太陽光パネルの配置や遮光率にも工夫を重ねています。

営農型太陽光発電の下で作業を行う大型トラクタによる耕うん作業

大型トラクタによる耕うん作業。太陽光パネルは、大型農機による営農を前提に、十分な作業空間を確保できるよう設計されています。

ほ場端部では、農業機械が旋回できるスペースが設けられた様子がわかる上空写真

ほ場端部では、農業機械が旋回できるスペースが設けられています。

こうした設備仕様は、作物ごとに適した発電設備のあり方を検討しながら、営農を担うアグロエコロジーと、長年農業現場に向き合ってきたクボタ、それぞれの知見を踏まえて決定されました。

太陽光パネル下で、新たな栽培方法をつくる

では、太陽光パネルの下で行われる営農には、どのような課題や工夫があるのでしょうか。農地の1階部分の営農を担うアグロエコロジーでは、米や麦、大豆などを栽培しています。現場を担当する小林了司(こばやし さとし)さんは次のように話します。

「通常のほ場と比べて最も違うのは日射量です。現在、パネルの下は遮光率33%となっているため、慣行栽培と同じやり方では生育に差が出てしまいます」

株式会社アグロエコロジー 小林 了司さん

株式会社アグロエコロジー 小林 了司さん。

実際に営農型太陽光発電のほ場では、太陽光パネルの下とそれ以外の場所で生育の進み方に違いが出ることもあります。例えば麦では、パネルの下で色づきが遅れたり、栽培方法によって倒伏のリスクが高まることがあるといいます。

そこで、収量や品質を確保するため、小林さんたちが重視しているのが「土づくり」です。その土づくりを支えているのは、同社が展開する畜産事業です。

同社では、牛ふんを活用した堆肥づくりに取り組んでいます。さらに地域の未利用資源を活用しながら土壌環境を改善し、作物が健全に生育できる環境づくりを進めています。現場では、こうした知見を積み重ねながら、営農型太陽光発電に適した栽培方法の確立を進めています。

「遮光された環境下であっても、品質については問題なく栽培できています。耕作放棄地だった農地でも土づくりを続けることで収量が向上してきた場所があります。少しずつですが、現場では手応えも感じています」と小林さんは話します。

クボタとの協働によって進められているのは、営農型太陽光発電を一過性の取り組みで終わらせず、農業として成立させるための仕組みを築いていくことです。

「若い世代が未来に希望を持ちながら農業を続けられるような、新しい産業モデルをつくっていきたいです。農業、エネルギー、スマート技術を組み合わせた新しい挑戦は、一社だけでは実現できません。クボタと協働することで、一社では実現しにくい取り組みにも挑戦できることに価値を感じています」

その挑戦は、営農型太陽光発電の現場で今も続いています。

太陽光パネルが設置されたほ場で、農地の2階建ての可能性について語り合う谷さん(左)と小林さん(右)

太陽光パネルの下で作業するトラクタ。その風景を見つめながら、農地の2階建ての可能性について語り合う谷さん(左)と小林さん(右)。

地域ごとのルールと向き合い、事業を前へ進める

一方で、事業を進める中では想定以上に難しい場面もありました。

発電設備の設置にあたっては自治体などから事前に許可を取得する必要があります。しかし、営農型太陽光発電に関するルール、ガイドラインの運用において自治体ごとに異なるケースがあり、設置事例の少ない地域では、国の制度を確認しながら着実に進める必要がありました。

谷さんは、自治体ごとの考え方や地域事情に歩調を合わせながら、一つひとつ手続きを進めてきました。そのため、許可取得までに多くの時間を要した地域もあったと振り返ります。

また、不適切な営農型太陽光発電の事例を減らし、自治体ごとの運用に左右されない制度づくりも必要だといいます。事業者と行政機関、金融機関などが連携し、事業リスクを低減できる環境を整えることが、営農型太陽光発電を持続可能な産業へ育てる上で重要だと考えています。

谷さんは、適切な営農型太陽光発電のモデルをクボタが示し続けることこそが、地域の理解や制度の成熟につながり、やがて社会全体の流れを変えていくと捉えています。

営農型太陽光発電を、当たり前の風景にする

上空からみた田園風景

田園風景の中に広がる営農型太陽光発電のほ場。太陽光パネルは、地域の風景に溶け込んで見えます。

「発電のために農業をしているのではなく、農業を続けるために発電もしている。農業が続いてこそ、営農型太陽光発電として意味があると考えています」。谷さんは、本事業の根底にある考え方についてそう語ります。

現在、クボタでは本事業によって生み出した電力を、自社の製造拠点へ供給しています。これはクボタが進めるカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環です。また、クボタにとって営農型太陽光発電は初めての事業であることから、まずは自ら電力を活用する形(自己託送*2)としてスタートしました。

その先に見据えているのが、地域の中で電力を活用する仕組みです。谷さんは、その姿を「地域の資産」と表現します。

「例えば、発電した電気が市役所で使われたり、発電設備の下で栽培された作物が道の駅や地元の飲食店で提供されたりする。また災害時には非常用電源として活用される。そうした形で住民の方々から『あってよかった』と感じてもらえることが大切だと思っています」

クボタの営農型太陽光発電が生み出す価値は、発電や収益だけではありません。農地を維持しながら、食料とエネルギーの双方を地域の中で循環させる。谷さんが語る「地域の資産」とは、そうした取り組みが暮らしの中に根づいた状態を指しているのかもしれません。

「将来、地域の子どもたちが農地の絵を描いたとき、営農型太陽光発電を特別なものではなく、当たり前の風景として描いてくれる。そんな状態になればいいなと思っています」

クボタは、その可能性に挑戦しています。

  1. *2.自己託送とは、遠隔地にある自社発電所で発電された電気を、送配電ネットワークを通じて自社設備へ送電する仕組みのこと
営農型太陽光発電の前で笑顔を見せる谷さん

「社会に残る仕事」をめざして現場に向き合う谷さん。その思いは、営農型太陽光発電という新しい挑戦の中にも息づいています。

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