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第59期「朝日やさしい科学の教室」クボタ・アクティブ・ラボ2026正解のない時代に必要なこと――
それは自分で問い、自分で決め、まず行動すること
2026 . 10 . 14 / Wed
写真・文:朝日新聞社
1985年から続く「クボタ・アクティブ・ラボ」は、若い世代へ科学技術分野に興味を持ってもらう場として、株式会社クボタと朝日新聞社が協力して実施し今回で59期目。“美しい地球環境を守りながら、人々の豊かな暮らしを支えていく”というクボタグループの企業理念のもと、サステナブルな社会の実現やSDGsについて学びを深める場です。クボタ新本社(グラングリーン大阪)の共創スペースには3人のゲストと、応募者から選ばれた中高生12人が集まりました。
第1部 ゲストトーク
AIは、問いかけに対して素早く答えや選択肢を示してくれる強力なパートナーです。しかし、何を知りたいのか、何をしたいのかを考え、そこから自分なりの問いを持つのは私たち自身。
正解が一つではない問いに向き合い、進む道を自分で決め、まず動いてみる。そして、小さなトライ&エラーを重ねながら、自分なりの答えに近づいていく。3人のゲストと参加者による対話から、AI時代を生きるためのそんなヒントが見えてきました。
トライ&エラーの先に最適解が生まれる
第1部では、デジタル人材や起業家の育成をめざす『神山まるごと高専』を運営する松坂孝紀さんが、「AI時代に大切な1をつくる力」というテーマでトーク。同校の文化祭で実装されたキャッシュレスアプリを例にとり、0→1を生む相棒としてAIは優秀だが足りない部分はあるとし、「誰か」に使ってもらうこと、すなわち「N=1」*を積み上げ、より良いものにしていく大切さを訴えました。
- Nはアンケート調査などにおけるサンプル数に由来
ファシリテーターを務めた謎解きクリエイターの松丸亮吾さんも、松坂さんが示した、未完成のもの(β版)から検証と修正を繰り返していく「βメンタリティ」の考えに賛同。謎解きをつくる上でも、ひらめいた問いに対し、試行錯誤やPDCAサイクルを繰り返して完成度を高めていると語りました。

松丸亮吾さん(謎解きクリエイター)

松坂孝紀さん(神山まるごと高専 理事・共同創業者)
マクロな視点が良い問いを生むヒントに
続いて、社会課題の解決に挑む『リディラバ』の代表理事・安部敏樹さんの活動紹介へ。かつて理化学研究所で脳研究に携わり、人工知能(AI)発展の大きな転換期にも居合わせた安部さん。脳機能に影響を及ぼす社会の環境や構造について造詣を深め、その知見が、社会課題へ取り組むための多彩なアプローチのヒントになっているそう。
社会課題を考えるうえで安部さんが大切にしているのが、実際に現場へ足を運び、自分自身が当事者性を持って課題に向き合うことです。現場で起きていることだけを見るのではなく、その背景にある社会全体の構造にも目を向け、ミクロとマクロの視点を行き来すること。そして目の前の問題への対症療法にとどまらず、「なぜこの問題が起きているのか」と背景まで掘り下げることが、より本質的な問いを立てることにつながると語りました。

安部敏樹さん(一般社団法人リディラバ 代表理事)

学びを持ち帰ろうと、どの参加者も真剣なまなざしで話に聞き入る。
第2部 トークセッション
第2部は、3つのトークテーマにもとづく会場参加者からの疑問に対して、ゲストがそれぞれの専門的見地から見解を述べる、白熱のトークセッションへ。
松丸さんの謎解き作り×AI活用法!
まずは会場から松丸さんに「どういうときにAIを使っているか」とさっそく質問が飛びました。それに対して、「AIは謎解きをつくる『相棒』かな」と松丸さん。「こんな謎解き面白いかも!」という最初のひらめきは自分で生み出しますが、そこから具体的な問題作成に必要な単語を抽出する作業はAIに任せるそう。AIが用意した選択肢の中から「この言葉なら小学生でもわかるかな」というものを吟味し、謎解きを完成させていると活用法について話しました。
AIに頼り過ぎると「欲」がなくなる?
質問した参加者自身は、勉強でわからないところがあるときにAIを使うと言い、「素晴らしい!ぜひ積極的に活用を」と松丸さんと松坂さん。安部さんも同調する一方で、「難しいことを学ぶには良い相手だけど、知りたいことに対してすぐ答えが出ると、人間は知りたい欲が減ってしまいます。その欲望がなくなると知識や能力も伸びないので、自分の知的好奇心が上がるような使い方をするのが良いと思います」と、会場のみんなにアドバイス。松丸さんも、AIで作業を効率化して生まれた時間をダラダラと過ごすのではなく、個性や能力を磨いたり、関心を増やすためにいろんな体験をしたりする時間に使えると良いね、とまとめました。
【トークテーマ①】AIに任せること、自分でつくること
「問いづくり」や「選択」は人の役割
農業に関心を持つ参加者からの質問は「今後AIに奪われない仕事とは」。これに対し松坂さんは「農作業も鍬からトラクターへ発展したように、どんな職業でもこれからはテクノロジーを『使える力』が大切。例えば、この土地で何を作るのが良いかという問いにAIは100超のアイデアをくれますが、そこから最良策を選ぶのは『人』。より良い選択ができる意思や知識を持つ人がこの先も生き残れるでしょう」と、AI時代に伸ばすべき力について示しました。
また、将来科学者をめざしているという参加者からは「科学者の仕事はAIに取って代わられるか」と質問が上がりました。松坂さんは、実験や論文執筆などはAIが担うようになるだろうとした上で、「ただ、どういう研究テーマを設定するのか、どこに疑問を持ちどんな問いを立てるのかは、まだしばらくは人間がやっていくことでしょう」ときっぱり。「最近でも、80年間解けなかった数学の難問をAIモデルが解いたかもしれないとニュースになりましたが、こういう定理が成り立つのでは、という問いや仮説を立てたのは人間です。AIを相棒として人間が立てた問いを一緒に解決していく、これが今後は研究現場で日常的な風景になっていくでしょうね」と持論を展開しました。

「AIが発展しても、最終的にはそれをうまく使える人が強い」とテーマを深掘りする。
【トークテーマ②】「なんでだろう」を、解きたくなる問いへ
良い問いへ発展させるための視点とは
次に「食品の割引状況が知れて、食品ロスを減らせる便利なアプリを見つけた」という参加者から。「便利なのでもっと広めるには」とAIに聞いたところ、回答があいまいで芯が掴めなかったといい、「良い問いへ発展させる方法が知りたい」と質問がありました。
安部さんは「まず自分の問いを立てる力が低いのではないかと疑いを持つ視点が素晴らしい」と目のつけどころを称賛。なぜそのアプリが利用されないのかという疑問については、「その割引率がどこまで来店動機になるのか、AIには行動予測がつきにくいと考えられる」と指摘。「必ず手に入れたいと思う魅力に欠けているのではないかという仮説を立て、どこまで何をすれば来店を促せるかを実験してみたいよね」と検証していくプロセスを説明しました。松丸さんも同調し、「それこそN=1の話だね。アプリを使っていない人の声はAIからは引き出せないから、例えば主婦の方から使わない理由についてアンケートを取ると、解決の道筋が見えてくるかも」と続けました。
また、「増えすぎる害獣=シカ問題を解決する手段としてシカカレーを考えたが、衛生面など現実的に難しかった」と言う参加者は、ゲストの皆さんならどうやって鹿を減らす策を練っていくか知りたいと質問。そもそも問いの立て方として「消費者サイドでなく、なぜシカが増えているのか」という入口から探る方法もあると安部さん。間伐をしないことで山に光が入らず草が生えない=鹿の餌が無くなり人里におりていく……といった中山間地域の管理機能の問題に触れ、川下での解決法ではなく、川上で原因を探り、根本から解消するアプローチについて示しました。

ゲストと参加者の距離が近く、自由闊達な意見が飛び交う。
【トークテーマ③】答えがなくても、まず動いてみる
小さなタスクを刻んで、まず動くこと
日本のエネルギー自給率向上に関心を寄せる参加者からの質問は「例えば核融合など、次世代エネルギーを主軸に置いて自給率向上を考えていく上で、AIがなせる役割」について。安部さんは、AIはそうしたことを考える力も抜群なので、何かしらは答えてくれるだろうとしつつ、技術的なハードルはもちろん、巨額な資金集めや法整備など、実現に向けてまずは人間と社会が総合的に地盤を整えていく必要があると語りました。
「この分野の研究を深め、いずれは日本をエネルギー大国にしたい」という質問者の意気込みを聞いた松丸さんは、「テーマが壮大でゴールまで長い道のりになる目標だと思うけれど、そういうときは中間目標を立てて、まずは小さいタスクを洗い出すと良いよ」とアドバイス。松坂さんも頷き、「これがもし漫画のストーリーなら、どんな登場人物がいるかを思い浮かべてみよう。天才科学者もいれば、資金を集める人、地域と円滑な対話を進める人がいる。自分がどのキャラクターになりたいか考えてみると、進むべき方向が見えてくるはず」と、エールを送りました。

遠いゴールや大きな目標に向かう際の心構えを、参加者にアドバイス。
【最終トークテーマ】豊かな未来とは何か
トークセッションを締めくくる、「豊かな未来とは」という問いかけには、
「資源が豊富にあり、いろいろなものがつくれる社会」
「AIを相棒に、多彩なアイデアで社会問題を解決できる未来」
「自分のやりたいことができて、笑える余裕がある世界」
「苦労もしながら成長の楽しさを味わえる社会」
「AIにすべて頼らず、人が自分の頭で考えて行動できること」
など、次から次へとたくさんの意見が飛び交いました。
大切な意思決定はAIでなく自分で
オンラインの参加者からは「貧しくても幸せな人はいるし、裕福でも幸せじゃない人はいる」とコメントが寄せられ、松丸さんが「鋭い着眼点ですね」とすかさず反応。「幸福の定義は一人ひとり違うよね。お金があるのが幸せな人もいれば、友だちと笑い合う時間が好きな人もいる。自分にとって何が幸せかわかっておくことは、人生を豊かに生きる上でとても大事」と訴えかけました。
その例として紹介したのが、「その日に着ていく服をAIに相談して決める」といったケースも身近に出てきているというエピソード。「AIに選んでもらうのも悪いことじゃないし、服を選ぶのが面倒な人はそれも一つの使い方だと思う。でも例えばオシャレが好きな子なら、意思決定をAIに委ねず、『これが良いな』『可愛いな』と感じた心を大事にして欲しいな。自分の人生なんだから」と松丸さん。参加者たちは、頷きながらその温かいエールを受け止めました。
~終わりに~
自分の意思を持って生きることが、人生をより豊かにする
イベントを通して参加者が得た大きな気づきは、「答えを出すのはAIではなく、あくまで自分自身である」ということ。知りたいという欲を起点に自分で問いを持ち、自分でどの方向で進めるか道を決め、悩むよりまず動いて試してみる。そのトライ&エラーの先に最適解が生まれるのです。
何がしたいか決めることができるのは、人間の特権。「○○をしたい」という強い熱意を持ち、自分で旗を立てて道を切り拓く、それがAI時代を生き抜けるカギになるでしょう。
参加者から生まれた「こうしたい」「こうなったら良い」という思いのなかには、「食料・水・環境」をはじめ、クボタが事業を通じて向き合ってきた社会課題と重なるものもあります。ゲストからは、未解決の社会課題に民間企業が手を挙げて挑むことへの期待も語られました。
AIをはじめとする科学技術をうまく使いこなし、幸せを感じられる明るい未来を創っていくのは、ほかならぬ若い世代です。正解のない問いに向き合っていく若者たちの背中をそっと押し、大きく飛躍するためのヒントを示す。クボタ・アクティブ・ラボは、そんな学びの場であり続けます。

ゲスト3人も「豊かな未来」について共に考え、それを創り出していく参加者にエールを贈る。

イベント終了後、すっかり打ち解けた参加者で記念撮影。


