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LIFE

上水から下水まで「命を支えるプラットフォーマー」として次世代に安心で安全な水を届ける

2023 . 04 . 14 / Fri

クボタの水ソリューションのイメージ図

写真・文:クボタプレス編集部

世界各国と比べて、水に恵まれた国だといわれてきた日本。しかし、今、水道管の老朽化が進み、全国各地で破損事故に伴う断水が起こるなど、かつての水道神話は崩れつつあります。

クボタは長期ビジョン「GMB2030」において「食料・水・環境分野における新たなソリューション」を挙げており、「水」分野では安心安全でレジリエントな水インフラを構築すべく、「水環境プラットフォーム」の実現をめざしています。なぜ先進国である日本において水インフラの整備に課題があるのか、クボタはこうした喫緊の課題をどう解決しようとしているのか、社会全体にどのような「水」に対する意識改革が求められているのかを、クボタ 水環境事業本部長の吉岡榮司さんに聞きました。

老朽化した水道管の更新が進まない理由

現在、日本の水道普及率は98%に達しています。全国どこへ行っても蛇口をひねれば飲める水が出るという恵まれた国は数少なく、世界的に見ても誇れる生活水準の高さといえるでしょう。しかし、その一方で、最近、水道管が破裂して水が噴き出し、それに伴う断水によって人々が不便を強いられるといったニュースをよく耳にするようになりました。

現在、全国で使われている水道管や浄水場などの施設は、大半が1960~70年頃の高度経済成長期に建設されたもので、老朽化が進行しています。耐用年数が約40~50年とされている水道管は、一斉に更新時期を迎えていますが、なかなかその更新が進んでいません。そのうえ、近年、異常気象による水害、地震など、以前と比べて自然災害が激甚化していることも、水道設備の破損事故を増加させる一因となっています。

管路経年化率の推移(全国平均)

管理経年化率の推移を表したグラフ

国内の水道管の総延長のうち、法定耐用年数を超えた水道管の総延長が何%あるかを数値化した「管路経年化率」の推移を示したグラフ。経年化率は年々増え続けています(出典:令和元年度水道統計)。

なぜ設備の更新は思うように進まないのでしょうか。長年、水事業に携わってきた吉岡さんはこう語ります。

「主な原因は人口減少に伴う水道料金収入の減少、そして水道事業に携わる職員数の減少にあります。水を使う人が減れば当然お金が集まらず、工事に回す費用もおぼつかなくなります。それでも政府は予算を付けてくれていますが、一方で、現場では人手不足で更新に十分に手が回らないというのが現実です」

クボタ水環境事業本部長の吉岡榮司さん

取締役専務執行役員 水環境事業本部長でイノベーションセンター副所長も兼任する吉岡榮司(よしおか えいじ)さん。

水道事業における職員数の推移

水道事業における職員数の推移を表したグラフ

水道事業における職員数は1980年をピークに減り続け、2019年時点で39%程度減少しています(出典:令和元年度水道統計・簡易水道統計 嘱託職員を除く)。

「高度経済成長期に一気につくられたインフラといえば、高速道路も同様で、現在盛んにリニューアル工事が進められているのはご存じのとおりです。しかし、水道管は地下に埋まっていて目に見えませんし、下水処理場は地上にあると言っても、一般の人が見る機会はほとんどありません。そういう意味では、道路と同じ公共インフラでありながら、なかなか人々の意識が届きにくいインフラといえます」

課題解決のキーワードは官民連携とDX

吉岡さんが、今後クボタが取り組む課題解決策のポイントとして挙げるのが、以下の4つです。

日本の水インフラの課題解決のためにクボタが取り組むソリューション

  1. 水事業運営の効率化(広域化・官民連携)
  2. 水インフラの運転・維持管理の省人化・省力化
    (自動運転、遠隔監視等によるスマート化)
  3. 適切なメンテナンス・更新提案による施設のライフサイクルコスト低減
  4. 管路・施設の耐震化・強靭化(インフラのレジリエンス向上)

「最近は自治体が自ら行ってきた浄水場や下水処理場の運営・管理を、民間企業に委託するといった『官民連携(PPP:Public Private Partnership)』の動きが進みつつあり、クボタでも年々受注が増えています。自治体の今までの取り組みに民間の知恵をプラスすることで、ライフサイクルコストをできるだけ減らし、それを市民に還元していくというのが、一つの大きな流れです」

一方、官民連携と並んで、クボタが注力しているのが水道事業にDXを活用することです。たとえば現在は、漏水が起こっていないか、水質に変化はないかといったモニタリングを主に人が行っていますが、DXを活用すれば、より少ない人数で施設・管路の維持管理ができます。さらに、KSIS(Kubota Smart Infrastructure System)という、IoTを駆使したクボタ独自のソリューションシステムを使えば、浄水場、水道管、下水処理場、ポンプ場などのあらゆるデータをAIで解析し、各施設の故障の予兆をキャッチすることも可能です。

「クボタといえば農業機械のイメージが強いかもしれませんが、130年前、創業者・久保田権四郎がコレラの蔓延を機に実用化をめざし、国内で初めて量産化に成功したのが水道用鋳鉄管です。つまり、水事業は実は当社の祖業なのです。耐震構造のパイプをいち早く世に送り出したのもクボタですし、鉄管だけでなく樹脂管、ポンプやバルブ、浄水場や下水処理場などの施設もつくっています。さらに、水インフラの工事に関しては、日本だけでなく海外での実績もあります。こうした歴史の中で培ってきた総合力が、クボタの最大の強みです」

クボタが製造に着手した当時の巨大な鉄管と職人

1893年、クボタは鉄管の製造に着手。この4年後、直管の製造に成功しました。

ロサンゼルスでクボタの耐震型ダクタイル鉄管が試験施工される様子

米国・ロサンゼルスでの耐震型ダクタイル鉄管「GENEX」試験施工の様子。

上水・中水・下水を網羅したクボタの事業領域と製品群を示した図

上水・中水・下水のすべてを網羅した幅広い事業領域と製品群を持ち合わせ、かつ製品販売だけでなく設計、施工、サービス・メンテナンスまでの一貫対応ができる点が、クボタの強みです。

ただし、従来はその総合力を十分生かしきれていなかったと吉岡さんは続けます。

「これまではお客様である自治体や事業体のそれぞれのご要望に応じて、クボタの製品を提供するという形でした。しかし、行政が民間企業の知恵を活用したいという昨今のニーズに対して、これからはクボタが持つ製品力、知識、エンジニアリング力を総動員し、DXやIoTで肉付けを行い、世の中に貢献していくことをめざします」

クボタが取り組む二つの新しいソリューション例

では、具体的にどんな取り組みが進行中なのでしょうか。吉岡さんは官民連携の最新の事例として、クボタが参画する神奈川県三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業*を挙げてくれました。この事業は処理場、ポンプ場、管路を含めた公共下水道施設すべての運転管理・修繕・更新までをコンセッション方式で実施する国内で初めての事例であり、注目されています。

  1. コンセッションとは、施設の所有権を自治体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式。複数の民間企業がSPC(特別目的会社)を設立して事業を運営する。ここでは前田建設工業、クボタ、東芝インフラシステムズ、日本水工設計、ウォーターエージェンシーの5社によるSPCが、2023年~2043年の20年間、三浦市の下水道事業を運営。

クボタはこれまで培ってきた水環境事業のノウハウを生かし、同市の下水道事業の長期にわたる安定的で効率的な運営の実現に寄与するとともに、下水処理プロセスから排出される下水熱を利用した農作物栽培の実証を計画。市内の教育機関などと協働して作物を選定・栽培し、地域活性化につながる取り組みを始めます。農業と水事業の掛け合わせはクボタならではのアイデアで、コンペでも高評価だったとのこと。将来どのような形で実現されるのか、夢が膨らみます。

三浦市コンセッション事業の範囲を示した地図

三浦市コンセッション事業の範囲を記した地図。下水処理場、ポンプ場、管路施設の施設運営と改築業務を行います。

一方、クボタでは、ICTやAIなどの先進技術を積極的に取り込むため、オープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。2019年には新たな事業、製品、サービスの創出を推進する部門として「イノベーションセンター」を日・欧に設置、ベンチャー企業や異業種企業、大学、研究機関などの社外パートナーと連携しながら研究開発を進めているのです。同センターの副所長も務める吉岡さんによれば、現在、資源循環や新たな水インフラの構築をテーマに、独自性のあるクボタらしい研究開発が数々行われているそうです。

その成果の一例が、東京大学と共同開発した「水道管路老朽度評価方法」です。

「従来は老朽化した水道管を更新するのに、単純に敷設から40年経ったら全部替えるといった具合に、年数を基準に老朽度を評価していました。しかし実際には、たとえば酸性度が高い土壌だと当然、腐食が早く進みますし、埋設環境や塗装の状態によっても水道管の老朽度が異なります」

つまり、今後水道管の更新を効率よく行うためには、「老朽度」に加えて、断層の有無や地震が多いといった「自然災害への耐性」、「水理・水質」、「管路の重要度」、以上4つの項目を評価し、さらにその市町村がどのような方針で水道事業を行っているかを踏まえて総合的に評価することで、更新の優先順位をつけることが重要になってくるのです。

今回、クボタが収集した調査データとAI技術を組み合わせた新たな老朽度評価モデルを構築したことによって、従来の老朽度予測と比べて精度が大幅に向上しました。この評価方法は、グループ会社の一つである管総研の管路診断サービスにもすでに適用されており、今後の現場での活用が期待されています。

新しい老朽度評価方法のイメージ

新しい老朽度評価方法によって、現在と将来の漏水危険度を色分けしたマップ

新しい老朽度評価方法によって、同一地域の水道管の漏水危険度を、現在と将来(n年後)で色分けしたマップのサンプル。現在は危険度が少ない青いラインの水道管の中にも、更新しないで年数が経過すると将来は危険度が高い赤で示された部分があることがわかります。この赤い部分を優先して更新していくことで、漏水の危険を最小限に抑え、効率的な更新工事を行うことが可能になります。

一人ひとりが「水」に対して関心をもつ社会をめざして

ここまでお話をうかがって、日本の水道事業が抱える課題の大きさを再認識しましたが、水を使う私たち一人ひとりにできることは何かあるのでしょうか。吉岡さんにこのような質問をしたところ、「私から逆に質問ですが、ペットボトルの水は500ミリリットルで約100円ですから、つまり、1リットル約200円ですね。では、水道水1リットルに対する全国の平均水道料金はいくらぐらいでしょうか」という問題提起がありました。

答えはなんと0.2円だそうです。つまり、私たちはペットボトルの水の1000分の1の対価で、飲用できるレベルの水を潤沢に使用していることになります。

水環境事業本部長の吉岡さん

「水インフラの未来」について語る吉岡さん。現在さまざまな研究が進められており、今後、技術が進化していけば、将来、生活排水を飲み水のレベルにまで浄化し、水の完全リサイクルを実現するのも決して夢ではないと言います。

吉岡さんはインタビューの最後をこうしめくくりました。

「このまま何も手を打たなければ、水道料金が今の何倍にもなる可能性もあります。子や孫の代になっても、蛇口をひねれば安全な水が潤沢に使える社会を持続させるためには、行政や民間企業が大変な努力をして水インフラを維持していく必要があり、それには膨大な費用がかかります。そうした現状をお一人お一人にご理解いただき、『水』に対する関心を高めていただくには、水環境事業に携わるわれわれの側から、もっと積極的にさまざまな発信を行っていかねばならないと思います。生きていくうえで欠かせない水の問題について、これから皆さんと一緒に考え、取り組んでいければ幸いです」

編集後記

広範でなおかつ奥が深く、なかなか全容がつかみにくい「水」問題を、かみくだいてわかりやすく解説してくれた吉岡さん。特に、クボタが関わる三浦市でのコンセッション方式の新事業は、未来への可能性を感じさせる提案が印象に残りました。今後、官民連携が進んでいけば、子どもたちが水の大切さを学ぶ教育に対する取り組みも一層進展し、次代を担う世代の「水」に対する意識も変革していくのかもしれません。それが、次世代に安心・安全な水を届ける持続可能な社会づくりにつながっていくことを切に願います。

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