GLOBAL INDEX 2011 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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3233Chapter.2 [水] 命の水源、巣湖の蘇生 Ⅱ継ぎ早に建設されている、その名の通りの新しい街である。濱湖新区を一言で表現すれば、近未来的住宅地ともいえようか。街を碁盤の目で区切られた幅広い幹線道路が貫き、道沿いにはどこまでも続くような瀟洒な高層マンションが立ち並ぶ。数年前から建設が開始され、現在約7,000世帯分の住居が確保されているという。驀進を続ける中国経済の証ともいえる風景だが、どこか異様に感じられるのは、人の姿をあまり見かけないせいだ。聞けば、その多くが投資用マンションとして購入されているという。中国不動産バブルの一つの姿なのだろう。新農村、巣湖、旧農村、新区……めまいさえ感じる風景の落差に、中国の今が映し出されている。 中国にとって最大の政策目標の一つが社会の安定維持である。多民族国家であることはもちろんだが、中国史を見ればわかるように、各時代の王朝末期には都市と農村の格差の深刻化が引き金となって民衆の動乱が勃発している。すなわち、都市が繁栄しても農村の安定が脅かされれば国家の安定はない。最近の急速な経済成長の中、都市と農村の格差拡大はすでに様々なメディアなどで指摘されてきた通りである。その解消のための政策重点の一つが先に述べた三農問題の解決である。これには農村の環境保全が大きな要素を占めており、環境改善は生活水準の向上につながるとされる。従来、農村部は経済水準の低さから、環境規制は都市部よりも緩められる傾向にあったが、主要水系の汚染源が農村部にあることが明確になった現在、今後農村部への規制強化は強められることが予測される。持続可能な社会、あるいは循環型社会構築のためには、農民一人ひとりの環境意識の向上が求められていることは明らかだ。しかし、と思う。かつての農地の上に蜃気楼のように立ち並ぶ新区の近未来的風景。そこに隣り合う新農村や旧農村に生きる人々の中で、水質や環境の問題がどれほどに意識されているのだろうか。飛ぶ鳥落とす勢いの中国経済は、国民を豊かさへの欲望に駆り立てているようにも映る。その中での農村の環境改善は容易なことではない。農民を含めた人々の環境意識向上は、今後中国が循環型社会を目指す上での重要なポイントとなってくるはずだ。中国の「水の未来」は、国民一人ひとりが担うべきことなのだから。巣湖からの帰途、もやに霞む湖面を一望した。その表情に“憂いと希望”、その2つの顔を見たような気がした。 循環型社会構築のために 求められるのは農民の環境意識向上 農民の多くは、旧農村に暮らしながら、日々の農作業に勤しんでいる
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