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農業高校生がつくる酒米「蔵の華」“復興太鼓”名取の地に響く(宮城県農業高等学校の取り組み)

2017 . 12 . 27 / Wed

“復興太鼓”名取の地に響く(宮城県農業高等学校の取り組み)

文・写真=クボタプレス編集部

日本酒の瓶ラベルに校章のデザイン!? 何とも不思議な組み合わせが印象的なお酒は、特別栽培米「蔵の華」を100%使用した純米酒『宮農復興太鼓』。銘柄にその名が付く宮農とは、宮城県の名門校、宮城県農業高等学校(以下、宮農)です。この純米酒は、宮農が東日本大震災からの復興を願って学校で栽培した酒米をその取組みに賛同した県内の蔵元が醸造したお酒。震災から6年経った今もなお、この思いと取組みは風化することなく、宮農の先輩方から在校生に受継がれています。

被災から6年、念願の新校舎完成へ

宮農は1885年(明治18年)、仙台市長町に宮城農学校として開校した創立132年の歴史ある農業高校です。地域農業発展への寄与にとどまらず、全国に多くの優秀な人材を輩出しています。1977年(昭和52年)に大規模農場を有する名取市に移転し、恵まれた自然環境のもと、より実践的な教育を展開してきました。しかし、名取市の沿岸部にあった宮農は、6年前の東日本大震災で大きな被害に見舞われます。

震災時を知る宮農の佐藤淳先生は、「ちょうど入試業務の時期でしたので、登校していた生徒は少なく、全員無事で難を逃れたものの、津波によって校舎の2階部分まで浸水し、実習用の農業機械や設備はすべて流されてしまいました。現在も、宮城県農業大学校内の仮設校舎で授業を行っています。来年春には、高館地区に念願の新校舎が完成し、移転できるところまできました」と話します。

佐藤淳教諭

宮城県農業高等学校の佐藤淳教諭

新校舎

名取市高舘地区で2018年(平成30年)4月落成を目指し、建設が進む宮城県農業高等学校の新校舎

お酒の持つ“集う力”で、地域に再び元気を

純米酒『宮農復興太鼓』は、震災の翌年、当時の白石喜久夫 元校長の発案で誕生しました。仮設校舎で学ぶ農業科作物研究班の生徒たちが酒米を栽培し、お酒を造って復興酒として商品化することに。「お酒には、人が集う力があります。一人で悩まないで、大人の方たちにお酒を飲み交わしながら語り合ってほしい。地域の復興に向けたさまざまな集いの中で、お酒をコミュニケーションツールとして励まし合うことで、一歩でも前に進めれば…… との思いからでした」と佐藤先生は明かします。

宮農の挑戦は、栗原市で銘酒『綿屋』を醸す金の井酒造の協力を得て実現することが決まり、地元の被災者を励ますと同時に、校舎を失った生徒たちの再出発にも大きな自信となりました。

宮農の思いを受け止めた蔵元の心意気

宮農の試みに賛同した金の井酒造の三浦幹典社長は、「思い起こせば震災の翌年です。校長先生が訪ねて来られまして、地域を励ますために、生徒たちがつくるお米を使って、それをお酒にしたいと熱心に話されました。先生の強い思いと生徒たちのやる気に触れ、地域のためにがんばる高校があるんだ――と、二つ返事でお受けしました。私にとっては、こういった分野は初めての試み。そこに関わった人たちのいろいろな気持ちを受け止めて、それを形にしていかなければなりません。当然、結果も求められる。責任重大ですね。とにかく私たちの持てる限りの醸造技術を尽くして、美味しいお酒を造り出そうと思いました。イメージは、“軽やかでキレの良いお酒”。お魚や野菜、天然の食材に合うような仕上げを目指しました」と語ります。

金の井酒造の三浦幹典社長

宮農の復興酒づくりに協力する金の井酒造の三浦幹典社長

直播栽培でつくる環境にやさしい酒米「蔵の華」

原料となる酒米「蔵の華」は、クボタと連携した直播栽培でつくられています。震災後、宮農からの依頼に応え、農業機械科の授業で使用するディーゼルエンジンを寄付したことがきっかけとなり、クボタは、実習で使用する農業機械の貸し出しや栽培技術の学習会、実技実習のサポートを行って、宮農を支援しています。

「クボタさんに提案いただいた支援内容に、水田に直播機で種もみをまく新しい技術・鉄コーティング直播栽培の学習がありました。もとより宮農がお世話になっている名取沿岸部の農家さんから、水田は復旧しても農業機械が流されているために、米づくりを再開できない被災農家さんがいると聞いていました。そこで、育苗がいらない鉄コーティング直播を活かして、地域の農家さんと一緒に田園風景を取り戻すことに挑んだのです。それ以来、農業科作物研究班では、クボタさんと連携を図り、鉄コーティング直播栽培を授業に組み込んで、低コスト・省力栽培の知識と技術の習得を目指しています」と佐藤先生。

「蔵の華」も鉄コーティング直播による栽培です。しかも宮農では、食の安全・安心を求め、農薬や化学肥料を慣行栽培の半分以下で栽培する環境保全米に徹しています。

「蔵の華」の播種作業

直進キープ機能を搭載した最新型田植機を使って行われた「蔵の華」の播種作業

鉄コーティング直播の勉強会

クボタ技術顧問による鉄コーティング直播の勉強会

農業科作物研究班2年生

農業科作物研究班2年生の皆さん

宮城県清酒鑑評会で優秀賞、酒米としての高い評価

生徒たちは酒米栽培への関与・関心にとどまらず、日本酒の醸造に接して、6次産業化へのアプローチに興味と意欲が高まったといいます。三浦社長は、「農業科の生徒の皆さんには、最初の年は酒蔵の見学や酒米の仕込み・瓶詰め作業体験で、蔵に3回来てもらいました。その過程でミーティングを開き、生徒さんの代表と校長先生にも加わっていただいて、ラベルのデザインについても検討を重ねました。校長先生が考えられた『復興太鼓』のネーミングをもとに、宮農のエンブレムをデザインに活かしたらどうかと私が提案して、今のデザインに落ち着きました」と初年度を振り返ります。

商品化された『宮農復興太鼓』は、地元の方に喜んでほしいという校長先生の思いを叶えるように、まずは地元のお店で販売開始。高校生が酒米をつくったことがマスコミで紹介されるとともに、本来の目的通り、『宮農復興太鼓』を飲みながら居酒屋で語り合う姿が見られるようになりました。さらに、2014年(平成26年)には、宮城県清酒鑑評会で優秀賞を受賞。その年、金の井酒造が造ったお酒のうち、「宮農が栽培した酒米が一番良い出来」との評価を受けました。いまや地域での知名度も高く、また学校からの要望もあり、今年から仙台市内の大手デパートの協力を得て、販路が拡大されています。

「蔵の華」

宮農の実証圃で栽培される「蔵の華」は、酒米として高い評価を獲得

復興から再生へ! 先輩たちの気持ちと技術をつなぐ酒米づくり

宮農の酒米「蔵の華」の栽培と商品化への取組みは、農業科のカリキュラムに6次産業化の学習項目として組み込まれ、農業科作物専攻生に引き継がれて、現在も継続して行われています。このプロジェクトに対する評価は高く、昨年度は、全国農業高校・お米甲子園(米・食味鑑定士協会主催)のプレゼンテーション部門で優秀賞を受賞、今年度は、全国高校生 農業アクション大賞(全国農業協同組合中央会・毎日新聞社主催)の支援対象に選出されました。

「この6次産業化の取組みは、『復興に向けて太鼓を響かせていく』という名前の通り、強い思いで、ずっと生徒たちが継承していくことでしょう。継続研究することで、先輩たちが見つけ出した課題を、自分たちが一つひとつ解決することになります。それによって、もっと良いものができる、さらに良い技術が育まれるという形につながると思うのです。復興から再生の時期を迎えて、これからもっと前進していくと信じています。また私は、農業に対する古いイメージを払拭して、農業はカッコよくて・儲かって・感動を与える産業なんだよということを、生徒たちにぜひ教えたいですね。昨今、農業は最新の機械や技術の開発・導入によって、新しい産業分野になってきています。そのような場所で活躍できる人材を増やしていきたいと考えています」と佐藤先生は熱く語ります。

宮農の学校スローガンは、「歴史と伝統にふさわしい進世宮農を目指し」。進世とは、世の中に広く貢献できるよう一歩先へと前進していく意の造語です。この宮農がつくる酒米「蔵の華」、そして『宮農復興太鼓』こそ、まさに“進世”そのものを体現しているでしょう。

農業科作物研究班3年生

先輩方の思いを受け継ぎ、酒米づくりに取り組む農業科作物研究班3年生の皆さん

6次産業化とは

農山漁村には、農林水産物をはじめ、再生可能エネルギーや風景・伝統文化など、豊かな地域資源があります。農林水産物そのものの生産にとどまらず、生産物の価値を高めた商品を農林漁業者[1次産業]が作ることで、所得・雇用の向上が見込まれます。例えば、もとの生産物に付加価値を生むため、農林漁業者は食品加工[2次産業:製造業]、流通・販売[3次産業:サービス業]にも関わります。このように、経営を多角化しながら農山漁村の経済を活性化することがねらいです。6次産業の「6」は、農林漁業本来の1次産業に、2次産業と3次産業を取り込むことから、1次産業の1×2次産業の2×3次産業の3をかけ算した6を意味します。
農林水産省は、若い世代も定住できる社会を目指し、農林漁業の6次産業化を推進しています。

【参考】

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