GLOBAL INDEX
December 2017

FEATURE
"Precision Farming"

03

クボタ欧州精密農業の
最前線を行く
R&D in the Netherlands

KVG Mechatronics部門の研究開発風景。クラウドやロボティクス技術などを取り入れた次世代技術開発が進む

トラクタ + インプルメント
情報通信による連動制御

欧州畑作市場開拓の第一走者と位置付けられるインプルメント。土を耕すプラウ、種を播くシーダー、草を刈るモア、牧草を丸めるベーラ、農薬を撒くスプレーヤー、肥料を撒くスプレッダーなど、畑作農作業の用途ごとに多様なインプルメントが開発されてきた。クボタのトラクタは欧州畑作市場において後発であるが、インプルメントを手がけるクバンランドグループ(以下、KVG)は、欧州畑作市場で古くから存在感を示し、その技術力は欧州のみならず国際市場で高く評価されてきた。

現在、クボタがKVGと協働で取り組みを進めているスマート農業の一つが、トラクタとインプルメント間の情報を交換し、連動制御することで、より高効率、低コストの営農を実現するというもの。トラクタとインプルメントの間で走行速度やエンジンの回転数等の情報を交換することで、より利便性の高い、快適な農作業が可能となる。たとえば、牧草を巻き取るベーラの運転においては、ベーラの作業状況からトラクタに必要な動作をインプルメント側からトラクタに伝達し、トラクタの走行速度などを最適に調整する。あるいは草を刈り取るモア。草刈り作業がオーバーラップしないように、トラクタの作業経路に応じてインプルメントの動作が最適に制御されるなど、トラクタ+インプルメントによる営農最適化の取り組みが進められている。

アムステルダム郊外にあるクバンランドグループMechatronics部門

国際通信規格「ISOBUS」の普及は
スマート農業実現に不可欠

クバンランドグループMechatronics部門 セールス&マーケティング担当 アレクサンダー・サッセンベルグ:左、代表 サンネ・デ・フォークト:中央、事業開発部長 トン・ファン・デル・フォルト・ファン・デル・クレイ:右

トラクタとインプルメントの情報通信のカギを握るのが「ISOBUS」と呼ばれる国際規格だ。

「ISOBUS」は、どのメーカーのトラクタとインプルメントの組み合わせでも確実に行えるように整備された世界共通の通信の規格。この「ISOBUS」を提唱し開発の中核を担ったのがKVGであり、その中心人物の一人が、現在、KVG Mechatronics部門の事業開発部長を務める、トン・ファン・デル・フォルト・ファン・デル・クレイ(Tonvan der Voort van der Kley)である。

「私たちは1980年初頭から、インプルメントのエレクトロニクス化の研究開発に着手しました。その過程で、お客様がお使いの農機が、他ブランドの農機とスムーズに接続し情報交換できる共通のプラットフォームが必要と考えたのが、国際規格ISOBUS開発のベースです。異なるブランドのトラクタ、インプルメント、両者の会話が成立すること。それによって営農の効率化や低コスト化、さらには、農機操作の容易化、利便性を実現する革新的ソリューションがISOBUSです」

クバンランドグループMechatronics部門CTO
ピーター・ファン・デル・フルーフト

トンらの努力が実って、2008年に「ISOBUS」の普及拡大の推進組織AEF(Agricultural Industry ElectronicsFoundation)が設立、以後、世界の主要なトラクタおよびインプルメントメーカーでの「ISOBUS」採用が加速している。現在、この「AEF」の代表を務めるのがKVGMechatronics部門CTOのピーター・ファン・デル・フルーフト(Peter van der Vlugt)だ。

「AEFは、最先端のソフトウェアツールや製品を提供することで、ISOBUS製品開発を支援し、ISOBUSのグローバルな普及拡大に取り組んでいます。現在、ISOBUSは欧米を中心に世界で普及が進んでいますが、特定のマーケットではいまだに互換性に関する課題が残っています。ISOBUSの普及拡大が、世界の精密農業の進化には必要不可欠と考えています」

M7001などに搭載されるタッチパネル式ターミナルモニタ

スマート農業の発展のために
必要とされる技術的柱

計測制御技術センター
第一開発室長
荒木 浩之

ISOBUSはスマート農業のベースであり、スマート農業発展のためにブレイクスルーすべき技術的課題も少なくない。実際にスマート農業システムのセールス&マーケティングを担当している、アレクサンダー・サッセンベルグ(Alexander Sassenberg)は次のように指摘する。

「KVGとしてはスマート農業発展のために、5つの技術的柱を掲げています。①ISOBUS、②テレマティックス(遠隔データ授受システム)、③スマート・センサ、④スマート・インプルメント、⑤データ管理のためのクラウド。さらに加えれば、ヒューマン・インターフェース、そして自律運転およびロボティクスも未来のスマート農業に求められる要素です。これらの研究開発を進めることで、お客様にとってより使い易いスマート農機を開発すること、機械の生産性を上げること、作物の生産コストを削減すること、そして、世界の食料増産に貢献することを目指しています」

特に「ISOBUS」を使った農機の自動化レベルの向上に向けては、クラウド技術を使って農機からデータ管理システムへ滞りなく情報が統合、流通することが求められる。こうしたスマート農業を推進するKVGの技術的基盤となっているのが、長年蓄積してきたメカトロニクス技術だ。センサやソフトウェアなど、スマート農業を支える中核となる技術である。KVG Mechatronics部門代表のサンネ・デ・フォークト(Sanne de Voogd)は、スマート農業の社会的意義を指摘する。

「世界の人口の増加に伴い、限られた資源による食料増産が求められる中、営農の効率性、省力化を目指すスマート農業の実践は重要な役割を果たします。これはクボタグループのブランドステートメントである『For Earth, For Life』や、我々の事業コンセプト『Smart, Efficient, Easy Farming』ともまさに重なります。その実践が文字通りスマート農業そのものと言えます」

日本サイドでも開発は加速している。その一つが、高い技術力を有するセンサ開発だ。

「さらに精密農業を発展させるために、GNSSの活用、多彩なデータを収集管理する情報システムなど、これらに導入される生育センサの活用向上を先行研究として取り組んでいます」(計測制御技術センター 第一開発室長 荒木浩之)

車両基礎技術部 電子開発室長
梅本 享

たとえば圃場ごとではなく、さらに精度をあげて1枚の圃場内を細分化(メッシュ化)し、適切な施肥や薬剤散布、水分供給等の作業を実現するためには、正確な計測(センシング)が求められる。センシング精度の向上と並行して取り組んでいるテーマの一つが、情報を受信して稼働するトラクタの自動走行だ。

「どんな作業や条件でも安定した自動走行を実現するためには、センサがとらえた情報を一元管理するシステムであるFMIS(FarmManagement Information System)を使って自動運転を支援する機能の開発が必要で、それらの研究を含めて、KVGと緊密な連携を取って開発を進めています」(車両基礎技術部 電子開発室長 梅本享)

スマート農業実践のために多彩な技術開発が展開されている。次に、実際の欧州マーケットにおけるクボタのスマート農業の現況について目を転じてみよう。