GLOBAL INDEX
December 2017

FEATURE
"Precision Farming"

02

クボタが考える精密農業の姿
スマート農業の実践

M7001による自動運転(オートステアリング)の実証試験風景

データ活用と
農機自動化による営農支援
ソリューションでの新たな価値創造

取締役専務執行役員
研究開発本部長
飯田 聡

クボタは、国内農機メーカーの中では先陣を切って、2011年頃から精密農業の検討を開始した。そして2014年5月、効率的な生産をサポートする営農・サービス支援システム「KubotaSmart Agri System(KSAS)」を発表。システム名が示すように、この時点でクボタは、精密農業を含む「スマート農業」を志向している。精密農業は、ICTやIoTによるデータ活用で作業効率化を目指す農業管理手法といえるが、スマート農業はそれらデータ活用に農機の自動化を組み合わせ、営農を支援していくという考え方だ。クボタがスマート農業に注力するその背景を、スマート農業推進の中核を担う、取締役専務執行役員研究開発本部長の飯田聡は次のように語る。

「日本の農業は農業人口が大幅に減少し高齢化する一方で、5ha以上の担い手農家と呼ばれるプロ農家が増加、農地は集積し大規模化しつつあります。全耕地面積の内、担い手農家の占める割合は現在の58%から2023年には80%を占めるようになるとも言われています。農地集積が加速し労働力が減少する状況の中、農家は多数圃場の適切な管理、収量向上や高品質化、生産コストの削減、生産品の高付加価値化など多様な課題を抱えています。クボタは、データ活用による営農支援と農機自動化による超省力化を柱としたソリューションの提供によって、新たな価値の創造を目指しています」

「KSAS」による情報一元管理と
自動・無人化農機の開発

データ活用による営農支援の中心となるのが、冒頭に述べた「KSAS」だ。「KSAS」の基本的な仕組みは、パソコン、スマートフォンと農機をクラウドで結び、農業全般に及ぶ細かな情報を一元管理するというもの。農作業現場から収集した圃場や作物、農作業などの各種情報を蓄積・分析することで、農業経営の「見える化」が実現する。これによってたとえば、作業ミスの低減のみならず肥料などの投入量が明らかになることから、コスト削減にもつなげられる。「KSAS」で特に注目したいのが「食味収量コンバイン」だ。稲刈りと脱穀を行いつつ、圃場ごとの米の収量と食味成分を同時に計測・データ化する最新農機である。

「米の食味はタンパク質と水分で左右されます。そこでそれら食味成分を測るセンサを搭載しました。これによって、圃場ごとの収量・タンパク質・水分のバラツキを把握することが可能となります。それによる最適な施肥設計で付加価値の高いおいしい米の生産が可能となります。さらに施肥設計のデータを農機に送信すれば、農機が自動で肥料の散布量を設定するため、誰でも簡単に計画どおりの施肥が可能。これまでの経験と勘に頼っていた農法からの転換を促すものです」(飯田)

これらデータ活用による営農支援に加えて、もう一方の柱である農機自動化の取り組みも進んでいる。その第一フェーズが運転操作を自動化するオートステアリングだ。2016年9月に、直進キープ機能付田植機を、続いてオートステアリング機能付トラクタをリリースした。水田で田植機を直進させることは難しく、既存のオートステアリング装置では高価なうえ、対応できないため、安価なDGPSユニットと姿勢計測ユニット(IMU)を組み合わせた独自の制御システムにより、高精度に自動制御できる仕組みを確立、100mの直進で誤差10cm以内の高い直進精度を実現している。2020年から有人監視下での農機の自動化・無人化を進め(2017年6月、自動運転トラクタのモニター販売開始)、最終的には遠隔監視による完全無人化を実現する計画だ。また省力化・軽労化への取り組みの一つとして、薬剤散布用ドローンのモニター販売も始まっている。

オートステアリング機能付自動運転トラクタ。左が無人機、右が有人機
直進キープ機能付田植機

クボタの欧州畑作市場への参入と
インプルメントメーカーとの協業

世界の食料問題解決に貢献することを掲げるクボタは、国内稲作農家向けの営農支援の知見を基に、スマート農業の取り組みを世界に向けて開始した。世界の急激な人口増加による食料問題の解決に対して、収量増加や効率化に寄与する精密農業(スマート農業)の実践が有効とされる中、クボタがターゲットとしているのが、フランス、ドイツ、オランダを中心とした欧州の畑作市場だ。クボタは2015年、畑作向け大型トラクタM7001シリーズをフランスで製造販売を開始したことで、本格的に欧州の畑作市場へ参入したが、ここで重要なのは、2012年にクボタグループに加わったインプルメント専業メーカー、クバンランドグループの存在である。インプルメントはトラクタが牽引する様々な作業機器。農業従事者にとって農機を評価する最大のポイントは、効率的で正確な農作業の実現に集約される。つまり、より高収量で低コストを可能とする農機だ。それは動力源であるトラクタと作業を行うインプルメント、両者が一体となって初めて実現する。クボタにとって畑作市場開拓の重要なカギを握るインプルメント。クボタが推進する欧州でのスマート農業は、インプルメントとのコラボレーションで展開されている。クボタとクバンランドグループの、欧州におけるスマート農業の取り組みを追った。

M7001に接続されたレイキ(刈った牧草を列状に収集するインプルメント)