被災時でも、安心してすぐに使えるマンホールトイレについて考えてみた

2020 . 4 . 16 / Thu

LIFE

避難所で水や食料より切実な「トイレ」問題被災時でも、安心してすぐに使える
マンホールトイレについて考えてみた

文・写真=クボタプレス編集部

1995年に発生した阪神・淡路大震災などの巨大地震をはじめ、台風や豪雨といった記録的な自然災害に何度も見舞われてきた日本。各自治体で避難所の整備が急ピッチで進められていますが、その際の重要な設備のひとつが災害用トイレです。大きな災害が起こると、停電や断水などにより、普段当たり前に使っている水洗トイレは使用できなくなることが多いためです。

災害用トイレを大きく分類すると、屋内で使用する「携帯トイレ」「簡易トイレ」と屋外で使用する「仮設トイレ」「マンホールトイレ」の4種類があります。このうち、仮設トイレは工事現場や花火大会などのイベントでよく利用されますが、災害時は数の確保や運搬に時間を要することが課題になっています。そこで注目されているのが、下水道管路に敷設したマンホールの上に簡易な便座や個室を設け、迅速にトイレ機能を確保できるマンホールトイレです。今回のクボタプレスでは、このマンホールトイレに着目し、利便性や可能性について探ってみたいと思います。

健康被害をも引き起こす災害時のトイレ問題

NPO法人 日本トイレ研究所が東日本大震災の被災地で行った調査によると、「地震発生時から何時間でトイレに行きたくなったか」の問いに、70%近くの人が「6時間以内」と回答しています。また、阪神・淡路大震災の被災地では、「今、必要なもの」の上位に「トイレ」を挙げる声が多かったことを示すアンケート結果もあります。このことから、災害発生時には、水や食料より先に、災害用トイレの設置が求められることが分かります。「さらに問題は、東日本大震災発生後、避難所に3日以内に仮設トイレが行き渡った自治体は34%に過ぎなかったことでした」と、NPO法人日本トイレ研究所代表・加藤 篤さんは指摘します。

阪神・淡路大震災の避難所で聞いた、「今、必要なもの」

1月20日 1月21日 1月22日
1.トイレ 1.トイレ 1.下着
2.毛布 2.下着 2.医薬品
3.医薬品 3.医薬品 3.トイレ
4.生理用品 4.テント・
シーツなど
4.テント・
シーツなど
5.紙おむつ 5.紙おむつ 5.暖房器具

1995年1月24日付日本経済新聞

水や食料はある程度我慢できたとしても、排泄を我慢することはできません。加藤さんによると、「過去の震災では、不衛生、暗い、使い勝手が悪いなどのトイレ環境の悪化により、トイレに行く回数を減らすために水分を控えたことで脱水症状になる方がいらっしゃいました。また、下肢静脈血栓をひき起こした方もいらっしゃるという報告があります」とのこと。災害時のトイレ問題は、精神的なストレスになるばかりか、健康被害を及ぼし、命にかかわることさえあるのです。

NPO法人 日本トイレ研究所で代表理事を務める加藤篤(かとう あつし)さん。すべての人が安心してトイレを利用できる社会づくりを目指されています。近著に『うんちはすごい』(イースト新書Q)など。

シンプルで使いやすさを追求したマンホールトイレの誕生

もちろん、仮設トイレだから不衛生というわけではありません。運用次第では清潔に使えるのですが、基本的に外部から避難所に運び込まなければいけないため、災害時の道路事情等によって、どうしても設置が遅れてしまうという問題を抱えています。「緊急時にいつ、何台設置できるのかが見えないことも不安要素になります。その点、マンホールトイレはあらかじめ整備さえしておけば、専用のフタを外して個室や便器を設置するだけで、すぐにトイレとして使用することができます」と、加藤さん。

マンホールトイレは、「災害用トイレ」と書かれた鉄製のフタを外すとそのまま和式トイレに、上部に洋式便器を設置すれば洋式トイレになる兼用タイプが一般的です。

クボタケミックス(旧クボタ合成管事業部)は、2001年にこのマンホールトイレの開発に着手。「水を貯めているので不衛生」「構造が分かりにくい」「部材が高価」といった、既存のマンホールトイレに不便さを感じていた自治体からの要請がきっかけでした。当時のエンジニアたちは、その要請に応える形で、「水洗であること」「リブ付き小型マンホールと下水管をつなぐシンプルな構造」などの基本コンセプトを固めていきました。2002年には大規模な流下実験を実施。その後、実使用時の掃流性と操作性を良くするため、水門付きの洗浄ユニットを開発し、2009年に現在の形である「災害用トイレ配管システム(直結型)」の販売を開始しました。

災害用トイレ配管システム(直結型)の仕組み

この直結型は東日本大震災でも活躍した、下水道管路に直結して使用する災害用トイレ配管システム。少ない洗浄水で汚物を浮かせて流下させるため、衛生的かつ経済的です。

開発の成功を、クボタケミックスの斉藤さんは次のように話します。「本システムを開発できたのは、上下水道管を製造するクボタグループとして、これまで蓄積した管路に関する技術やノウハウがあったからこそですし、それが我々の強みです。そして、この直結型の災害用トイレ配管システムを大規模地震対策として導入いただいたのが宮城県東松島市でした」。

斉藤行彦(さいとう ゆきひこ)さん。1992年入社。現在マーケティング部第二グループに所属し、インフラ市場全般を担当。

「東松島市では、2004年の新潟県中越地震の際、現地に応援に駆けつけた市の職員が、避難所のトイレ問題を目の当たりにしたのをきっかけに、マンホールトイレの整備を決められました。当社が提案した災害用トイレ配管システムの、衛生面や運用のしやすさを高く評価いただき、2009年に着工されました。市内16か所の指定避難所のうち5か所の整備が完了したのが、東日本大震災の前年12月と聞いております。客先から『果たしてこのシステムをいつ使うことになるのだろうかと話をしていた、そのわずか3か月後に巨大地震が発生し、活用することになった』というお話を伺ったときは、弊社のマンホールトイレがお役に立てて良かったと、とても感慨深い気持ちになりました」と、斉藤さんは振り返ります。

低コストでコンパクト。整備・運用のしやすさが強み

現在、クボタケミックスの災害用トイレ配管システムには、「直結型」に加えて、3日分のし尿と洗浄水が貯留できる機能を備えた「直結・貯留型」の2つのタイプがあります。

災害用トイレ配管システム(直結・貯留型)の仕組み

万が一、下水道管路が被災した場合でも、専用のレジンコンクリート製貯留槽に汚水を3日間貯留できます。また、下水道管路が被災していなければ、直接流下できる2WAYタイプ。

配管にはいずれもクボタケミックスが自社で製造するリブパイプという塩ビ管が使われています。通常塩ビ管は埋設する際に砂が使われますが、地震発生時は振動により液状化が発生し、管が浮き上がる恐れがあります。一方、リブパイプはその特殊な構造から砕石による埋設が可能で、液状化に強い管路をつくることができます。

埋設された配管部分は、リブパイプが直線状に並び、シンプルな構造であることが分かります。

「リブパイプおよび塩ビ製小型マンホールは、このシステム専用のものではなく、一般的な下水道管路としても広く使われている配管材で、経済性に優れています。また、配管口径が小さく軽量・コンパクトなため、整備コストを抑えることができるのが特長です」と、クボタケミックスの松尾さんは自社システムの優位性を説明します。

松尾康孝(まつお やすたか)さん。1993年入社。現在マーケティング部第二グループに所属し、下水土木市場を担当。

し尿を押し流す洗浄水は、プールの水や井戸水を手押しポンプで洗浄ユニット貯水槽に一定量を貯め、定期的に水門を開けて管路内を掃流します。手押しポンプはさほど力を必要としないため、マンホールトイレを利用する被災者自身が、容易に運用できることも特筆すべき点です。

マンホールトイレの良さを周知するための平時活用を

国土交通省の指針では、50~100人につき1基のマンホールトイレが必要とありますが、全国のマンホールトイレの数は平成29年度時点では3万基程度で、まだまだ不足しているのが現状です。なかなか整備が進まない原因のひとつが認知度の低さにあると、前出の加藤さんは指摘します。「防災においては、自治体の防災課や危機管理課、公園課をはじめ、避難場所となるエリアの教育委員会などが対策にあたります。マンホールトイレの利便性はそうした関係各所まで広く知られていません。一般の人たちも同じです。知られていないから期待もされていない。だからこそ、イベントなど平時での利用シーンを増やし、多くの人にマンホールトイレを知ってもらうことは一手だと思います」。

2017年に東京都墨田区の錦糸公園で開催された桜祭りで、クボタケミックスの災害用トイレ配管システムが臨時トイレとして利用されたことは、そうした認知拡大の後押しとなるでしょう。「錦糸公園には2011年に10基のマンホールトイレが災害対策用として設置されており、区の道路公園課のご担当者から、これらを利用できないかとご相談いただいたのが始まりでした」と、斉藤さん。「錦糸公園では毎年桜祭りの開催時に、汲取式の仮設トイレを2基設置されていたが、容量が一杯になり使用できなくなるとか、トイレが汚いなどさまざまな苦情が寄せられており大きな課題となっていました。それを解決する手段として、大手レンタル機器メーカーと連携し、仮設トイレを活用したマンホールトイレを提案しご採用いただきました。あらかじめ給水管を引込むことで水が流れ、普通の水洗トイレと同様に使用できることから、利用者からの苦情もなく、また、下水道管と直結しているため、容量制限で使用できなくなるということも一切ありませんでした。こうした利点も含めてPRしていければと思います」。

個室内にはセンサーライトを設置。トイレに入る人を検知して自動で点灯するため、夜間での利用時も安心です。

マンホールトイレを平時に利用するメリットは、認知拡大のほかにもあります。平時に実際に使用してもらうことで、実践的な訓練になります。さらには、「バッグを置く場所がほしい」「男女のトイレを色分けしてほしい」など、さまざまなニーズを把握することができます。これらを災害用トイレに反映させれば、体力的にも精神的にも負担を強いられる災害時のストレスを、少しでも軽減することができるのではないでしょうか。

マンホールトイレに求められるのは「いつものトイレの安心感」

災害時は、いつもと同じ水洗トイレが使用できないことがストレスになります。そこでマンホールトイレに期待されるのは「質の高さ」です。例えば、丈夫で安心できる個室空間を作ること、夜間でも照明で明るくすることなど。こうしたニーズに対応し、トータルでトイレ環境を整備することで、平時と同等のトイレ環境を実現できるのがマンホールトイレの強みです。

「マンホールトイレにおいて、私たちは地中に埋設される部分を担い、使用される配管に関する技術やノウハウに自信をもっています。今後は個室や便器、夜間照明などの上物も含めてトータルで提案できるように製品開発を進め、安心できるトイレ環境づくりに貢献していきたいと考えています」と、クボタケミックスの村瀬さんは今後の展望を語ってくれました。

村瀬洋一(むらせ よういち)さん。1993年入社。現在マーケティング部に所属し、プロモーションを担当。

災害時、避難所に水や食料よりも迅速な設置が必要な災害用トイレ。クボタケミックスは、その有効な解決策として災害用トイレ配管システムを開発し、自治体を中心にマンホールトイレの整備を提案してきました。実際、宮城県東松島市では東日本大震災で被災直後から20日間以上も運用できたこと、清潔さを保てたことなどの利便性が評価され、全国の自治体や施設、集合住宅などに、少しずつですが普及しています。

さらにマンホールトイレを日常のトイレの安心感と使い勝手のよさを合わせ持った質の高いトイレに進化させ、スタンダードな備えとして広く普及すれば、災害時のストレスを軽減させ、排泄を我慢することで生じる健康被害も抑えることができるでしょう。マンホールトイレは、そんな可能性を持った社会的な意義のある備えであることが、今回の取材で分かりました。

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