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北の大地に新しい風景を。搾乳パーラー排水処理装置が支援する、酪農の大規模化

2019 . 07 . 09 / Tue

搾乳パーラー排水処理装置が支援する、酪農の大規模化

文・写真:クボタプレス編集部

日本人の主食である米と並び、日本で生産される割合が高いのが、牛乳・乳製品です。かねてから「日本の食料基地」として知られる北海道は、全国の牛乳の約54%*1を生産しています。まさに北海道の酪農なくして、日本の牛乳・乳製品の自給率確保は不可能だと言えるでしょう。しかしそんな北海道の酪農家はいま、「高齢化」や「後継者不足」、そして「排水の増大」など様々な問題に直面しています。排水についての問題解決に向けて動き出した人々に話を聞きに、クボタプレス編集部は北海道へ向かいました。

  1. *1.平成25年度 農林水産省 「牛乳乳製品統計」より

大規模化・法人化が進む北海道の酪農

日本ではいま、農作だけでなく、畜産においても高齢化、後継者・担い手不足が深刻な問題になっています。そのため主要畜種の飼養戸数(牛や豚などを飼育している畜産農家戸数)は全ての畜種において年々、減少。酪農家戸数は20年間で37,400戸から15,700戸まで減少し、これは年間で約700戸、1日2戸の廃業が続いている計算になります。生乳生産量も20年前の約855万トンから約730万トンまで約15%減少しました。一方で北海道ではその生乳生産量が近年増加傾向に。2010年度には都府県の生産量を超え、2017年度は全国の約54%を生産しました*2

  1. *2.農林水産省:「畜産統計」「牛乳乳製品統計」

しかしながら高齢化や後継者・担い手不足は当然、北海道でも抱えている問題。北海道はこうした問題に直面しながらも、どのように生乳生産量を高めたのでしょうか。これを考えるうえでキーワードになるのが酪農の「大規模化」。農林水産省が発表した「畜産統計」では、畜産における1戸当たりの飼養頭羽数が増加しており、大規模な経営体に生産の集積が進んでいることを意味します。高齢化によって離農が進行するなか、北海道は1戸当たりの経営規模の拡大と、1頭当たりの乳量の向上によって生乳の採算量を維持しているのです。北海道では年間出荷乳量が1,000トンを超える「メガファーム」が増えており、その数はここ10年で1.5倍に拡大しました。

畜産の大規模化に伴い顕在化してきた課題とは

農林水産省は、酪農の大規模化・法人化について、経営面や制度面はもとより、地域農業の維持発展においてもさまざまなメリットがあるとしています。従業員の雇用環境が安定することで、従業員の増加や、一貫経営に取り組むための繁殖技術を持った人材の登用など、新たな人材の雇用に有利であること。また経営管理を徹底する必要があるため、生産コストの合理化が図られるといった経営管理面におけるメリットもあるとされています。

酪農において最も労力を割かれるのは搾乳の時間。大規模化した農家にとってパーラー搾乳機は欠かせない施設になりつつあります。

しかしメリットの陰にある問題のひとつとして、「酪農の大規模化にともない、“排水”の問題が表面化してきていることです」と話すのは、クボタ浄化槽システム株式会社(以下、クボタ浄化槽システム)の浜本誠司さんです。浜本さんは株式会社北海道クボタ(以下、北海道クボタ)で酪農家向けのトラクタ、インプルメント、設備機器販売の責任者を務めた経験を持つ、長きにわたり北海道の酪農業界に関わってきた人物。「徹底した現場主義」を貫く浜本さんは、より良い酪農の未来のために酪農家との関係を築こうと、毎日牛舎はもちろん、農協や農業改良普及センターを走り回っていました。そして2014年、浜本さんは訪れた農業改良普及センターの方に、こう質問を投げかけられてハッとしたと言います。「クボタでは排水についてどうお考えですか?」と――。

浜本さん
「恥ずかしながら、生産についての農家さんへのご提案やサポートはこれまで長年取り組んできましたが、センターの方に言われるまで排水について深く考えたことがなかったので、職員の言葉は深く胸に刺さりました。クボタグループで販売している搾乳機器の洗浄から発生する排水処理はどうするのか?これは北海道クボタとして酪農家さんにきちんとした提案ができなければならない重要な課題だと気付かされたわけです。そこですぐに社内でこの排水処理装置の販売に向けて動き出しました」

というのも酪農において出る排水は、牛のふん尿を含んでいたり、乳などの脂肪分などを多く含んでいたりするため「畜産環境問題」として我が国でも以前から問題になっていました。ただこれまでは酪農家のほとんどが、牧草栽培の肥料として活用することで、個人規模で循環させてきました。しかし畜産事業の大規模化に伴い、出る排水の量も増大しています。肥料での消化ではいずれ処理が追いつかなくなる可能性がありました。

「食料・水・環境の課題を考えるクボタだからこそ、北海道の畜産における排水処理問題もすぐに取り組まなければいけない問題だと考えました」と、クボタ浄化槽システム 浜本さん。

浜本さん
「昔は1軒1軒の排水の量が少ないから、それほど問題にはなっていなかったんです。私がここ数年、大規模化した酪農家に見聞きした情報によると、牛乳の生産に対して搾乳機器・施設の洗浄作業から発生する排水はその1.5~2倍以上の量が出ていると推測されます。つまり北海道で400万トンの牛乳を搾ったら、600万~800万トン以上の排水が出る計算になります。これはとんでもない量です。クボタがこの畜産の排水処理問題に取り組んだのは「食料・水・環境」を事業領域としていればこそ当然の流れだったと思います」

虹の郷で活躍する「搾乳パーラー排水処理装置」

浜本さんの働きかけにより、排水処理装置事業に乗り出した北海道クボタは、2014年に酪農家に向けて「搾乳パーラー排水処理装置」の販売をスタートしました。パーラーとは、牛の乳を搾る搾乳施設のこと。搾乳に使用する機器は使うたびに洗浄、消毒する必要があり、その過程で多くの排水を出します。
日々の酪農経営において、排水処理問題に対応している酪農家が北海道の川上郡標茶町にあります。「株式会社 虹の郷(以下、虹の郷)」は2014年に4戸の酪農家が集まって設立した協業法人。法人化にあたって牛舎などの施設を新設するなか、合わせて「搾乳パーラー排水処理装置」を設置しました。

虹の郷は現在同施設で約300頭、他牧場に預けている牛の数も入れると700頭前後の牛を飼育管理されている大規模農業生産法人です。

酪農家歴30年、虹の郷代表の宍戸豊さん(以下宍戸さん)は、法人化の経緯、そして排水処理についてこう語ります。

宍戸さん
「標茶町虹別地区でも農家の高齢化、後継者不足が深刻化していました。そこでこれらの問題を抱えていた虹別地区の酪農家が集まり、協業法人として虹の郷を設立し、2015年から生乳生産を開始しました」

虹の郷代表 宍戸豊さんご自身も、法人化以前から親の代から始まった畜産業を受け継ぎ虹別地区で営農されてきたおひとり。

虹の郷で生産される生乳は、年間約3,000トン。パーラー施設からの排水量はその1.5~2倍以上と試算されますが、「搾乳パーラー排水処理装置」を導入してからは、この排水処理の悩みは解消されました。また、虹の郷自体は地下水が豊富に出るので、現在は水には苦労はしていないものの、いつまでも水資源が続くかはわかりません。今後、浄化槽で得られた中水*3を施設の維持管理に使用できるというのは、将来的にも安定した経営にもつながります。

  1. *3.排水を浄化処理することで得られる、清掃用水、散水、灌漑用水などとして再利用できる「利用可能な新たな水」のこと

定期的なメンテナンスが支える安定した浄化処理

では搾乳パーラー排水処理装置を取り付ければ、それで万事OKかというと、「そうではない」と浜本さんは言います。どんな機器もそうですが、安定した浄化処理を維持するには定期的なメンテナンスが欠かせません。排水処理を行う微生物は繊細な存在で、想定されていない異物が混入すると、すぐに機能が停止してしまうといいます。

虹の郷では、北海道の厳しい寒さ対策として、凍結深度以下に直径2.5m×長さ10mの排水処理装置(浄化槽)が2本地中埋設されています。並んだマンホールを通じ、排水処理装置の各槽のメンテナンスが行われます。

虹の郷で使用されている「搾乳パーラー排水処理装置」は、膜分離方式を使用した水処理方式です。孔径0.4μmの微細孔を通過したものだけが処理水として排出されるため、高い処理水質が得られます。

浜本さん
「その点、北海道クボタは農業機械販売会社として歴史がありますから、メンテナンスの重要性を深く理解できています。浄化槽の導入後は月1回、協力会社が点検をかならず実施していますし、膜やゴム、チューブといった部品の交換などもすべて行っています。お客様にはスクリーンから出るゴミを2日に1回ほど取り出していただくことと、年に1~2回ほど汚泥汲みをお願いする以外は基本的に北海道クボタにおまかせしていただいております。設置だけでなく、その後のサポート体制も整えることで、酪農家の方に安心して導入していただけるように体制づくりをしています」

排水処理装置を販売するメーカーは他にもありますが、虹の郷がクボタの「搾乳パーラー排水処理装置」を選んだ理由も、クボタの“サポート力”にあったと宍戸さんは話します。

協力会社のこまやかなメンテナンスにより、浄化槽の正常な運用が維持されています。

宍戸さん
「牛舎の新設にあたり、搾乳機器など他にもクボタに頼んでいたので、ひとまとめでお願いした方が、相談やメンテナンスなど、今後いろいろやりやすいだろうと判断しました。トータルでお願いできるというのは、クボタならではの安心感だと思います。導入後のメンテナンスはクボタの協力会社さんが、何かあったらすぐにかけつけてくれて、きめ細やかな対応をしてくれています。聞きたいことがあればその都度、解決できるので助かっていますよ」

北海道の酪農にかかる期待は今後さらに大きく

高齢化、および後継者不足にともなう酪農の大規模化の波は今後いっそう加速するでしょう。しかし大規模化にはある程度の土地の広さが必要になるため、都府県の酪農家では限界があるとの見方があります。農林水産省のデータによると現在、生乳換算で年間1,230万トンが国内で消費されているうえ、乳製品の人気もあり、生乳の需要は引き続き高い水準で推移すると考えられています。北海道の酪農にかかる期待は大きく、生産量の国内シェアはさらに高くなる可能性も。

北海道クボタ 営業担当 永田さん
「北海道クボタとしては、自社で取り扱っている搾乳機器を酪農家さんに提案する以上は、そこから出る排水処理の提案をこれからも一緒にしていきたいと思います。現場をまわっている人間として、よりお客様のことを知り、地域に密着した営業・提案活動を行っていきたいです」

虹の郷では搾乳作業は、早朝と午後と1日に2回。その都度搾乳機の洗浄が自動で行われています。

また浜本さんは、排水処理装置の設置は、決して環境への配慮のためだけではなく、酪農家にとってコスト的なメリットも大きいと話します。この費用対効果の部分をきちんと伝えることが、搾乳パーラー排水処理装置の普及につながっていくカギになるといいます。

浜本さん
「酪農業を営む以上、排水はかならず出るわけです。そうなると膨大な排水を牛の糞尿と一緒に飼料畑に持っていく費用で、搾乳パーラー排水処理装置を導入することができます。数年で『費用対効果』がでて、そののちは償却準備金が積み上げでき、最終的には経費削減になるわけです。ですから、決して新たなコストではなく、あくまで“お金をかけないで済むところは、かけないようにしようよ”という、酪農家のための提案なのです。ただただ、本当の意味で農家さんのためになりたい、そういう信念で搾乳パーラー排水処理装置の事業をさせてもらっています」

左から浜本さん、宍戸代表、永田さん。「クボタ浄化槽システム、北海道クボタ、協力会社のみなさん一体になって、これからの北海道の畜産農家を支えていきたいです」と浜本さん。

今後、さらなる生産量の増加が見込まれる北海道の酪農業。虹の郷の宍戸さんも、「乳牛の数を増やして、1日の生産量を5トン、10トンとどんどん上げていきたい。ただそのためには、安定した法人経営を長く続けていかないとね」と笑顔で目標を話してくださいました。その目にはきっと、高い生産量を誇りながらも酪農家たちが安心して働き続け、なおかつ環境にも配慮された、北海道酪農の未来が映っているのでしょう。

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