GLOBAL INDEX
March 2015

FEATURE
"Myanmar"

02

ミャンマーの成長モデル
“ティラワ経済特別区”

広大なティラワSEZゾーンA。草木が茂る原野の面影はない

新都市構想の中の工業化モデル

JICAミャンマー事務所長
田中雅彦 氏

ミャンマーへの日本の援助はJICAを通じて行われている。援助規模は大きく、「国民の生活向上のための支援」「経済・社会を支える人材の能力向上や制度の整備のための支援」「持続的経済成長のために必要なインフラや制度の整備等の支援」に区分される。「持続的経済成長の支援」の筆頭として始まったのが、「ティラワSEZ」である。SEZとは、Special Economic Zoneの略で、経済特別区のことをいう。開発主体は、ミャンマー・日本共同事業体(ミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント(以下、MJTD))。MJTDは、ミャンマー側(政府、民間)が51%、日本側(三菱商事、丸紅、住友商事)が49%出資し、2013年に設立。JICAが2014年4月に出資を決定した。本プロジェクトの意義をJICAミャンマー事務所長の田中雅彦氏に伺った。

「ティラワSEZは、新しい都市開発構想です。工業団地のみならず、住宅から、大学、研究機関などまでが計画されています」

JICAのティラワにおける役割は、3つある。まず、JICAの円借款を活用しての、電気、水道、港湾、道路などのインフラの整備。次に、MJTDへの出資によって、開発主体のいちステークホルダーとしてプロジェクトを推進すること。これは日本政府の意思の表れである。最後が、「ティラワSEZマネジメント・コミッティ」というミャンマー政府側の実施機関に対して、制定したSEZ法をどのように運用していくかの指導である。田中氏は「ソフトもハードも、ここまで関与したプロジェクトはJICAでも例がない」と続ける。

ティラワSEZ全体像イメージ

ミャンマーにかけるそこまでの想いとは何なのだろう。

「日本とミャンマーの歴史は古いです。2014年は外交関係樹立60周年ですが、戦前は日本にミャンマーからお米を送ってもらっていたこともあります。戦後の食糧難のときも、ほぼ無償で送ってくれていました。さらに、日本がサンフランシスコ講和条約で国際社会に復帰するときにも、一番に支援をくださるなど、日本の戦後賠償受け入れの第一号となってくれました」

この国の人たちの恩義を忘れてはならない。

「1988年以降、軍政が敷かれ各国が経済制裁を実行し撤退しましたが、JICAは留まり、保健や教育、人材育成など、人道支援を続けました。そして2011年のテイン・セイン政権での民政化にあたり、フルサポートしようとなったわけです」

ティラワの開発は、先進国並みのインフラ水準をつくり上げ、そこに海外資本を投資、雇用をつくり全土に展開していくものだという。ミャンマーでは3つのSEZ計画があるが、ヤンゴンに近い大動脈であるティラワは、ミャンマー政府からの要請もあり、日本政府主導のプロジェクトとなった。

「ティラワは先進の都市です。環境に関してもスマートシティであることが理想です。未来のあるべき姿を見せることで、ミャンマー全土に波及させていきたい」

田中氏の熱い言葉はいつまでも耳に残った。

新都市構想の中の工業化モデル

MJTD社長
梁井崇史 氏

ティラワSEZは、開発面積2,400ha。すでに先行開発区域(ゾーンA:約400ha)の第一期工事に着工、2015年の完工を目指す。ここに大規模な工業団地ができる。第一期の用地造成工事は五洋建設が受注し、サブコントラクタとしてクボタが採用された。クボタは、取水・給水設備、浄水場、下水処理設備の建設工事を担う。取水・給水にはダクタイル鉄管、浄水場・下水処理設備にはランニングコストの低いクボタ独自の方式が採り入れられた。

開発を進めるMJTD社長の梁井崇史氏を訪ねた。梁井氏は海外で数々の工業団地を立ち上げ、成功させてきたプロフェッショナルだ。MJTDに出資する住友商事からの出向である。今までのミャンマーの工業団地とティラワの大きな違いは何なのだろうか。

ティラワSEZゾーンAの看板。サブコントラクタとしてクボタの社名も入る

「これまでのミャンマーの工業団地は、電気も水道もなく土地だけというのがほとんどでした。しかし、ティラワにはすべてが整備されています。日本でイメージする工業団地そのものです」

2015年1月22日現在、34の企業が進出を決めているという。日本のほか、ミャンマー、アメリカ、タイ、スウェーデン、オーストラリアなど、9カ国とグローバルな構成となっている。業種は、縫製、電子機器、製薬、飲料など多岐にわたる。変わったところでは車いすをつくる会社や、国内の建築ブームに乗って建材メーカーも参加している。2015年の夏には3社が操業を開始する予定だ。ミャンマーに進出する企業の特徴を梁井氏に聞いてみた。

「ミャンマーに進出する企業には2種類あります。生産拠点として、あるいはマーケットとして捉える企業。生産拠点としては脆弱だったので、今までは縫製が中心でしたが、今回のティラワ工業団地では画期的にインフラ整備をしたことで、どの業種にも対応できるようになりました。一方、マーケットとしては、ルールが未整備なことも多いですが、マーケットを開拓しようという意思さえあれば、今ならこの国のスタンダードになる可能性があります。チャンスと捉える企業には格好の場所です」と笑った。

そんな梁井氏も、初めは、プロジェクトを無事に進めることができるかどうか自信がなかったという。勝算が全く見えなかったからだ。しかし、ミャンマー政府関係者と何度か会ううち、「これはいける」と確信したという。

「プロジェクトの成否は、責任者の真剣さ次第です。それがあれば絶対成功します」

これまで幾多の工業団地プロジェクトを経験してきた梁井氏だからこそ、感じ取れる成功の鍵がある。

ティラワSEZプロジェクトは、日本政府とミャンマー政府が関わる将来を占うビッグプロジェクトだ。ミャンマーでは雨期の影響もあり、工期が遅れることは当然と思われている。スムーズに工期を進めることは、日本企業が持つ力をミャンマー、そして世界の国に示すことにもなる。

「工業団地がオープンしたら、クボタさんの水処理設備を見学できる展示場にしたいと思っています。ここで日本企業の力を披露することができるのです。だから我々は絶対に成功させなくてはならない」

梁井氏は力を込めて語った。すべてはミャンマーと日本のために。日本企業一丸となって、TEAM JAPANは工事を急ぐ。

周辺には原野が広がり、放牧された牛が草木の間から顔をのぞかす

ティラワ経済特別区(SEZ:Special Economic Zone)概要

  • ヤンゴン中心市街地から約23km南東の位置にあるティラワ経済特別区に、工業団地・商業施設などを開発するプロジェクト。
  • 開発面積:約2,400ha(品川区面積と同等)
    先行開発エリア(ゾーンA約400haを優先的に開発)
  • 開発者:ミャンマー・日本共同事業体(ミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント(MJTD))
    MJTDは、ミャンマー側(政府、民間)が51%、日本側(三菱商事、丸紅、住友商事)が49%出資し、2013年に設立。
    JICAが2014年4月に出資を決定。2014年5月に投資家へSEZ用地の販売開始。
    (以上、JICA資料より)