GLOBAL INDEX 2011 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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2021メコンが育んだ独自の食文化 各民族の食文化は、日々の生活はもちろん、社会や経済、信仰にいたるまで、あらゆる場面と深く関わり、民族をその民族たらしめてきた大きな要因となっている。ベトナム(主にメコンデルタ)の食文化を概観することで、その民族性(ベトナムは多民族国家であり、厳密にはベトナム民族は存在しない)の精神の基層に迫ってみたい。ベトナムは古来から中国の影響を受けてきた歴史的背景があるため、中国の食の影響が色濃く現れている。またフランスの植民地統治を受けていたため、フランスの食文化の影響も残されている。それぞれの長所を巧みに取り入れ、ベトナムにしかない独特の食文化が生みだされた。 ベトナム人の主食は日本人同様に米である。しかし彼らにとって米は、日本人の考える主食とは大きな隔たりがある。主食というより、比喩的に言えば、“ベトナム人の血肉は米でできている”といった方が適切だ。それほどに、米が食の基底を成している。たとえば、国連農業食糧機関(FAO)の調べによれば、ベトナム人の消費カロリーの約6割が米によるものだ。これは日本人の2.7倍に相当する。米を同じく主食としつつも、摂取量は格段に違う。米は日本同様、炊飯によって食されるが、それ以外にも米の食し方には様々なバリエーションがある。中でも、日本でも人気のあるのが米の麺「フォー」。「フォー」は元々北部ハノイが本場で、生麺を食べるのが一般的。南部でこの「フォー」に対抗するのが「フー・ティウ」という、メコンデルタを代表する米麺である。「フォー」との決定的な違いは生麺ではなく半乾燥させる点にある。それが「フォー」にはない、独特の“コシ”を生む。スープはあっさりしているが、どの店も「フォー」に比べてかなり甘い。麺の上には、鶏肉や豚肉、エビ、香味野菜が乗せられ、唐辛子やライムを絞って好みの味に整える。米から作られる「ライスペーパー」もベトナムを象徴する食材の一つ。ライスペーパーを使った日本でも有名な料理である「生春巻き」は、現地ではさほど食されていないという。最もポピュラーな食べ方は、肉料理や魚料理を食べるときに、香味野菜などと一緒に巻いて食べるというものだ。 この米と並んで、ベトナムの食文化を象徴するのが魚醤=「ヌック・マム」という、強い塩気と独特の香気を持つ調味料だ。「マム」とは魚やエビなどを塩漬けにして発酵させたものを指す。発酵が進んだ上澄み液が調味料「ヌック・マム」となる。「ヌック・マム」の誕生は、米作と関係がある。川から水を引いた水田には多くの魚が入ってくる。刈り入れの時期になると水を落としてしまうためまとめて魚が捕獲でき、それを塩漬けにして保存食品化する発酵技術が発達。雨季に冠水する水田には様々な魚介が溢れ多様な発酵食品が生みだされ、「ヌック・マム」が成立していったと考えられる(現在のヌック・マムは、いわしの仲間の小魚を塩漬けにして発酵させた上澄み液)。やはり、“米と魚”は切り離せない食のコンビネーションといえそうだ。米食のバリエーションと 「ヌック・マム」に見る“米と魚” メコンデルタ・ミトーの名物料理「フー・ティウ」手に乗っている米は、麺用のインディカ米ミトー市場の野菜売り場。色とりどりの新鮮な野菜がならぶFoodVietnamChapter.1 [食] ⅠColumn

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