LIFE
ここにもクボタ! 〈上野動物園編〉環境教育の現場で活躍するクボタの “はかる”技術 ~動物の体重計~
2018 . 05 . 28 / Mon
文・写真=クボタプレス編集部
パンダのシャンシャンの誕生でにぎわう上野動物園。日本で最初に設立された動物園で、編集部筆者も子どもの頃に遠足といえば、行く先の定番でした。たくさんの動物を間近に見られる、不思議の国か宝箱のような場所。休日のたびに「連れて行って!」と親にねだっていたのを思い出します。動物園に行けば、図鑑やテレビでしか見られない動物がいる――ごく当たり前に思っていましたが、大人になり、動物が本来生息する場所の環境や日本からの距離を考えると、世界中の動物をひとつの園で見られることが、いかに貴重であるか気付かされます。
さて、動物園の役割には種の保存、教育、調査・研究、レクリエーションの4つがあるといわれます。かねてより上野動物園でも、特に子どもの「教育」において多様な試みが行われてきました。戦後間もない1948年に始まった子ども動物園(※現在は『子ども動物園すてっぷ』)では、ふれあいから動物のあたたかさを知り、子どもたちが自ら発見と動物への理解を深めていくプログラムを展開しています。この施設以外にも、上野動物園内の各所に教育の仕掛けが。体重計の設置もその一環です。
なぜ量る? いつ量る? 動物の体重計測
園内のアジアゾウ、ニホンザル、ツキノワグマの展示エリアには現在、教育・環境教育のツールのひとつとして、体重計が設置されています。それらがクボタ製だとご存じでしたか。(以前の記事で、野菜や果物の糖度を計測する「フルーツセレクター」を紹介しました。さまざまなものを 正しく“はかる”クボタの精巧な技術は、各産業の現場や日常の身近な場面から、意外な計量対象まで、幅広い分野の製品に生かされているのです。)上野動物園にある動物の体重計について、上野動物園 教育普及課の鈴木仁さんに伺いました。
――動物の体重計測には、どのような目的があるのでしょうか。
「健康管理の側面もありますが、この設置型体重計は、動物の大きさや重さなどを皆さんに知っていただこうと、来園者によく見える仕組みにしています。教育普及の目的が大きいのです」(以下、鈴木さん)
――まるで生きた教科書ですね。意外な重さの動物がたくさんいそうです。サルの体重が思ったよりも軽くて、驚きました。
「リアルタイムに計測しているところを見ると、生きた情報が得られますよね。実は、上野動物園にいる動物の中で、見た目に反して軽いのは鳥。例えば、国境を越えて長距離を飛ぶシジュウカラガンでも、体重は2kgくらいです。家庭で飼われている犬猫などが大体4~5kgですから、その半分以下。数字にしてみると軽さが分かります。鳥は空を飛ぶために、体のつくりが軽い構造になっているんですよ」
――上野動物園では、どれくらいの頻度で体重計測していますか。
「動物ごとに異なります。展示エリアに体重計が設置されているゾウは、ほぼ毎日です。上野動物園のゾウは直接飼育を行っていますので、飼育員の誘導でスムーズに体重計測ができます。他の動物はそれほどの頻度ではないですね。例えば、シマウマは爪が伸びると、麻酔をかけて爪を切ります。そのタイミングでしか体重は量れません。1年に1~2回だったりします」
――シャンシャンの報道で、頻繁に成長の様子がアップデートされている印象を受け、習慣的に計測しているのかと思っていましたが、動物によるのですね。動物園で飼育され、食べ物が安定した環境にいる動物も、健康時の体重変化はあるのでしょうか。
「例を挙げましょう。ゾウの食べる量は1頭1日当たり100kgで、ひとつの糞のかたまりが1kgもあります。1回の排泄で数10kgくらい出しますので、1日の中でも体重は増減します。それから、ツキノワグマのように、生態で大きく体重が変わるものも。冬眠前には餌をたくさん食べて20kg近く増加し、冬眠に入ると絶食状態になって、冬眠後は元の体重に戻ります」
――えええっ! 知りませんでした。動物園に来ると発見や新しい知識が得られ、大人もわくわくします。
「ちなみに、日本で初めてクマの冬眠展示に成功したのは、上野動物園です。ツキノワグマの『冬眠チャレンジ』展示は2006年に始まりました。これまでに、冬眠中の出産や子熊と一緒に冬眠した年もあって、かわいい子熊の様子をここで見られました」
ヒトでなく動物の体重計測には、高度な技術と工夫が
体重を計測する本来の役割によって動物の健康を守る。また、それを通して、子どもたちや多くの人に動物の生態を啓蒙し、環境教育につなげる――まさに“For Earth, For Life”を実現する、動物園の体重計。その仕組みには、いわゆる人間向けとは違う特別なポイントがあるといいます。ここからは、クボタ計装 吹原 智宏 さんに、技術的な話を聞いていきます。
――上野動物園の体重計はもちろん、量る対象が動物です。どんな工夫をされていますか。
「気を付ける点は主に2つ。まず、動物は体重計の上でおとなしくしてくれないものです。構造物や人間であれば通常、台の上で静止して、メモリが振れなくなるのを待てばよいですが、動物の場合にそうはいかないですね。そこで別のアプローチ、『動体計測』を使用する方法を採ります。競走馬のように動きが早く、かつ正確な計測値を求められるケースで、クボタでも導入実績があります」(以下、吹原さん)
――高速で動いている最中に量れるとは、驚きです。競走馬は敏捷なうえ、非常に繊細だといいますし、ぴったりの方法では。上野動物園でも動体計測を用いているのでしょうか。
「いいえ。代わりに、動物が乗っている間の計量値に対し、特殊なフィルター(演算)をかけて体重を瞬時に出すことで対応します。ニホンザル展示エリアの体重計などに使われています」
――なるほど。飼育員の誘導に従うしつけのできたゾウや、冬眠中じっとしているクマとは違い、動きの激しいサルをどうやって計測するのか気になっていました。そういった方法があるのですね。では話を戻して、動物の体重を量る際のもうひとつの注意点をお願いします。
「2つ目は、体重計に乗った動物を怖がらせないこと。基本的に、草食動物はとりわけ環境の変化に過敏だと、動物園側から伺いました。こちらの体重計はすべてロードセルを使用しています。ロードセルは球の上に鉄板が乗る構造から、乗ると少しぐらつきます。それでは拒絶反応を示されそうなので、球ではなく、乗っても揺れない構造に変更しています。先ほど言及したニホンザルは対照的で、知的好奇心が高い性質です。変わったものが目に入るとすぐ興味を示して乗ってくれるため、体重計の台を遊具のようにして、むしろ目立たせています」【写真前出】
――動物は一度嫌な思いをすると、次からは全力で拒否しますよね。うちの犬も以前失敗してしまってから、爪を切らせてくれません・・・・・・ そもそものお話になりますが、ロードセルの仕組みを教えてください。
「ロードセルは、計量したいものを載せると起きる、わずかな“金属のひずみ”を電気信号に変換・数値化することで、重さを量ります。電気信号による計測のため、ばね秤や天秤秤と比べ、より早く高精度です」
――ロードセルの計測スピードが早い点は、静止のキープが難しい動物の体重を量るうえで、メリットですね。でも、もともと動物の体重計用に開発/製品化されたわけではないですよね?
「そうなんです。クボタでは、トラックスケールなど100tを越える大型構造物の計測に、ロードセルを採り入れています。しかし、KSASに使われている食味・収量を計るコンバインなどにも、同じくロードセルを用います。大型トラックから米粒まで、幅広い対象を計量できるのがロードセル。上野動物園にある設置型の体重計は、それらの技術を応用したオーダーメイドの製品になります」
――“金属のひずみ”と聞いて、とても重いものを量るとばかり想像しました。米1粒から量れるとは、驚きです。動物を怖がらせない以外にも、体重計の設置にあたって配慮した点はありますか。
「ゾウやクマなど大きな動物を量るには、頑強さが不可欠です。100tを越える重量に対応するロードセルが、体重計のどこに偏った乗り方をしても壊れず、かつ正確に計測することをゴールに、調整を重ねました。台の下4か所にロードセルを設置し、特にゾウの体重計はロードセル1つ当たり10tの荷重計測ができるようになっています。それ以外には、野外で据え置きにしますし、清掃が入る場合もありますので、防水はもちろん防塵、落ち葉などが挟まらない工夫も施しました」
一見、トラックスケールと動物の体重計は結びつきそうもないイメージ。はかりの心臓部であるロードセルから計器の外格まで、一貫して社内製造を行うクボタだからこそ、動物園の要望にかなうオリジナル体重計を生み出しました。クボタ製の動物向け体重計は、上野動物園だけでなく全国各地の動物園に納品され、今日も動物の健康維持を支えています。
農業への貢献で広く知られるクボタですが、農業機械よりもずっと以前、明治創業当初の「はかり」製造に、現在の精密機械事業の端を発する、長い歴史を誇ります。産業用はかりの製造ノウハウと電子化技術の強みを併せ持ち、多種多様な製品を提供してきました。今日、IoTやAIの技術革新によって、重さに加え色や形などの計測も可能となり、経済の発展から研究・教育、快適で便利な生活シーンにおいて、ますます期待と注目を集めています。これからもクボタプレスは、意外なところで活躍するクボタの製品や知られざる高度な技術を取り上げていきます。お楽しみに。