ナショナルジオグラフィック 日本版 2003年8月号

技は語る-(5)

人類が道具を使い始めた時、最も身近にあったものは石である。
以来、道具はもちろん、建築に、装飾物にと、人は石を利用してきた。
斫(はつ)る。
石の表面を叩いて削り落としていく技。
香川県牟礼町で石工として35年、和泉良照さんはこの地において手仕事で斫ることができる最後の世代の一人だ。
地元の山で採れる庵治石は、花崗岩のダイヤモンドという異名を持つ最高級の石材で、主に灯籠や墓石などに使われる。
左手にノミ、右手にゲンソウ。
一叩きごとに石の破片を辺りかまわず飛び散らして斫る光景は、いかにも荒々しい印象だ。
しかし、余計な割れやヒビが入ると取り返しがつかない。
そのために常に石の目に逆らわない繊細な神経と、微妙な力の具合が要求される。
ノミもゲンソウもずっしりと重く、相当な力仕事でもある。
機械を使えば労力は軽減でき、形も自在に作り出せるだろう。
だが、手仕事ならではの温かみにこだわることで庵治石本来の魅力を後世に伝えていきたいという。
そしてまた、高価な石ゆえに形の悪いものも無駄にしたくない、すなわち、切り出されたままの形をいかに活かせるかが手技の真価であり、有効活用になるのではないか、とも。
熟練石工の言葉がある限り、はるか石器時代から始まった人と石の純粋な関わりは、価値観は変われど途切れてしまうことはないだろう。

人と環境の共生を見つめて、技術を活かす。
資源やエネルギーなど時代が抱える問題に、人と環境の共生というコンセプトで取り組む。
クボタは、「住」「都市」「環境」「水」「土」の5つの事業領域で独自の技術を活かし、豊かで美しい国土づくりや、よりよい地球環境の創造に努めています。



ナショナルジオグラフィック 日本版2003年9月号
技は語る-(6)

現在では弓道具の一つとして作られている、矢。
その素材は古来より主に矢竹という竹である。矯(た)める。曲がっている竹を真っすぐにする技。
秋田県五城目町の永澤弓具は、仙台伊達藩の流れをくむ御失師で、永澤繁明氏は、その第11代目失師。炭で火を起こした釜の前が仕事場だ。
失師の仕事で最も難しい、あらだめ。その第一歩で完成に近いものに仕上げてしまわなければ矢にならないと断じる。
長さ1m強、直径1cmほどの竹を釜に差し入れる。
熱がいきわたってくると、竹の先端からじわりと湯気が出てくる。
おもむろに竹を取り出し、篦矯めと呼ばれる特殊な道具で節の間をしごく。
すると竹がまるで生き物のようにしなる。さらにしごくと竹はぴんと背筋を伸ばしてくる。
竹は陽にかざし、その時にできる光と影の境界線によって真っすぐかどうか見極める。
永澤家秘伝の技法だが、すべてが経験と勘頼り。これを幾度も繰り返しながら真っ直ぐに整えていくのだ。しかも長さ、重さ、節の位置すべてに均一な矢を4本一組でつくらなければ弓道では意味がない。
さりとて竹は同じものは二本とない。
だが失師は、その都度心新たに対応していくだけだという。
弓から放たれた矢が快い弦音とともに空気を貫く。粛然とした弓道の雰囲気に、いっそう冴えを与えているのは、竹と自然体で向き合う人間の澄んだ心なのだ。

人と環境の共生を見つめて、技術を活かす。
資源やエネルギーなど時代が抱える問題に、人と環境の共生というコンセプトで取り組む。
クボタは、「住」「都市」「環境」「水」「土」の5つの事業領域で独自の技術を活かし、豊かで美しい国土づくりや、よりよい地球環境の創造に努めています。


ナショナルジオグラフィック 日本版2003年10月号
技は語る-(7)

硯は、墨をする用具であることはもちろんだが、墨をすることによって心を鎮め、自然の懐へと心を開いてゆくための精神の器でもある。
彫る。
物の平面にくぼみを作りだすその技は、製硯においては要である。
山梨県の雨畑硯といえば、中国の名硯、端渓硯とも並び称されるほどの名品。
その発祥に深いつながりを持つ雨端硯本舗は、富士川沿いの町、鰍沢で300年以上にわたって硯作りを続けている。
伝統の技を今に受け継ぐ硯匠、十二代雨宮弥兵衛氏。各面を平らにし寸法を整えた石に硯面の輪郭をつけ終わると、いよいよ彫りにかかる。
ノミの柄を肩にあて、腰を支点にぐっと力を込める。
石とノミの擦れ合う鈍い音。
手作りの硯ではあるが、彫りに限っては、手作業というよりも、むしろ全身作業の感がある。
石質の微妙な良し悪しも、ノミを通して肩に伝わってくるという。
それを見誤ることは硯にとって致命的。一彫り一彫りが、石との真剣な対話である。
墨道と墨池の端正なかたちを生み出す、全身の力と繊細な神経の調和。彫る方もまた、自然の悠久の中へと心を開放させているのだ。

人と環境の共生を見つめて、技術を活かす。
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ナショナルジオグラフィック 日本版2004年2月号
技は語る-(8)

削く。
極限の薄さに、美の命。
“木の女王”の別名をもつ桐。
その最も良質な部分のみでつくられているものがある。
薄く削った桐に紙を裏打ちし仕上げた山形桐紙。大沼桐紙製作所は山形桐紙の歴史とともに歩んできた一番の老舗として、その伝統を守り続けている。
削く(つく)。
いわゆる削ると同義だが、桐紙づくりにとっては特別な技であり、その専門職人を削方(つきかた)と呼ぶ。早坂忠さんは、現在ではただ一人の削方だ。仕事道具は年季の入った削台(つきだい)。その中央部には鋭い刃を組み込んである。長さ60cmもしくは80cmに切った桐を素手で持ち、削台の上に乗せ前方に突くように押し出す。ここに削くといわれる由縁がある。
一削きごとに極薄の桐がひらりと落ちる。これを桐経木(きりきょうぎ)といい、厚さはわずか0.05mm。分速50枚ほどの速さで進む作業の間じゅう、手に伝わる感触と音で桐の状態と刃の調子を読み、力を微妙に加減しながら常に厚みを均一に保つ。指先と耳の感覚を駆使した手技の極みだ。桐経木はいくつもの工程を経て桐紙になり、名刺やはがきへと形を変える。透けて見えるほど薄い姿で生まれてくる、桐の最も美しい姿でもある。

人と環境の共生を見つめて、技術を活かす。
資源やエネルギーなど時代が抱える問題に、人と環境の共生というコンセプトで取り組む。
クボタは、時代の要請に応える先進の技術開発や製品づくりを追求し、豊かな暮しの基盤づくりや、よりよい地球環境の創造に努めています。