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農業の未来と明日への希望を子どもたちの笑顔に託す大自然の中で、発見・挑戦・思いやりの心を育む『地球小屋』の夏休み

2018 . 09 . 20 / Thu

大自然の中で、発見・挑戦・思いやりの心を育む『地球小屋』の夏休み

文・写真:クボタプレス編集部

地球環境や人々の生活を支える製品・技術・サービスを創出し続けているクボタ。「食料・水・環境」をテーマに、耕作放棄地再生支援や農業への理解促進のための体験教室、水環境の乏しい地域に安全な飲み水を提供する海外水環境改善活動など、さまざまな社会貢献活動にも取り組んでいます。その活動の一環で、農業を通じて自然とふれあい、子どもたちに「食・水・環境」の大切さを学んでもらうサマーキャンプ型環境授業、クボタeプロジェクト『地球小屋(TERRA-KOYA)』を2007年より開催。今夏も長野県池田町・カミツレの里で実施しました。実際に土に触れながら過ごす3泊4日の体験型プログラムから、子どもたちはどのようなチカラを育んだのでしょうか。講師を務める竹内孝功さんのメッセージをお届けします。

すべては「食べることが好き」から始まった

照りつける真夏の太陽。ホクホクとした土の匂い。そして、みずみずしい野菜を手にした子どもたちの笑い声。長野県池田町「カミツレの里」で『地球小屋(TERRA-KOYA)』に参加する子どもたちは、元気いっぱい。有機農業を指導するのは、長野県長野市で無農薬・家庭菜園教室を営む竹内孝功さんです。2015年から続けて講師を務めている、いわば“地球小屋先生”。まずは竹内さんに、農業を始めたきっかけなど、これまでの道のりを伺いました。

――初めに、竹内さんの経歴を聞かせてください。

竹内さん:
もともと、食べることと料理が大好きだったんです。大学時代は今で言う出張料理人のようなことをしていて、友達のそのまた友達といった知らない人の家で、中華料理の宴会メニューを作っていました。
あるとき、せっかくだからと減農薬の野菜を使い、鶏がらスープの素ではなく、デパートで買った名古屋コーチンの鶏がらでスープを取ってみました。 すると、「疲れが取れる」「胃がもたれない」「食べた後に舌がピリピリしない」と噂に。それから予約が入るようになりました。

――ご自身もその変化に驚いたのでは?

竹内さん:
食べ物でここまで変わるんだ、食べることってこんなに重要なんだ、と思い知りました。そんなとき、福岡正信さんの『わら一本の革命』を読み、これだ! と。市民農園に応募して4m×5mの小さな区画家庭菜園を始めました。毎朝、畑で種まきなどをしてから、鍬を持ったまま大学に通っていましたね(笑)

――家庭菜園は最初からうまくいきましたか。

竹内さん:
いえいえ、まったく何もできませんでした。芽が出ても、草なのか野菜なのか分からないほどで。そこで大学時代に、九州などで無農薬農業の諸先生方のところを訪ね、勉強させていただいたのです。卒業後は、無農薬の野菜を売る自然食品店に勤めました。同じ無農薬の野菜なのに、自分で育てた野菜と商品の野菜は、何かが決定的に違う。たとえ売り物よりも小さく、みすぼらしくても、自分の野菜なら「どうにかして美味しく食べてあげよう」と考えるわけです。自分のなかで、育てた野菜と売り物の野菜の違いがどんどん大きくなっていき、これはもう本格的に農業をやるべきだと決心しました。

――ついに職業としての農業をスタートしたのですね。

竹内さん:
最初は農業だけで生活できず、家庭教師や塾の講師といったほかの仕事もしていました。しかし、どっちつかずの生活になって、どうしようかとジレンマを抱えていたとき、(公財)自然農法国際研究開発センターに行く機会があり、「無農薬の家庭菜園を教えればいいんだ!」と思い立ったのです。自分は無農薬農業の失敗も成功も経験している。だったら家庭教師ではなく、家庭菜園の先生をやってはどうかと思い、11年前に家庭菜園の教室を開業。好きなこと・得意なこと・人に喜んでもらえること。3つの輪が重なる真ん中の仕事が、ようやく見つかりました。

――子どもたちに農業を教えるようになったきっかけは?

竹内さん:
私は農学部出身ではないし、実家が農家でもありません。だからか、教えるときに農業用語が一切出てこないんですよ。例えば、“間引”でなく「ベビーリーフで収穫」とか、“灌水”の代わりに「水やりは雨のように降らそう」と言います。それが分かりやすいということで、学校に呼ばれるようになり、農産漁村文化協会が窓口をする食農教育の講師を務めるご縁をいただきました。そして、子どもたちと農業をする活動が雑誌に取り上げられ、クボタの地球小屋に講師として呼ばれたのです。

教えれば教えるほど、子どもたちの目は輝く

今年で12年目を迎える地球小屋は、子どもを対象とした授業ながら、本格的な内容です。一見、困難に思える理論・農法でも、子どもたちは柔軟な頭と心ですんなり理解し、自身の成長につなげていきます。なかでも授業を通して、竹内さんが最も伝えたいのは、“育てて食べることの幸せ”だと言います。

――地球小屋に参加している子どもたちには、どのようなタイプが多いのでしょう?

竹内さん:
純粋に農業が好き、または興味がある子が多いように思います。先ほど野菜を収穫した際は、自分で収穫したい野菜について熱心に耳を傾け、たくさん質問してくれました。子どもたちの家がみんな農家とは限りません。家が農家の場合、親が農家を継がせたくない考えで、農業とあえて切り離して育てようとする家庭もありますし、バックグラウンドよりも、その子の自主的な興味が際立っているように見えます。

――竹内さんのお話は、草を刈って地上部に敷く“草マルチ”など、難しい内容も多いと感じます。子どもはすぐに理解していますか。

竹内さん:
先入観のない分、子どもは知識がスーッと入っていきます。それに、子どもだからって、簡単にかみ砕いて話さなければいけなくはないんですよ。きちんと一個人として接すると、大人にはない豊かな感性や発想で、こちらが考えている以上の反応を返してくれるものです。

――地球小屋の活動では、どんなことを心掛けていますか。

竹内さん:
子どもたちは、みんな敏感なセンサーを持っています。収穫したてのキュウリの香りやイボイボを五感で楽しみ、大切そうに食べる。言葉では説明できないような、そういった本能的な良さを引き出してあげたいですね。簡単に言うと、その人らしさや個性・才能。ふだん気づきづらい小さな可能性が、地球小屋で一つでも開花してほしいと願っています。

――3泊4日の間に、野菜の好き嫌いがなくなる子もいるそうですね。

竹内さん:
昨日もスイカが嫌いだという子に、一番甘い部分を薄くスライスしてあげたら、「おいしい!」と感動して、そこからモリモリ食べていました(笑) ピーマンが嫌いな子には、油を使わずに空焼きにすると、パプリカのような甘味が出て、こちらも食べてくれました。野菜をいっそうおいしく味わうには、料理の工夫がやっぱり大切です。おいしく食べられたら、野菜を育てることも楽しくなりますよね。
農業でも何でも楽しいのが一番。その“楽しさ”を生むのは、新しい発見や理解だと思います。3泊4日中に野菜のおいしさに気づく子もいれば、「昔育てていた朝顔が枯れた理由が分かった!」と理解する子もいます。また、大好きなお米ができる過程に触れ、よりお米を好きになった子もいます。発見をした子どもの目って、キラキラ輝いているんですよ。そんな瞳を間近で見られるのは、講師の醍醐味です。

野良仕事は、野も人も良くする

“野良仕事”という言葉が好きだ言う竹内さん。「野を良くすることに仕える」のが野良仕事。野菜だけでなく、人を育てることもできるからだと語ります。農業のどのような側面が、生きた教育となるのでしょう。

――親元を離れて過ごす3泊4日、子どもたちは寂しがりませんか。

竹内さん:
寂しくても、親と離れて自分の時間を意識することは、大切だと思います。家族がそばにいないからこそ、「今度、これを家族でやってみたい」と感じるわけですから。なかには、親と離れることで、深く呼吸ができるようになったと話す子どももいるんです。小学生とはいえ、日々の生活でさまざまなプレッシャーを感じているんですね。その子はここで、とても元気に過ごしています。日常生活では、どうしても人間関係に縛られるじゃないですか。でも地球小屋なら、新しい人との出会いはもちろん、新しい自分とも出会える良いチャンスがあります。

――子どもたちには、どんなことに気づいてほしいですか。

竹内さん:
地球小屋では初日、一人ひとりに好きな野菜と嫌いな野菜を書いてもらいます。自分が好きな野菜は、誰かにとって大嫌いなものかも。それぞれの意見を聞き、人と違っていても構わないことを体で受け入れてほしいと考えています。また、“もったいない”という感覚も体感してほしい。例えばお米がどうやってできるかを知ると、一粒だって残せなくなるものです。理屈でご飯を残してはいけないのではなく、自分の体験によって受け入れたことは、ずっと忘れないはずですから。

――どのように話をすると、子どもたちは受け入れやすいでしょうか。

竹内さん:
自発性を促すようにしています。例えば、「この後スイカだよ」とは言うけれど、「頑張った人にスイカをあげるよ」という言い方はしません。あくまでも自分でモチベーションを高めることが大切です。ちょっとした声掛けの違いですが、この点はすごく重要な気がします。

――「こうしなさい」と押し付けては、いけないのですね。

竹内さん:
やっぱり自分で考えないと。家庭菜園教室でも、私はあまり「こうしてください」と言わないようにしています。「こういうやり方がありますよね。あなたの畑ではどうですか」と話します。プランターに水をやるタイミングを聞かれとしましょう。まず「野菜の立場なら、昼に水をかけるとお湯になって、根っこが熱いですね。では、どうしますか」と尋ね、自分で答えを導いてもらいます。野菜の身になって考えることを繰り返すうち、きっと人間同士の付き合い方もうまくなっていきますよ。

――地球小屋の授業は、人の内面に種をまいているようだと思えてきました。

竹内さん:
「3歳までの食事がその人の味覚を作る」と言います。地球小屋での経験が、自分のベースになっていけばよいですね。どんな花が咲いて、どんな実を結ぶか。それは僕にはさっぱり分からないけれど、健やかな芽が出るためのきっかけを作ってあげたいと思います。

それぞれの畑、それぞれの人と想い

「それぞれ、その人らしく農業と共に生きていければ」と伝えている竹内さん。無農薬農業を実践しながらも、「無農薬で作ってほしいなんて、全く思っていません」と笑います。なぜならば、「農業に携わる人の数だけ、理想とする農業があるから」。その真意と “農業の今後”について、最後に伺いました。

――農家になるのではなく、家庭菜園を仕事にされた理由を教えてください。

竹内さん:
家庭菜園だと、無農薬栽培などを自由にできるからですね。家庭菜園は自分のために育てていて、損得ではないのです。一方、農家さんの畑は、効率が当然求められるため、携わる人の考え方によって、農薬を必要とする場合もあるでしょう。そこに正解はなく、それぞれに心地よく続けていける方法があるだけ。ただ中山間地域や小さすぎる土地、農機が入りづらい立地など、本職として農業が行いづらい場所はあって、そのような場所を家庭菜園に活用するのは、一つの理想形ではないかと考えています。

――農家の方は、概して家庭菜園をどのように見ているのでしょうか。

竹内さん:
昔は、自分で作ると農家さんの野菜を買わないからって、嫌がられた時代もあったそうです。今はすみ分けができているように感じます。農家さんは早め早めに作りますから、旬の走りの野菜を提供することになりますし、家庭菜園では季節の盛りや名残の滋味深い野菜が手に入ります。ほら、同じ川でイワナとヤマメ、ニジマスが濁った所・きれいな所に分かれて共存しているじゃないですか。これから耕作放棄地はどんどん増えていくでしょう。そこに家庭菜園がうまく組み込まれれば、農業に潤いが生まれると期待しています。

――ほかにも、日本の農業が今後変わればよいと感じている点はありますか。

竹内さん:
農業を通じて、もっと繋がりが持てればいいなと思っています。人と人、都市と地方。例えば、都会の人が地方の野菜の直売所で買った野菜の味に感動して、その地域に興味を持つこともあるでしょう。昨今はリモートワークが可能な会社が増えていますから、完全な移住でなくとも、都会に住みながら地方を支えるといった新しい価値が生まれやすいはず。都会の人と地方の人が繋がりを深めつつ、農業も活性化していくとよいですね。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に、子どもたちに農業指導を続けるうえでの原動力は?

竹内さん:
この役割についているからこそ得られる、勉強のチャンス。子どもたちの見方にハッとさせられることもありますし、鋭い質問を投げかけられて調べ直すことも多く、とにかく勉強になります。個人なら、年に一度しか家庭菜園ができないところ、生徒さんが1000人いたら1000パターン、つまり1000年分の学習ができます。自分自身の成長、そして日本農業の発展のためにも、子どもたちにはもっともっと農業に触れてもらいたいです。これからも、このような活動はいくらでもしますよ。農業についてお話することは、私の天職です。

純粋な感性と視点で農業を楽しむ子どもたちの反応は、驚きや発見に満ちています。農業や自然に触れる機会が減ってきている今日、参加している子どもたちの興味の深さ・熱心さは、クボタプレス編集部にとっても非常に印象的でした。また、家族と離れて過ごす時間に自分を見つめ直し、だんだん積極的にプログラムに関わっていく様子は、とてもたくましく感じられました。そのような子どもたちが少しでも増えてくれることで、日本の農業への関心を高める一助になるのではないでしょうか。
未来を担うたくさんの子どもたちが、カミツレの里で体験した地球小屋の4日間。竹内さんのお話、新しい仲間と過ごした時間、そして自分たちで収穫したばかりの野菜の味…… 発見や経験の数々が、それぞれの芽を育む栄養となることを願っています。

■北アルプスの自然につつまれる「カミツレの里」

安曇野の山々に囲まれた自然豊かなふるさとへ、ようこそ――。雄大な北アルプスとのどかな田園が続く景観から、未来に残したい村とも呼ばれる長野県北安曇郡池田町。毎年5月中旬から6月上旬になると、満開のカモミールがあたり一面を覆い、甘くやさしい香りに包まれます。
今から36年前、カミツレ研究所の創業者・北條晴久氏が“生まれ故郷に恩返しを”と想いを込めて、土壌と水が清らかなこの地に、カモミール畑とカミツレエキスの製造工場をつくりました。建材から料理まで地産の自然素材にこだわった「カミツレの宿 八寿恵荘」を中心に、収穫体験や自然体験教室、森林の里親活動などのさまざまなプログラムを行い、自然そして人とふれあう場を提供。今日では、「花とハーブの里・池田町」を掲げて町おこしを行うなど、地域との共生も大切にしながら、訪れる方が心身ともリラックスできる場所となるように「カミツレの里」を開放し、カモミールのすべてを体感できるおもてなしをしています。

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