より良い土づくりを実現するトラクタ
2000年代、日本農業は大きな転機を迎えていた。農業をやめる人が急増し、その農地が担い手といわれる個人や法人、集落営農などに集められ、かつてないほど経営規模の大きな農家が急激に増えていたのだ。日本農業と食の未来が、彼らに託されようとしていた。しかしそこには、これまで日本農業にはなかった課題がいくつも出てきた。その中の一つが、より良い土づくりによって、さらに高品質な作物を作ることだった。
大規模化する農家に応えようと、各メーカーが注目していたのがクローラ形のトラクタだった。しかしクボタは、車重が重くなるうえ、旋回時に大切なほ場の土を掘り下げて傷めるリスクがあるため開発には慎重だった。もちろん、その研究は続けていた。さまざまなタイプのクローラトラクタの試作機をつくり、農家のほ場でテストを繰り返す。そのようなある日、一つの画期的なアイデアが生まれる。前輪をホイールに、後輪を三角形のクローラにしたハーフクローラトラクタだ。軽量化が図れ、ホイール型並みの旋回性能を発揮できるのだ。後輪を特徴的な三角形にしたのは、頂点に駆動軸を配することで広い接地面積を確保し、土を踏み固めないようにするためであり、これも独自の発想だ。農家のほ場で実証実験を繰り返し、1997年、画期的なトラクタ「パワクロ」が誕生する。パワクロは担い手の課題を解決し大人気を博す。例えば雨や雪解け後など、ホイール型が入れないようなぬかるんだ畑や水田でも作業ができ、天候に左右されない計画的な農作業を実現。また、ホイール型に比べ接地面積が広いので土を踏み固めることがなく、通気性や排水性に優れた作物がよく育つ土づくりができ、高品質で安定的な収穫が期待できる。2004年にホイール型並みの高速タイプを開発し移動時間を短縮。2008年には13.5馬力から135馬力までラインアップを拡大。大型化・高出力化により生産効率を向上させるなどパワクロの進化は現在も続いている。
パワクロにはこのような話も残っている。当初は畑作用として開発されたが、水田用に改良するために米の生産地である新潟県の農家の水田に持ち込んだ。その走行試験を見ていた地元の農家から改良に関わる数々の意見をいただいた。その声を開発部門に伝えたことが、水田用のパワクロ誕生に大きく貢献したという。農家の声を聞き、ともに開発・改良しながら課題を乗り越える、まさにクボタの真骨頂といえる。