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水災害の復旧活動の最前線へ一日でも早く日常を取り戻すために
被災地における排水ポンプ車の奮闘

2020 . 08 . 05 / Wed

一日でも早く日常を取り戻すために被災地における排水ポンプ車の奮闘

写真・文:クボタプレス編集部

近年、台風の大型化や気候変動の影響を受け、大雨による河川氾濫や浸水、土砂災害などが増加傾向にあり、日本各地にも大きな被害をもたらしています。世界で発生している自然災害のうち、約8割が水関連の災害というデータもあり、地球温暖化などの気候変動による水災害リスクは今後も高まっていくと予測されています。水災害の規模がますます大きくなり、危険度も増している中で、人々の命と生活を守るために、水災害の被災地における迅速な復旧・復興が求められています。

水災害が発生した現場に緊急出動し、復旧作業を行うのが排水ポンプ車です。クボタは、国からの要請を受けたポンプメーカーの一社として1991年から排水ポンプ車の開発・製造・販売をしており、今では国土交通省が全国各地に配備している排水ポンプ車の多くはクボタ製です。今回、クボタプレスでは、被災地での復旧活動において重要な役割を果たす排水ポンプ車に携わる人々の思いに迫ります。

世界中で猛威を振るう水災害

世界では毎年、さまざまな自然災害が人々の生活に被害をもたらしています。自然災害データベースのEM-DATによると、世界における自然災害の発生件数は増加傾向にあり、その中でも洪水や暴風雨、津波といった水災害は、実に8割を占めているのです。

参考元:水災害リスク研究所グループ(ICHARM)土木研究所講演会 資料

日本国内でも、2018年7月に発生した西日本豪雨や、2019年10月に関東、甲信、東北地方の広い範囲を襲った台風19号が記憶に新しいところです。

西日本豪雨は地球温暖化に伴う水蒸気量の増加が影響を与えたという気象庁の発表もあったように、地球温暖化と水災害は大きく関係しています。このまま地球温暖化が進行する場合、それに伴う水災害の頻発化・激甚化が懸念されます。

機動性と排水能力を兼ね備えたクボタの排水ポンプ車

気候変動によるゲリラ豪雨や台風の大型化など、想定を超える規模の水災害が増加しており、既存の排水ポンプ場では対応できず浸水被害がさまざまな場所で発生しています。その被害がポンプ場にまで及ぶと、浸水した状態が長時間にわたって解消されない状況になります。こうした場所に移動して排水活動を行う車両が排水ポンプ車です。排水ポンプ車は浸水した住宅地や冠水した道路といった災害現場の最前線に駆けつけ、溜まった水を川や水路に排水し、一刻も早く人々の生活を取り戻すために用いられます。

2019年10月に発生した台風19号では、東北地方を中心に大規模な河川氾濫などが発生。被災地では昼夜を問わず、排水ポンプ車による排水作業が行われました(写真提供:国土交通省東北地方整備局)。

しかし、排水ポンプ車が作業を行う被災地の状況は、事前に予測できるものではありません。環境プラント営業部の瀬川貴史さんは、「クボタはあらゆるシチュエーションに対応できるよう、機動力やポンプの軽量化を重視した排水ポンプ車を開発、進化させてきました」といいます。排水ポンプ車には、1分間に7,500リットルもの水を排水できる、人力で設営が可能な排水ポンプが複数台搭載されており、排水ポンプ車1台につき、1分間で最大約60,000リットルの水を排水することが可能。これは25mのプールを約5分間で空にできるほどの排水能力です。「すべては、一日も早く、そして確実に被災地の人々に日常を取り戻してほしいと考えているからです」(瀬川さん)。

瀬川貴史(せがわ たかし)さん。環境プラント営業部・販売促進グループ長として、営業全体の企画、進捗管理を担当。

排水ポンプ車の改良とニーズの広がり

国からの要請を受けて開発がスタートした排水ポンプ車は当初、河川での利用を目的としていました。初期タイプ開発後も機動性を重視した改良が加えられていった排水ポンプ車はその後、国道のアンダーパスなど、河川以外でも使用されるケースが増加。それに伴い、新たなニーズが生まれていったと、環境プラント営業部の武田浩志さんは話します。

「河川では水深が深いところでポンプを使っていましたが、使用ケースが増えるにつれて、もっと水深の浅い場所で使いたいという要望が生まれました。そこで低水位でも使えるポンプを開発し、排水ポンプ車に搭載したのです。お客様のニーズに応え、災害の被害をより軽減するためにも、排水ポンプ車を含むポンプ事業全体で製品の改良に取り組んでいます」(武田さん)。

武田浩志(たけだ ひろし)さん。環境プラント営業部に所属。国や自治体からニーズを吸い上げ、技術部へつなぐ橋渡し役を担っています。

さらに、国だけでなく自治体が使用するケースも増えていきました。もともと排水ポンプ車は大型免許が必要な車両でしたが、自治体で大型免許所持者を常に手配するのは困難です。そのため、現在の中型免許で運転できる大きさの排水ポンプ車が開発されたといいます。

現在、各自治体から排水ポンプ車の問い合わせを数多く受けていると話すのは瀬川さん。「自治体ごとにニーズは異なりますので、クボタとしてその要望にできるだけ応えていきたいですね。どんな場所で水災害が起こっても、いち早い復旧活動の大きな力となってほしいという思いがあります」(瀬川さん)。

低水位ポンプの導入や、中型免許で運転可能にするための排水ポンプ車の軽量化など、改良が進んでいった排水ポンプ車ですが、「悪環境でも排水し続けられるよう、壊れにくくすることも非常に重要です」と、設計を担う環境プラント設計調達部の古高龍太郎さんはいいます。「たとえば、台風の翌日などは気温が40℃近くまで上がることもあり、そうした中で作業していると、ポンプを動かす制御盤や発電機がオーバーヒートしてしまいます。ですので、クボタの排水ポンプ車には高い冷却機能が備わっています。どこでどんな状況で使われるのか想定できないので、いろいろな問題が起こりますが、その問題ひとつひとつに対応し、改良を重ねて品質を高めてきたのが、今の排水ポンプ車です」(古高さん)

古高龍太郎(こたか りゅうたろう)さん。環境プラント設計調達部に所属。設計者として、現存している排水ポンプ車の大半に関わっています。

被災地でのエンジニアの奮闘

水災害の大規模化とともに、排水ポンプ車が果たす役割も変化していきました。大津波を引き起こした東日本大震災のように多くの人命に関わる規模の災害の中で、排水ポンプ車は排水活動を通じ、人命救助と行方不明者の捜索という、当初は想定していなかった役割も担うようになっていきます。

排水ポンプ車は基本的に、導入先の国や自治体の人々が使用しますが、大規模災害など想定外のケースでは、メーカーであるクボタと、ポンプメンテナンスのプロ集団であるクボタ機工に要請が入り、機械トラブルなど現地で不測の事態に対応するためにエンジニアが出動します。環境プラント建設部の富塚さんは、2011年の東日本大震災とタイ大洪水の被災地に赴き、復旧活動の支援にあたった一人です。

富塚武志(とみつか たけし)さん。環境プラント建設部に所属。東日本大震災やタイ大洪水の際には現地に赴き、排水ポンプ車での復旧作業の指導、援助にあたりました。

マグニチュード9.0という激震とともに、大津波を引き起こした東日本大震災は、東北地方の太平洋沿岸域に甚大な被害をもたらしました。広範囲にわたり大規模な湛水域が発生し、既設の排水ポンプ場も被災。この事態に、国土交通省は全国から排水ポンプ車を集め、24時間体制で排水作業を実施しましたが、未曾有の大災害の中で、最前線で復旧活動を続けなくてはいけない排水ポンプ車にも、多くの困難が待ち受けていました。

「東日本大震災では、がれきなどが流れる中で排水ポンプ車を稼働させなくてはならず、異物を吸い込んだことによるトラブルが発生しました。ゴム製品がポンプの主要部分である羽根車に噛んで変形・破損することもありました。それでも、浸水した水を取り除き、被災者の方を1秒でも早く見つけるためにも止めるわけにはいきません。できることは全部やる、絶対に手を抜かないという思いで、その場で直せるものは直し、その間に工場へ連絡して新品を手配するなどの緊急処置をとりました」(富塚さん)

排水ポンプ車による緊急排水作業は5か月以上にわたって行われ、3県16市町に対して延べ4,000台以上の排水ポンプ車が出動しました。排水ポンプ車は仙台空港や石巻市の釜谷地区、東松島市の東名地区などで緊急排水を行い、津波による行方不明者の捜索活動を支援しました。

宮城県仙台市での排水作業の様子。東日本大震災では全国から最大120台の排水ポンプ車が被災地に集結し、緊急排水を行いました。

タイ大洪水が発生したのは、東日本大震災から数か月後。洪水は農地だけでなく工業団地や都市部にも及び、長期間にわたり水が引かないという事態を引き起こしました。この状況に、日本からは国土交通省が所有する排水ポンプ車10台、専門家チーム20数名が派遣され、富塚さんも現地に向かうこととなりました。

「タイ大洪水の現場では、木や草が沈み、水深も分からないところにポンプを投入しなくてはなりませんでした。加えて、タイでは日本のように河川の護岸や底盤が整備されておらず、本当にポンプを沈めて良いのか、どれくらいゴミがあるのか分からず、不安な状況でした。それでも、クボタのポンプは木の枝や砂を吸い込もうとも回り続けて、クボタ社員としても、本当に良いものを作ってくれたなと驚きました」と富塚さんは振り返ります。排水活動は約1か月にわたって複数の工業団地を移動しながら行われ、早期復旧に寄与しました。

タイ大洪水は数か月にわたり、都市部だけでなく農村や工業団地にも大きな影響を及ぼしました。

排水ポンプ車のさらなる改良をめざして

今なお寄せられている排水ポンプ車への要望に応えようと、クボタはさらに改良を重ねています。特に求められる機動性の向上に対して、古高さんは「年々、数センチ、数十キロという単位で、品質を落とさずに小型・軽量化に取り組んでいます。それによって機動性が向上し、被災地における復旧活動でのさらなる支援が期待できます。浸水で困っている方と直接お会いしたことがあるのですが、クボタとして、そういった方々の期待に応え、皆さんの安全を守る製品を作っていきたいと思っています」と、排水ポンプ車のさらなる改良に向けた展望を語ってくれました。

編集後記

排水ポンプ車が出動することのない、穏やかで安心できる生活が送れるに越したことはありません。しかし、水災害は今後頻発化、激甚化する傾向にあり、ひとたび大きな水災害が発生すれば、その激しさから私たちの命や生活を脅かしかねません。そうしたもしもの事態に備え、排水ポンプ車は進化しているのです。「操作性を向上したり、IoTと融合したりしながら、より被害が軽減できるポンプを提供していきたい」という武田さんの言葉の通り、さらなる改良が加えられることで、排水ポンプ車はより強力な災害対応策のひとつとなるのではないでしょうか。排水ポンプ車を通じて人々の生活を守るために、被災地という予測不可能な環境に飛び込み、少しでも改良を重ねようと奮闘する人々の思いが感じられたインタビューでした。

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