GI JOURNAL
July 2017

豊島廃棄物処理
プロジェクト

雨水が廃棄物を通じて汚染水に。
排水処理を止めない、雨との戦い。

森 英信
クボタ環境サービス(株)
豊島KS第2事業所長

およそ14年の長い歳月をかけた、豊島の“産業廃棄物処理”はクボタの不断の挑戦と努力によって終息をみた。2017年7月上旬、廃棄物処理終了のセレモニーも執り行われた。しかしこれをもって豊島の廃棄物処理がすべて終結したわけではない。大きな課題が残されている。それが廃棄物処理と並行して行われてきた“汚染水処理”の問題である。そもそも豊島の廃棄物等処理事業は、実施期間中を通じて継続的に周辺地域への汚染の拡大を防止するため、汚染水対策から着手されている。まず、廃棄物層から浸出する有害物質を含む地下水・浸出水が北海岸から海域へ流出するのを防止するため、海岸に沿って、長さ360mにわたり、2~18mの深さで遮水壁を打設。遮水壁によって流出を防いだ地下水・浸出水はポンプで汲み上げ、新たに設置された高度排水処理施設で浄化して海に放流するという取り組みを進めてきた。

この汚染水処理担当として、2015年7月に着任したのが森英信(クボタ環境サービス(株) 豊島KS第2事業所長)である。森は入社以来11年間にわたり、し尿処理場の運転に携わってきた水処理のエキスパート。「不安は大きかったものの、この事業に抜擢されたことを光栄に感じた」と当時を振り返る森だが、実際の現場の水管理は、困難であった。着任時から半年後、廃棄物の掘削が最終局面を迎えていた。それとともに汚染水処理の状況も大きく変わってきていた。そもそも汚染水が発生するのは、雨水によるところが大きい。雨が降ると、廃棄物で汚染された有害物質を含む水が発生する。これを閉じ込めて高度排水処理を行うわけだ。だが森が着任した当時、廃棄物掘削現場はかつてとは様相を異にしていた。

「それまでは、掘削途上にありましたから、廃棄物自体が雨水を一定程度保持していました。つまり降雨後に処理すべき汚染水は限定的でした。たとえばかつて雨が100mm降ると処理すべき汚染水は約1,000~1,200 m³であったのが、その4倍以上の規模に膨れ上がったのです。6月と9月には、約300mmの降水を記録し、1ヶ月で約1万2000 m³汚染水が発生したのです。しかし高度排水処理施設の一日の処理量は80 m³。掘削を止めることはできませんし、水の滞留は掘削重機の作業に支障を及ぼします。汚染水を一時的に貯める貯留トレンチを活用し、降雨や油分の除去に備えて増設した凝集膜分離装置、活性炭吸着設備、加圧浮上装置を汚染度によって処理方法を変更するなど、状況に応じて臨機応変に対応し、今回廃棄物処理の終了を迎えました」。

森は日々空を見上げ、雨が降れば一刻も早く止むことを、晴天が続けばそれがさらに継続することを祈りつつ、蓄積してきた水処理の知見を活かして汚染水処理を進めてきた。

「貯留トレンチの水が溢れれば掘削中断が起こりかねません。貯留した雨水を溢れさせずに速やかに排水処理を進めること。それが私の役割でした」。

森に言わせれば“雨水との戦い”だった。雨水を溢れさせなかったこと、高度排水処理設備の安定稼働を成し遂げたことは、森のいわば勲章でもある。そして今、豊島廃棄物等処理は最終コーナーで、総括所長の後藤から森にそのバトンが渡されたのである。「豊島竣工以来、高度排水処理施設を守ってきた前所長の西川さんはじめ携わってきた方の思いを受け継ぎ、水を綺麗にして豊島の住民の皆さんにお返ししたいと思っています」。

現在も稼働を続ける高度排水処理施設
高濃度のダイオキシン類も処理するダイオキシン類分解処理装置

「地下水浄化」という新たな挑戦が始まった。
2022年、豊島完全修復へ。

廃棄物掘削とその処理が終了し、今、不法投棄現場は、瀬戸内の暖かな陽光を浴びて静謐な佇まいを見せている。だが、問題は地下にある。廃棄物不法投棄現場の汚染された廃棄物や土壌を通じて浸入した雨水は地下水に達している。表面土壌は掘削されており汚染は解消されているが、問題はさらに深い地帯の土壌汚染であり、そこを通過し汚染された地下水を放置しておくわけにはいかない。地下水が浄化した暁にこそ、豊島の環境“完全修復”が宣言できる。現在、森が取り組んでいるのが、この「地下水浄化」だ。

「まず、どの程度の汚染度合なのか、汚染箇所はどこなのか、ボーリング調査によって地下水汚染状況を把握する作業から始めています。その結果を検討しつつ、最善の浄化方法を模索している段階。掘削時も一部で地下水浄化の取り組みは進められていましたが、本格的な取り組みは緒についたばかりです」。

具体的な浄化方法は今後の検討課題だが、基本的な浄化の構造は、井戸を掘ってポンプで地下水を汲み上げ高度排水処理を施すことだ。汲み上げることが浄化の第一歩。たとえば、汚染物質のベンゼンは非水溶性液体であり、分解されにくい。また、粘度が低く地下水面まで容易に浸透し水平方向に移動することから汚染された地下水をくみ上げ揮発させることで処理を行う。

「汲み上げた後、再び地下水が貯まるまでには一定量の降雨が必要になります。貯まるのを待って汲み上げる。その繰り返しで土壌が雨水で次第に浄化され、地下水も浄化されていくというのが、基本的な浄化構造です。かつて降雨は最大の懸念材料でしたが、今は雨を待っている状態ですね。汚染度合と汚染範囲、汚染物質の内容等、地下水の状況を的確に把握することで、最も有効な浄化方法を専門家の先生を中心として検討されています」。

地下水浄化の終了、すなわち豊島完全修復は2022年を目標としている。問題は何をもって“浄化”とすることだ。

「排水基準をクリアすることは必須です。その上で、さらに厳しいレベルである環境基準をクリアすることを目標としています。その達成のためには、これまでと変わらない地道な作業を継続していく必要があります。日々の積み重ねの中で変化を捉え、常に最適な解を導き出していくこと。それを持続していく志が豊島不法投棄現場の完全修復への道と確信しています」。

高度排水処理施設で浄化された水は遮水壁を挟んだ先の海に放流されている。

Epilogue

豊島産業廃棄物不法投棄事件。それは、産廃物行政のあり方のみならず持続可能な社会のあり方を、広く世の中に問うはじまりとなった事件だった。そしてそれは、一度環境が汚染されると、その修復のために膨大な労力と多大な時間が必要とされることを端的に物語っている。クボタは、豊島不法投棄現場の完全修復のために惜しみなく労力と時間をつぎ込んできた。その軌跡は民間企業が有すべき社会的使命の実践であり、「事業そのものが社会貢献」という創業以来継承されてきたクボタのDNAを余すことなく伝えるものだ。先述の通り、豊島廃棄物等処理はまだ終わっていない。森をはじめとしたクボタ社員の新しい挑戦が始まっている。クボタは粛々と地道に、「完全修復」への道を切り拓き、未来を紡いでいく――。