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コロナ禍で求められる地域の交流拠点「こども食堂」を通して一人ひとりができる社会貢献

2022 . 10 . 20 / Thu

コロナ禍における「こども食堂」の様子

文・写真:クボタプレス編集部

NPO法人や地域ボランティアが子どもたちに食事を提供する「こども食堂」は年々増え続け、今や全国に6,000カ所以上もあります。

次世代支援活動を進めてきたクボタでは、地域交流拠点としての役割を担うこども食堂の趣旨に賛同し、認定全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下「むすびえ」)を通じて、約560カ所のこども食堂に新米を寄贈しました。

現在のこども食堂とはどのような場で、なぜコロナ禍においてもここまで増え続けているのでしょうか。むすびえ理事長の湯浅誠さんに、その存在意義、コロナ禍での変化、個人や企業に今後求められる支援の形など、こども食堂の最新事情と今後の展望について聞きました。

毎年増え続ける「こども食堂」とは

こども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂です。東京・大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん」の店主が2012年に店内の一角で始めたのが先駆けと言われており、その数は増加の一途をたどっています。

こども食堂の食事風景

「こども食堂」の一つの食事風景。単に子どもに食事を提供する場としてだけでなく、地域住民のコミュニケーションの場としても機能している。

むすびえは、各地域のこども食堂ネットワークを支援し、こども食堂と支援企業・団体をつなぐサポートを行い、啓発や調査研究を行っています。むすびえでは、2018年から毎年、全国のこども食堂地域ネットワーク団体などの協力を得て、全国にこども食堂が何カ所あるかを調査していますが、2021年、6,014カ所となったことがわかりました。

全国の「こども食堂」の箇所数推移

毎年増え続ける全国のこども食堂数を調べた棒グラフ

こども食堂の全国箇所数調査において、2021年は6,014カ所に。2018年の調査以来、毎年1,000カ所以上増えている(出典:むすびえおよび地域ネットワーク団体調べ)。

こども食堂はもともと民間の個人や団体が自主的に始めた活動で、スタッフも基本はボランティアです。長引くコロナ禍で飲食店が大きな打撃を受けるなか、運営が行き詰まっても不思議ではないこども食堂が、この2年間も増え続けているというのは驚くべき事実です。

コロナ禍で形は変わっても、変わらない「居場所」としての意義

「ここまで増えたというのは、人々が暮らしの中で直面する課題を何とか解決しようという『芽』が社会の中にあるからだと思います」と語るのは、むすびえの理事長で社会活動家でもある湯浅誠さんです。

全国子ども食堂支援センター・むすびえ理事長の湯浅誠さん

湯浅誠(ゆあさ まこと)さん。社会活動家。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。1990年代よりホームレス支援・生活困窮者支援に従事。内閣府参与、内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長などを歴任。2018年全国のこども食堂を支援するための民間団体「全国こども食堂支援センター・むすびえ」を設立、理事長に就任。

湯浅さんによると、こども食堂の食事提供は、これまでみんなで一緒に集まって食べる形式が主流でしたが、コロナ禍で大半がそうした会食型の食堂を開けなくなり、代わりにお弁当や食材を配布する「フードパントリー」を始めたそうです。

ちょうど初の緊急事態宣言が発令された日に、こども食堂の運営者たちとLINEグループでやりとりをしていたという湯浅さん。最初は「学校が休校になったら、子どもの預け先に困って働けなくなる親が増えるのでは」とグループ内はパニックになったものの、約3時間後には「フードパントリーに切り替えることに決めた」と運営者の一人が発案し、賛同する動きが全体に広がっていったとのこと。

「皆さん、切り替えが速く、たくましい。もともと冷蔵庫のあり合わせで食事をつくることに慣れている方々だけに、あれがないとできないとは決して言いません」

これは実は「できる人が、できることを、できることから」という地域活動や非常時の鉄則。例えば被災者が200人駆け込んできた避難所に、今は毛布が100枚しかないから残り100枚が揃うまで配らないというのでは物事は動かないため、できることから始めるしかないのだと湯浅さんは言います。

こども食堂が食品を配布するフードパントリーの役割を担う様子

初の緊急事態宣言発令後、こども食堂の多くが食堂を開けなくなった代わりに、食品やお弁当を配布するフードパントリーを始めました。

コロナ禍においても、人と人とのつながりをつくる場であるという「こども食堂」の役割は変わらないと湯浅さんは続けます。

「私は全国のこども食堂に行くたびに、大人にも子どもにもなぜここに来ているのかと聞きますが、いちばん多いのは『ここに来れば、たくさんの人に会えるから』という答えです。そこはコロナ禍でもまったく変わっていません。だから今、食材やお弁当を配布する人たちも、たとえ会食はできなくても対面することが大事だと言います。とにかく顔を合わせて、渡すときに一言でも声をかけたい、と」

運営するこども食堂の主な目的(複数回答)

こども食堂運営の目的について運営者に尋ねた調査結果の円グラフ

運営するこども食堂の主な目的について聞いたところ、「子どもの食事提供」が最多、次いで「子どもの居場所づくり」が8割以上を占め、多世代交流や地域づくりも半数以上という結果に(出典:むすびえが2021年に実施した第1回全国こども食堂実態調査結果より)。

その一方で、変わったのは、困窮している人の割合が増えたことだそうです。

「もともと、こども食堂は困窮している人が行く場所だと思っている人もいるかもしれませんが、本来は地域交流の場であり、経済的に厳しい家庭の子どもばかりが行くところではないのです」と湯浅さん。ところが、行政からの紹介や口コミを頼りにフードパントリーに来る人が増えたため、生活が大変な人の割合が増加。また、食事型だったときと比べると1対1で話す機会が増え、個々の家庭の経済事情が把握しやすくなったこともあるようです。

こうした変化によって、支援が必要な人に届いていることが実感できる半面、本当は地域交流の場に戻したいのにやめられないという運営者もいるのが実情です。

企業の支援の形と「こども食堂」における新米の意味

湯浅さんによれば、コロナ禍におけるこども食堂のもう一つの変化として挙げられるのが、以前より企業の支援が増えたことです。

「クボタeプロジェクト」を2008年度にスタートし、その一環として「出前授業」や「農業体験教室」などの次世代支援を行ってきたクボタグループでは、地域交流拠点としての役割を持つ「こども食堂」の趣旨に賛同し、2021年11月から合計約54トンの新米を全国約560カ所のこども食堂に寄贈しました。

クボタからの新米の寄贈に関し、湯浅さんは「日本人の主食であるお米はこども食堂にとっても、なくてはならないもの。しかも秋口に回ってくるのは前年の古米が多いなか、新米の価値は格別なものでした」と語ります。こども食堂の運営者からは「ちょっと贅沢なお米を皆さんに喜んでいただきました」「自転車で受け取りにこられた方が、『うれしく、ありがたい重さです』とおっしゃった」など、お礼の手紙やメールが続々届きました。

クボタがこども食堂に寄贈した新米

クボタグループが未来を創る次世代に対する支援のため、全国約560カ所のこども食堂に寄贈した新米。

湯浅さんは、クボタから寄贈されたお米自体がありがたかったことに加え、大企業の支援にはそれ以上の意味があると言います。

「つまり『こども食堂とは、あのクボタも応援している活動なのだ』と地域や社会が受けとめる、ということです。こども食堂はいちばん長いところでも10周年ですから、やや遠巻きに見ている人もまだ少なくありません。自分の子どもを行かせて大丈夫なのかと二の足を踏む人もいます。そういうとき、あの企業も応援してくれているという事実が、信頼性を高めてくれる。そういうご支援のメッセージ性は大きく、とてもありがたいことなのです」

クボタが新米を寄贈したこども食堂から届いた写真やメッセージ

クボタグループの新米寄贈に対し、こども食堂から届いたメッセージや写真の一部。

もっと拠点を増やして誰でも立ち寄れる多世代交流の場に

湯浅さんは、こども食堂はまだまだ増え続ける可能性があると言います。

「実はこども食堂ばかりに任せなくても、自治会、コンビニ、寺社、高齢者施設、郵便局など、生活支援拠点になりうる場は全国に数多くあります。例えば、東京の各自治会の多くは首都直下型地震に備え、防災備蓄倉庫に食料を保管しています。コロナ禍は自然災害ではありませんが、災害に近い状態ともいえます。将来、同様の事態が起こった際、そのうちの1割でも動いてくれれば、われわれの社会の未来は安泰ではないでしょうか」

 むすびえでは、今後そうした業界との連携を進め、2025年までにこども食堂を20,000カ所にすることをめざすとのこと。20,000という数字の根拠は全国の小学校数。つまり、これが達成できれば、一つの小学校区の中に必ず一つはこども食堂がある社会が実現するのです。

「将来は小学生の登下校を見守るボランティア活動ぐらいには、当たり前になってほしいですね。うちの向かいのおじいちゃんも参加していて、朝よくビブスを着て出てくるのに出くわしますが、あのぐらいの感じになったらいいな、と。こども食堂もあそこまで認知されれば特別扱いする人もいなくなり、『地域のみんなで子どもの育ちを応援できたらいいね』ということになるはずですから」

湯浅さん

2025年までに全国のこども食堂を20,000カ所に増やしたいと語る湯浅さん。

最後に、私たち一人ひとりがこども食堂に対してできる、寄付やボランティア以外の身近なこととして、どのようなことが挙げられるか、湯浅さんにアドバイスをいただきました。

「こども食堂とは食べられない子どもが行くことだと誤解している人がまだまだ大勢いますから、一度足を運び、実際の様子をSNSなどで発信するだけでも、広報協力につながります。また、自分が行くと困窮している人の分を食べてしまうから行かないほうが支援になるというのもよくある勘違いで、子どもは無料、大人は有料の場合が多く、むしろ大人がたくさん食べてくれたほうが、より多くの子どもに食事を提供できることになります」

誰もが気軽にこども食堂に立ち寄り、食事をともにしたり、お弁当配布の手伝いをしたりするようになれば、こども食堂は社会貢献ができる最も身近な場所になるのだと、湯浅さんはしめくくってくれました。

編集後記

湯浅さんの力強いメッセージに、やや縁遠い場だと感じていたこども食堂を身近に感じることができ、現代日本の地域コミュニティは決して失われてはおらず、自分にもできる支援があるのだという気持ちになりました。

しかし、その一方で、いざ自分自身がこども食堂に足を運ぼうとすると、抵抗がある方もいるかもしれません。そこで、クボタプレスでは、実際に大阪府豊中市で活動を行っている「団欒(だんらん)こども食堂」を取材。コロナ禍でお弁当をつくり、食品を集め、それを配布するという半日の活動に密着した様子を、回を改めてレポートします。

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