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まるはり梨生産農家にフルーツセレクターについて聞いた高知県ご当地ブランドを支えるクボタの計測技術

2017 . 12 . 13 / Wed

高知県ご当地ブランドを支えるクボタの計測技術

文・写真=クボタプレス編集部

晩秋に向かう11月。別名・霜月の由来は、秋の収穫を感謝する意味の「食物月」(おしものづき)が訛ったものといわれています。その名のとおり、さまざまな農産物が収穫の時を迎える中、まさに食べごろの果物、それは1個1キロ前後にもなる大玉梨、新高(にいたか)です。収穫が10月~11月頃の晩成の梨で、果汁は豊富で糖度が高く、高級品種として知られています。

高知城から見下ろす市の中心部

高知城から見下ろす市の中心部。針木地区は、車で20分ほどの山間部にあります。

新高梨も並んでいます。

市内の青果店には、種類豊富な高知県産の果物の数々が。新高梨も並んでいます。

高知県高知市針木地区は、高知市中心部から車で20分ほどの距離にある山間部。全国で最も多い降水量がもたらす豊かな水と、長い日照時間が生む温暖な気候に恵まれたこの地域では、100年を越えて梨栽培を営み、新高についても早くから生産していました。2006年より、新高梨に独自の基準を設けて選りすぐったものを“まるはりブランド”として県外に出荷。まるはり梨は、20年以上の栽培歴をもつ同県内の生産者や市場関係者である、新高梨マイスターによって精選され、合格した梨だけが消費者に届きます。正確な糖度保証のために、選別に際し、クボタの糖度計「フルーツセレクター」を使用しています。

ひとつ1.5キロを超えるものもあります。

男性の手のひらよりも、ずっと大きなサイズになる新高梨は、ひとつ1.5キロを超えるものもあります。

一見、長年の経験がある生産者ならば機械に頼らずとも、選別は容易では? という疑問が浮かびます。ベテラン生産者たちがフルーツセレクターを導入した理由は、どのようなものだったのでしょうか。編集部は高知県針木地区に向かい、針木梨組合でまるはり梨の生産に携わる岡﨑農園でお話を伺いました。

編集部:岡﨑農園さんでフルーツセレクターを導入されたきっかけは、どのようなことでしたか。

岡﨑農園 岡﨑正一さん(以下、岡﨑さん)「うちでは11年前から使っています。まるはり梨は糖度13以上が選定基準なので、糖度のチェックを誰でもできるようにしようと、フルーツセレクターを導入しました。最初に採用したのは、収穫前の木になっている状態で計測できる携帯型の物でしたが、全部の梨を計測しようとするとそれでは間に合わず、現在では据え置きのボイスガイド型も購入して使っています」

編集部:フルーツセレクターを選ばれた理由は、どのようなところにありましたか。

岡﨑さん「新高梨を正確に計測できる糖度計になかなか出会えず困っていたところ、農協からクボタを紹介してもらい、フルーツセレクターに決めました。果実を傷つけずに糖度を正確に測定できること、糖度以外に内部障害(みつ障害)の可能性も数値化されること、クボタの担当者が何度も足を運んで細やかに対応してくれるところが良かったですね」

編集部:導入前はどのように糖度を測っていましたか。

岡﨑さん「以前は、梨の果肉を切り取って計測するタイプの糖度計を使っていました。一部の果実しか切り取れませんから、すべての梨を調べることはできません。また、同じ果肉片であっても、果実の部位により糖度が異なるので、収穫の目安になっても選別には使えませんでした」

初期モデル

11年前に購入された携帯型フルーツセレクター。初期モデルは現モデルと違い、外装がアルミ製です。今も現役で使えます。

果肉を切り取って計測するタイプの糖度計

以前使用していた、果肉を切り取って計測するタイプの糖度計。覗き込むと、計測した果汁の濃度の違いが、糖度として表示されます。

編集部:フルーツセレクターを導入後、どのような変化がありましたか。

岡﨑さん「実は導入した初年度、すべての梨を測定するのに時間がかかり、出荷数が減って、売り上げが下がりました。でも、選別の精度が向上すること自体は、商品の信用につながりました。『まるはり梨=甘い、美味しい』と付加価値がついて価格が上がり、徐々に売り上げが増加していきました。最初は、フルーツセレクターは高額だと思っていましたが、結果的に販売価格が安定するので、必要なものだと実感しましたね」

「商品の信用度が増したと思います」と語る岡﨑さん。

「梨の正確な状態がわかるようになり、商品の信用度が増したと思います」と語る岡﨑さん。

編集部:「誰でも糖度チェックができるように」と導入されましたが、岡﨑さん以外の方も選別はできるようになりましたか。

岡﨑さん「かつては、切ってみないとわかりませんでしたから、『これはきれいな梨だし、一級品だ』と思っても、糖度を調べたら10度しかないこともあったのです。それが、糖度に限れば、梨を切らずに誰でも正確に選別できるようになりました。とはいえ、糖度だけでは梨の良し悪しを判断できないところがあります。最終的には、フルーツセレクターで表示される糖度と酸/障害(梨の場合は、みつ障害)のデータ化された数値と、これまでの自分の経験による判断、それら両方を併せることで、良い状態の梨を的確に選別していますね」

据え置きタイプのフルーツセレクター

現在、メインで使用されている据え置きタイプのフルーツセレクター。重量も同時に測定することができます。

一つずつ計測しています。

出荷する梨は、すべて一つずつ計測しています。

編集部:糖度以外の選別基準とは、具体的にはどのようなことでしょうか。

岡﨑さん「たとえば、この梨は測定すると糖度が13と出ています。でも障害の数値を参考にすると、中は熟れすぎているんです。ほら、切って見てみると少しヤケがあるでしょう。うちではこのような梨は、出荷せず、はじいています。フルーツセレクター導入前なら、外観からはわからないため、出荷していたかもしれません。まるはり梨の値段は1個1000円を超え、安い買い物ではない。1回でも美味しくないと感じたら、2回目以降も買っていただけることはないと思うんです」

ほんのり色が濃い箇所がヤケ

赤枠内のほんのり色が濃い箇所がヤケ。切ってすぐに試食したところ、美味しくいただけました。しかし、この部分は時間とともに劣化が進みやすいといいます。

厳しい選別が完了

厳しい選別が完了。品質の良いものには、丁寧にまるはり梨の梱包がなされ、出荷されます。

実際に、岡﨑さんが目の前で梨を切って見せてくださいましたが、ヤケの部分は、目を凝らして見ないとわからないほどわずかな変色。今すぐならば美味しく食べられるとのことで、その場で梨をいただいたところ、口に入れる前から良い香りがただよい、食べると甘い果汁がたっぷりと広がる贅沢な味。とても問題がある品とは思えませんでした。しかしながら、数日経つとヤケの部分が黒く変色し、食感がスカスカになるなど、お客さまが食べる頃には状態が悪くなるそうです。ヤケは、近年の地球温暖化の影響から多発している生理障害で、「みつ症」と呼ばれています。特に新高梨はその状態になりやすく、果実の選別は以前よりも複雑さを増していると聞きます。

■育成に手間暇かかる梨、新高

新高梨は、4月の初めに他の品種より少し早く開花し、着果(木に実がなり始める状態)からゆっくりと時間をかけて成長する大型品種。果実の状態で木になっている時間が長く、天候の影響を受けやすい状態にあります。

一般的に知られる幸水などが7~8月に収穫期を迎えるのに対して、新高の収穫期は9月の終わりから11月までかかります。開花から収穫期まで約半年、おいしく綺麗な梨に仕上げるために、農家の方は、一つひとつ丁寧に袋掛けをしたり、温暖化による夏の強い日差しから守る遮光ネット導入を実施したり、手間を惜しまず、大切に育てています。

一つひとつ大事に保護されています

収穫直前の新高梨。果実が成熟するまで長期間かかるため、一つひとつ大事に保護されています。

糖度だけでなく、果実の異常も検知し、手間暇かけた梨に太鼓判を押すのが、フルーツセレクターの役割。美味しさの付加価値を創出し、まるはり梨の信用度を保って、ブランド確立の一助になっているそうです。まるはり針木梨組合長(「まるはり」は○の中に「針」)の甲藤学さんにも、お話を伺いました。

編集部:まるはり針木梨組合では、いつからフルーツセレクターを導入されていますか。

甲藤さん「ブランド設立当初の2006年より組合で導入し、一か所に集荷したものを測定・選別していました。今日では、組合の2/3の農家が各自導入して、出荷を行っています」

編集部:組合で各農家への導入を推奨したのでしょうか。

甲藤さん「いいえ、特に指示したわけではないんです。岡﨑さんをはじめ、既に使用している農家から話を聞いて、データ化された糖度計測で梨の信頼度を確保しつつ、迅速に出荷したいと、それぞれに導入するようになりました。さらに出荷速度を上げるため、2台目を購入した人もいます」

組合長の甲藤学さん

組合長の甲藤学さんは、前任の岡﨑さんから組合長を引き継ぎました。ベテランから若手まで協力して、まるはり梨ブランドを支えています。

編集部:ご自身でも、フルーツセレクターを導入されていますか。

甲藤さん「うちでは5年くらい前から導入しました。導入した最初の年に、お客様から『今年の梨は全部甘くておいしかったです』ってメッセージをいただいたんですよ。それまでは、もしかして全部は甘くなかったのかな? と気になり、今後は絶対に測定しないといけないな、と思ってしまいましたね」

編集部:初年度からその反響は驚きですね。厳しい選別を行うと、出荷できない梨も多く出てくると思いますが、そのような梨はどうされていますか。

梨が傷まないように手作業で収穫。甲藤さんの農園でも、一つずつ測定して選別しています。

甲藤さん「ヤケが入っているだけではなく、糖度が高すぎても梨は美味しくないんです。でも、生食に向かないだけで、そういったものは加工品になります」

編集部:まるはり梨を使った加工品には、どのようなものがありますか。

甲藤さん「シャーベットやジャム、リキュールなどです。糖度が高いので、リキュールなどは加糖しなくても、とても甘いものができます。青果は、10月からわずか1か月くらいしか食べることができませんが、加工品なら季節を問わず、通年で針木の梨を楽しむことができますよ。」

まるはり梨は、全国主要都市の百貨店や高級量販店で販売され、特に贈答用に好評です。既に一定の成果を顕し、ブランド創設から10年以上たった今も、組合の皆さんは期待・信頼を裏切らず品質を保ち、付加価値を高める努力や工夫を続けています。

出荷待ちのまるはり梨

出荷待ちのまるはり梨。贈答用の注文が多くを占めます。

高知県アンテナショップでも販売

東京の高知県アンテナショップでも販売されています。

この日は岡﨑さんより、「測定の速度をもっと早くしてほしい」とクボタ担当者に相談がありました。担当者からは、使用する果物次第ではスピードアップが可能であることなど、その場でさまざまな提案がなされました。フルーツセレクターは、測定する農作物の種類や皮の厚さ・大きさに適した調整を行い、各農家での用途に合わせてカスタマイズを行っているとのこと。農家が長年培った生産技術と、クボタがそれに寄り添い進化させてきた計測技術が、高知県のご当地ブランドを支えていることを垣間見た一日でした。

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