GLOBAL INDEX 2011 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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ベトナムには、肉類、魚介類、各種野菜と食材は豊富にあり、様々な調理法で食されている。レストランのみならず、市場や通りの屋台でも、バリエーション豊かな美味しい料理に出会えることは間違いない。ここは、ベトナム料理を紹介するのが目的ではないので詳細は省くが、一般家庭の料理について言及しておきたいと思う。ベトナム料理というと、「フォー」や「生春巻き」が思い浮かぶが、いずれも家庭で食べられるものではない。「フォー」は朝食として通勤前に屋台等で食べるのが一般的で、「生春巻き」も頻繁には食べられない。では、一般家庭の料理を代表するものは何かと言えば、ベトナム人の知人によれば、「豚の角煮」と「空芯菜」であり「おかゆ」である。「豚の角煮」は中国や日本のそれと同様の作り方で、南部ベトナム的な濃く甘い味付けが特徴だ。「空芯菜」は東南アジアが原産。ベトナムを代表する野菜であり、にんにく風味の炒めものとして食べられる場合が多く、すこぶる美味しい。ベトナムの家庭においては、古くから米と豚と空芯菜が食の中心にあった。ベトナム人の知人は、幼いときはメコンデルタの農家で育ったが、そこでは当たり前のように豚が飼育されていたという。今でこそ豚は飼料で育てられるが、当時は人が食べた米飯や米麺の残りが餌として与えられた。そして、どこにでも生えている空芯菜は「豚の大好物」だった。つまり、人と豚は同じものを食べ共生し、人は豚を食った。人と豚と米と空芯菜のサイクル、そして連鎖。それは食文化のみならず、ベトナム人の精神の基層に少なからず影響を及ぼしているだろう。一般家庭の料理である「おかゆ」も豚との関わりが深い。「チャオラン」と呼ばれる「おかゆ」は、豚の内臓を米と一緒に炊き込んだもので、美味しいだけでなく「豚のすべてをいただく」想いが結実した料理である。 米をはじめとしたメコンデルタからの恵みに対して、ベトナム人は意識せずとも、心の底で敬虔な感謝の気持ちを持って接してきた。そこで育まれたのが、一般に指摘される勤勉で真面目な国民性であり、苦難の歴史を乗り越えてきた強靭な精神なのかもしれない。ミトーの市場で見かけた空芯菜。その名前どおり茎は空洞になっているホーチミン市近郊の農家を訪ねると、畑では空芯菜の花が咲き乱れ、家屋の一角では豚が飼育されていたFoodVietnam人と米と豚と空芯菜の連鎖 メコンの恵みへの敬虔な想い けいけん けいけん メコンが育んだ独自の食文化 2223ⅠChapter.1 [食] Column

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