バレンシアの農家が語る「冬期湛水農法」の利点

バレンシアの農家が語る「冬期湛水農法(とうきたんすいのうほう)」の利点

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バレンシアの中でも、パエリア発祥の地として有名なエル・パルマール村。この地で農業に取り組み、レストランも営むラウル・マグロナールさんに「冬期湛水農法(とうきたんすいのうほう)」の利点について伺いました。

(※2017年9月に行った取材に基づきます)

「冬期湛水農法」で収穫量が増える

エル・パルマール村の街並み
ラウル・マグロナールさん

12歳から38年間米作りをしているというマグロナールさんにお話を伺いました。

ラウル・マグロナールさん
ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「学校の休みの日や、6月の休校の時期に米作りを手伝っていました。子どもが苗を運び、大人が田植えをしたりしていました。お米を作っているのは8ヘクタールで、パエリア用にジャポニカ米を3種類作り、昨年は53トンの収穫がありました。(冬期湛水農法で)冬期に水を湛えると、収穫量が1ヘクタールにつき1,200kg程度増えます。水鳥が集まるのも良いことですし、自然環境を保護する目的もあります」
田んぼに佇む水鳥
田んぼに佇む水鳥

田んぼに水を張っていると鳥の住処となり、そのフンが肥料になったり、イトミミズが増えたりしてトロトロとした土の層を作り、雑草の種が埋もれて発芽しにくくなるなど、収穫量アップにつながります。冬期湛水農法は、生物の多様性を守る環境調和型農業であると言えます。

散歩道にある看板

水のある風景は心を癒し、散歩道にも指定されています。

ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「バレンシアでは、藁を燃やすのは禁じられています。環境汚染に対する取り組みとしても、冬期に水を湛えて、藁を腐敗させるのは良いことです」

冬期湛水農法には欠かせない「ファンゲアール」という作業

ファンゲアールを説明するマグロナールさん
ファンゲアール中の田んぼ

マグロナールさんの田んぼも、やはり湖のようになっています。

バレンシアではこの時期、「ファンゲアール」という作業を行います。泥をかき混ぜて、稲の株や藁を土の中に埋め込む作業です。
「泥」という意味の「ファンゲオ」という言葉が変化した「ファンゲアール」という美しい響きの言葉は、辞書には載っていないこの地方特有の言葉のようです。

インプルメント
インプルメント

「ファンゲアール」に使用する農機具には2種類あります。
左の写真の籠のようなインプルメントをトラクタの後輪に装着して土をかき混ぜる方法と、右の写真のインプルメントをトラクタの後部に取り付けて牽引(けんいん)して土をかき混ぜる方法です。マグロナールさんは、右の写真のインプルメントを使用する方法が好みだそうです。

ファンゲアール前の田んぼ
ファンゲアール後の田んぼ

左の写真がファンゲアール前の田んぼ、右の写真がファンゲアール後の田んぼでマグロナールさん好みの状態に仕上がっているそうです。
日本の田んぼの田起こしに似ていますが、水が入っており、稲の株や藁を埋め込むところは代掻き(しろかき)に似ています。

ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「種籾(たねもみ)は5月にまきます。種籾の袋に水を入れて吸水させ、風で飛ばないように重くしてからまきます」

直まきが一般的で、田植えをするケースは少ないそうです。しかし、マグロナールさんは4年前から田植えを始めたそうです。

ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「5年前に、カモに種籾を食べられてしまって、収穫量が半分以下になりました。それからは田植えをしています。田植えは6月で刈り取りは9月です」
農機具を説明するマグロナールさん
農機具

これは種籾や肥料を撒く農機具です。

マグロナールさんの倉庫
冷房のかかった倉庫内

マグロナールさんの倉庫です。冷房をかけて13〜14℃の低温でお米を保管し、品質を保ちます。

ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「バレンシアのお米は質がとても良いです。収穫量100gに対して、高品質のお米が60g程度とれます。残りの40gは粉にしたり、家畜用にしたりします」

11月になると再び、田んぼにいっせいに水を入れます。水を入れる農作業は、ペレジョナと呼ばれています。

70年前に行われた田んぼ作り

バレンシアには、9世紀にアラビア人が稲作技術と灌漑(かんがい)技術、そして猟師が獲物と一緒にお米を煮込んだパエリアをもたらしたと伝えられています。バレンシアの人々は、この地で田んぼ作りと米作りを始めました。

船
船

レストランに飾ってあったこの写真は、マグロナールさんの祖父の時代に行われていた田んぼ作りの様子です。この舟を使用してバレンシアの水源地、アルブフェラ湖を田んぼに作り変えていったそうです。

ラウル・マグロナールさん

マグロナールさん:「この舟は、田んぼを作るために泥を運んだ舟です」
当時の田んぼづくりの図
当時の田んぼづくりの様子

マグロナールさんが図を描いて説明してくれました。
アルブフェラ湖の一部に、図で青色に塗り潰してあるような壁を葦(あし)で作ります。水深約1.5mの湖底の泥をスコップですくい、帆を張った舟で運び、この壁の中を埋め立てていきます。
現在のアルブフェラ湖の面積は当時の1/5になっていて、実4/5が田んぼに作り変えられたそうです。

アルブフェラ湖

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