GLOBAL INDEX
December 2016
FEATURE
"Republic of India"
01
台頭する
グローバル・パワー、
インド
インド経済の中心都市ムンバイ。洗濯場と高層ビルの対比が急激な成長を物語る
GLOBAL INDEX
December 2016
FEATURE
"Republic of India"
01
インド経済の中心都市ムンバイ。洗濯場と高層ビルの対比が急激な成長を物語る
世界最大の人口大国へと向かうインド。
BRICsと呼ばれる新興国の中でも、経済成長率は群を抜く。
急速に工業化、都市化が進むが、主たる産業は農業であり、世界屈指の農業大国だ。
膨大な人口を支える食料自給の観点からも、世界の食料生産拠点としての位置からも、
農業の機械化は経済発展に大きく寄与するといえる。
農業を中心に、いかにこの国の持続可能な成長に貢献するか。
地域に密着するクボタの現場を追った。
インダス文明に遡る古い歴史を有するインドは、1947年に英国から独立、南アジア随一の面積と世界第2位の人口を持つ大国として成長を遂げてきた。特に、90年代以降進めてきた経済自由化政策によって、規制緩和、外貨積極活用を柱とした経済政策を断行、その結果、著しい経済成長を実現した。2014年に誕生したモディ新政権は、「Make in India」(インドでモノづくりを)のスローガンに代表される経済重視政策を推進、現在インドは、新たな製造ハブ(結節点)として世界から熱い眼差しが注がれている。2015年度の経済成長率は7.6%と、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる経済新興国の中でも、高い経済成長率を維持し続けている。
現在インドの人口は12億1,000万人を超えており、過去10年の人口増加率も17.68%と増加の一途をたどる ※1。植物育種や灌漑設備の整備、農薬の普及といった「緑の革命」を実施し、これだけの人口を抱えているにもかかわらず自給自足達成国となった。2013年、農作物自給率(穀類)は111%に達している ※2。インドの農地面積は国土の約55%にあたる約1億8,000万ha、農業従事者は約5割を占める ※3。主要作物であるコメ、小麦、サトウキビの作付面積は世界第1位(生産量ではいずれも世界第2位) ※4、世界有数の農業大国であり、2012年はコメの輸出量が世界1位 ※5となったこともあり、世界有数の食料生産拠点という役割も担っている。
※注1…外務省ホームページより
※注2…FAO(国際連合食糧農業機関)調べ
※注3…農水省ホームページより
※注4…FAO統計
※注5…USDA(アメリカ農務省)需給統計
BRICs の雄として目覚ましい発展を遂げつつあるインドだが、農業部門が抱える課題は少なくない。2028年には15億人に達し、中国を抜いて世界最大の人口大国になると予測されている ※6。食料自給を達成しているとはいえ、それが将来継続するかどうかは不透明だ。作付面積が世界第1位であるにもかかわらず生産量が世界第2位に甘んじていることからもわかるように、食料の生産効率は決して高くない。「緑の革命」で灌漑整備は進められたものの、耕作地の推定63%は未だ灌漑用水とつながっていないこと ※7、労働力が安価なため依然人力に依存する農家が多いこと、さらには旧来型の作業体系が維持されていることなどが、その要因として指摘されている。
また、経済発展が進展する中、工業・建設業へと従事する人口割合が増えており、農業従事者は減少傾向にあるのも懸念材料の一つだ。世界最大の人口大国が安定的な食料生産を維持できるかどうか。そのインド農業の課題は、そのまま世界の食料生産拠点として持続可能な貢献ができるかどうかという問題ともつながってくる。一方、インドは食料自給率を達成しているとはいえ、栄養不足人口は約2億人近くおり ※8、貧困層の撲滅も大きな課題となっている。すなわち、人口が増え続けるインドにあっては、農業の機械化・高度化による食料生産の効率化、収量拡大の実現は喫緊の課題なのである。また、今後の持続的な経済成長を支えるには、産業育成とそれに伴う雇用の拡充も求められている。
※注6…United Nations Population Division(国連人口部)予測
※注7…米国CNN報道より
※注8…FAO/IFAD(国際農業開発基金)/WFP(国連世界食糧計画)共同発行「世界の食料不安の現状2015年報告」
トラクタ海外営業部長
辻山 亮
インド農業のトラクタの歴史は古く、1960年代から本格的な普及が始まった。日本とほぼ同じタイミングである。世界のトラクタ市場は推定200万台と言われているが、インドはその内の約60万台、約3割を占める世界最大のトラクタ市場である ※9。99%がインド国内生産であり、インド国内メーカーのトラクタが市場の約7割を占める。この巨大トラクタ市場に対して、クボタは2008年、インド南部チェンナイに、クボタ農業機械インド株式会社(Kubota Agricultural Machinery India Private Ltd.=以下、KAI)を設立し参入を果たした。
「インドは欧米や、新興国市場向けのトラクタ輸出拠点になっています。競合他社は、安価な労働力・部材を武器に低価格のトラクタを生産・輸出しており、クボタがグローバル・メジャー・ブランドとして、インドの、そして世界の食料問題解決に貢献するためには、インド生産は必要不可欠。まずは世界最大の市場であるインドでの販売実績を築いて存在感を発揮し、将来のインド現地生産に向けて、その環境を整えていきたいと考えています」(トラクタ海外営業部長 辻山亮)
つまりKAIの設立は、インドが抱える農業の課題解決に向けて、将来の現地生産を射程に置いたものだったのである。しかし、ここからクボタのインド市場での苦難の道程が始まった。それは今回のマルチパーパストラクタ「MU5501」の開発、市場投入へとつながっていく新たな挑戦でもあった。
※注9…クボタ調べ 2015年推計