欧州大規模畑作農業から、世界へ
フランスは世界第5位の経済規模を誇るだけではなく、農業生産額においても欧州有数であり、農産物の輸出国でもある。カロリーベースの食料自給率はおよそ130%と非常に豊かな国だ。さらに酪農も盛んで、チーズの生産量は欧州内でも際立って多いなど「ヨーロッパのパンかご」と称されている。
クボタは1974年、そのフランスに進出する。Kubota Europe S.A.S.を設立し、50馬力前後の小型トラクタを欧州市場に供給してきた。その用途は主に公園などの整地や歩道清掃といった軽土木、草刈りなどの軽作業だった。丈夫でコンパクト、そして徹底して使いやすいクボタの小型トラクタはこの分野では高い評価を得るまでになっていた。さらに1986年、クボタは農業用の中・大型トラクタの生産拠点をスペインに設立。スペイン国内はもとより欧州全域への事業展開をするためだ。しかし、さまざまな理由から1994年、撤退を余儀なくされる。ただ、世界の人口増による食料問題の解決はクボタにとっても重要なテーマであり、そのために欧州畑作農業への進出はどうしても必要だった。
そして2010年、クボタは満を持して欧州畑作農業本格進出のためのプロジェクトをスタートさせた。それは畑作用大型トラクタ開発への挑戦でもあった。クボタユーザーからの「大型トラクタもつくってほしい」という声も後押しになっていた。クボタは丹念に市場調査を進め、開発するトラクタのターゲットを130〜170馬力に定める。ただ、大型トラクタにおいてクボタの進出は欧州では後発である。競合他社より優位に立つためにはクボタらしさを生かしたトラクタが必要だった。そこで日本の稲作農業で培ってきたきめ細かな操作性を大型の畑作用トラクタでも追求、使いやすさにも徹底的にこだわった。そして2015年に登場したのが「M7001シリーズ」である。小型トラクタで多くの信頼を得ていたクボタ初の畑作用大型トラクタに、フランスだけではなく欧州の農家からも喜びの声が上がった。
世界の人口は2050年に97億人に達するといわれているが、耕地面積は5〜10%程度しか増えないとされる。この課題を打開するためには世界で稲作の約4倍もの耕作面積のある畑作分野を中心とした食料の増産が不可避であり、いっそうの生産効率化が求められている。欧州での新たな挑戦が始まった。