GLOBAL INDEX 2011 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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1011 ベトナム政府は、「社会経済開発10カ年戦略(2001-2010)」(注1)の中で、2020年までに工業国入りを目指し、工業化・近代化を加速する方針を示している。2000年以降、GDP成長率は平均7%以上を達成しており、2008年には一人当たりのGDPは1,000ドルを突破した。その経済成長は米作農業にも少なくないインパクトをもたらしている。その現状に言及する前に、政治体制に翻弄され著しい変遷を遂げてきたベトナム農業の近代史を辿ってみたい。国家が北と南に分断されていた時代、北ベトナムは“合作社”による集団農業生産であり、南ベトナムは大土地所有制を採用していた。南北統一後、社会主義国家建設を目指し、急激に南部の農業集団化が推し進められたが、農業生産の非効率や農民の生産意欲の減退などによって農業生産が激減。米を輸入せざるを得ない状況に立ち至った。深刻な食糧不足に直面したベトナムは農業政策を大きく転換させる。合作社による集団化を改め、家族経営を奨励、さらに余剰生産物の市場価格による自由売買を認めた。これによって農業生産が飛躍的に向上し、1989年には、いきなり世界第三位の米輸出国に躍り出たのである。さらに改革は続く。1993年の土地改正によって、借地権を交換・譲渡・賃貸・相続・抵当する権利が与えられた。名目上土地は国家所有とされているが、事実上の私有化といっていい。こうして1996年には、タイに次ぐ世界第二位の米輸出国となり現在に至っている。 その原動力となったのがメコンデルタである。メコンデルタでもたらされた米生産量の増加は、アジアでも他に例を見ないほど大幅で急激なものだった。ベトナム統計総局調査によると、1995年にメコンデルタの米生産量は1,283万tであったのに対し、5年後の2000年には1,670万tへ増大、2009年にはベトナムの米生産量約3,890万t(世界第5位)のうち、52%の2,048万tがメコンデルタで生産されている。生産量を押し上げた背景には、ベトナムの米増産政策がある。メコンデルタを輸出米生産地と位置付け、投資集中を図り重点的に灌漑・排水設備の整備を推進した。それによって水田面積が増加し、2期作・3期作に伴う作付面積も増大。さらに多収性新品種の普及や肥料など生産資材の投入、トラクタなど農業機械化の進展なども米生産高の飛躍的向上をもたらした要因である。 激動の道を辿ったベトナム農業 急激に伸びたメコンデルタの米生産量 左/南北統一の象徴であるホー・チ・ミン氏の肖像は 今もベトナムのいたるところで見かける 右/インディカ米のもみ(精粒) ベトナムで生産される米の主力はインディカ米だ ベトナム地域別・米の作付面積/生産量 ベトナム・一人当たりGDPの推移 紅河デルタ 東北・西北 中北部・中南部 中部高原 東南部 メコンデルタ地域 ベトナム全土 115.5 66.9 122.221.430.7387.316% 9% 16% 3% 4% 52% 6,796.3 3,047.1 6,252.0 994.3 1,322.4 20,483.4 744.0 38,895.5 出所:ベトナム統計総局 2009 作付面積 ( 万 ha ) 作 付 面 積 分 布 対 ベ ト ナ ム 全 土 (% ) 米生産量 (千t) 0 200 400 600 800 1,000 1,200 (ドル ) 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 出所:ベトナム統計総局 2009 ベトナム政府発表の国家開発計画。低所得国からの脱却(2010年目標)を経た工業国化(2020年目標)を掲げ、2020年を目処に先進工業国となるための基礎を築き、社会主義路線に沿った工業化・近代化を加速する、としている。 (注1)社会経済開発10カ年戦略(2001-2010)

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