GLOBAL INDEX
December 2016

FEATURE
"Republic of India"

03

マルチパーパス
トラクタの挑戦
インド農業にもたらす
可能性

マルチパーパストラクタは、家族の一員だ(サンディープ・ヤドさんの家族とともに)

最大の差別化のポイント
高出力と低燃費を可能とするエンジン

エンジン技術部 大西 崇之:左、エンジン技術部 長井 健太郎:右

マルチパーパストラクタ「MU5501」の最大の差別化ポイントの一つとされたエンジン。目標は、高効率、すなわち低燃費を実現すること。加えて、高い牽引力を維持するために高出力であること。低燃費、高出力を同時に実現することが技術陣に求められた。それを担ったのが、エンジン技術部の大西崇之と長井健太郎である。

「価格、性能、サービス性を高次元でまとめるため、先進国で主流となっているフル電子制御コモンレール方式ではなく、既存のメカ式制御にこだわりました。インドの排ガス規制への適合とメカ式制御でコモンレール並みの低燃費を同時に実現するため、ターボの高過給化に加え、メカではこれまでにない高圧燃料噴射にチャレンジし、『高効率燃焼の実現』を開発コンセプトに取り組みました」(大西)

実際の設計を担当したのが長井である。3Dプリンタの活用によって試作期間を大幅に短縮させ、エンジンの検討が進められていった。排ガス規制への適合と低燃費、高出力の実現という難題をいかにしてクリアしたのか。

「度重なる試行錯誤の連続でした。効率良く空気を均等に吸入させるべく、シリンダヘッドを気筒当たり吸気:2弁、排気:2弁の4弁を採用し、センターインジェクションにすることで燃焼効率を飛躍的に高めました。一方で、排気ガスを再び吸入空気へ還流させることで燃焼を緩慢にし、排ガス成分を低減。高過給、高圧噴射と燃焼室のマッチングにより、排ガス低減、高出力、低燃費化を高次元で両立させました」(長井) こうして誕生したエンジン、「E-CDIS(Center Direct Injection System)」は、他社エンジンをしのぐ低燃費を達成したのである。

徹底したインド向けカスタマイズで
高い耐久性と操作性を実現

トラクタ技術部 足立 典文:左、トラクタ技術部 樫本 龍幸:右

一方メカニックに求められたのが、トラクタの「長時間使用」に耐えうる高い耐久性と操作性の実現である。そのテーマに挑んだのが、トラクタ技術部の足立典文と樫本龍幸である。各州で異なる営農や土壌に対応するため、試作機を使ったテストをインドで長時間実施。測定データをもとに、強度をアップする耐久性の高い車軸を採用。さらに疲れにくいペダルの構造、操作レバーの配置など細部にわたり、高い操作性を実現するため、徹底的なインド向けカスタマイズを施した。

「本当に必要とされているものを把握するため、インドに何度も足を運び、マーケットインの発想で実現したトラクタです。ユーザーニーズを肌身で感じることの大切さを実感しました」(足立)

「インド適合化への大変さはありましたが、その苦労の先にあったのはインドの農家の人たちの笑顔。大きな充実感を味わいました」(樫本)

こうして誕生したマルチパーパストラクタ「MU5501」は2015年10月、タイのサイアムクボタコーポレーションCo.,Ltd.(SKC)で量産を開始、同年11月から販売がスタートした。

拡販に向けディーラー網の拡充へ
お客様を大切にするクボタの文化

スルヤ・オートモーティブ社 代表
アジャイ・ボサレ氏

発売から1年経過した現在、いかにして拡大基調に乗せるか。その市場戦略を、前出の藤井とともに最前線で指揮するのがKAIのプロダクトマネージャー、パンカジ・カダム(Pankaj Kadam)だ。カダムはクボタのチャレンジングな姿勢に惹かれ、入社してきた。

「拡販のカギを握るのはディーラーであり、そこのセールスススタッフ。現在150あるディーラーネットワークを、近い将来倍増したい。さらにトレーニングによるセールススタッフの質の向上も求められます。クボタにはお客様を大切にする文化が根付いている。それは大きな販売の武器になると考えています」

主要ディーラーの1社である「スルヤ・オートモーティブ社」の代表、アジャイ・ボサレ(Ajay Bhosale)氏にも話を聞いた。同社は他社製品を扱うディーラーだったが、その関係を解消し、新たにクボタとのビジネスを開始したディーラーである。

「リスクがある挑戦とは思いましたが、クボタとの将来性に懸けました。プロダクトが優れていることは間違いありませんから。今はまだファーストシーズン。クボタにはさらなるラインナップの拡充、そして近い将来のインドでの現地生産に期待しています」

ラインナップの拡充はすでに始まっており、55馬力の「MU5501」に続いて、最もトラクタ需要の層が厚い、45馬力のトラクタが間もなく投入される。

ユーザーへの説明に余念のないKAIプロダクトマネージャー、パンカジ・カダム(左)
スルヤ・オートモーティブ社の店頭(プネ)
迅速なメンテナンスもクボタの強みだ

サトウキビ栽培農家を訪ねる
優れた品質、性能の高さを実感

現在でも牛を運搬で使う農家は多い:左、取材陣を温かく迎えてくれたヤドさんの子どもたち:右

実際にマルチパーパストラクタ「MU5501」を購入したユーザーに話を聞いた。インド西部のマハラシュトラ州にあるサタラでサトウキビ栽培を営むサンディープ・ヤド(Sandeep Yadov)さん。すでにB型トラクタを購入、今回はクボタ製品2台目ということになる。「B型トラクタで、エンジン燃費の効率性、メンテナンスの少なさなど、クボタのトラクタの良さを実感していました。『MU5501』は操作の快適性、エンジン性能の高さに大いに満足しています」

同じくサトウキビ栽培を営むハムマント・トラット(Hamumant Thorat)さんは、それまで国内メーカーのトラクタを使用していた。クボタの名前は知らなかったという。「知人から噂を聞きデモンストレーションを見に行って、自分で乗車し、他社にはない性能を確信して購入を決めました。何といってもその牽引力、パワーに魅力を感じました。デザインもハイセンス。パワーがあるだけに運搬効率化が図れ、コストダウンが実現しています」

インドの経済発展に貢献する
マルチパーパストラクタの拡販

クボタ農業機械インド株式会社
社長
加藤 顕

インド農家に浸透し始めたマルチパーパストラクタ「MU5501」。KAI社長の加藤顕は、その意義と抱負を語る。

「インドを将来的には、日本、欧州、米国、タイ、中国に続く6番目の極にしたいと考えています。マルチパーパストラクタの成功が、グローバル・メジャー・ブランドに飛躍するカギです。拡販は、確実に農家の生産性の向上、収益性の向上をもたらし、インドの農業、ひいてはインド経済の発展、食料問題の解決に寄与するものと確信しています。KAIの現地社員も各ディーラーもクボタの将来性に懸けてくれています。夢に向かってクボタと共に走ってくれている。その夢を実現するのが私の役割にほかなりません」

マルチパーパストラクタ「MU5501」には、加藤が言う“夢”が託されている。クボタの新しい時代がマルチパーパストラクタと共に走り出している――。