GLOBAL INDEX 2012 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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31 ノンタブリ県サイノイ村。ここはバンコクと隣接しており、バンコクの中心部から北西に約20kmの位置にある。景色が徐々に都会的たたずまいから田園風景になるにしたがって、浸水した地域を目にすることが多くなってきた。元々タイは運河や水路が数多くある国だが、目にしたのは田畑一面が冠水している光景。車が走れるほどに道路が表出していることから、かなり水が引いたらしいが、とても農作業に手を付けられる状態ではない。到着したサイノイ村には11の集落があるが、その内の2カ所で排水ポンプ車による排水活動が行われていた。作業は終盤を迎えており(※9)、順調に排水作業は進んでいるという。サイノイ村の集落の村長であるカンチャナワット・ファントーン氏に話を聞いた。 「私の村は、住民が約1000人、380世帯が暮しています。大水は9月頃から徐々にやってきました。それを防ぐために畝を作りましたが10月20日に決壊、洪水のピークでした。水深は1m以上、ただ、水が引いていくのを待つしかなかった。そんなとき、日本から排水ポンプ車による援助隊が来ると聞いてとても嬉しく、夢のように感じました。排水ポンプ車が来なければ水が引くのに4カ月はかかっていたと思います。道路も表出、80~90%は復旧し、もうじき種播きもできそうです(※10)。おかげさまで、家に帰れる、働ける。ありがとうございました」そう言って手を合わせた。 実はノンタブリ県や同じくバンコクに隣接するパトムタニ県などは、今回の大洪水の、ある意味で象徴的なエリアだ。タイ政府は北部から徐々に南下する大水に対して、バンコクを洪水から“死守”するために、首都防衛の要である外周堤“キングスダイク”をかさ上げし、さらに大型土嚢である“ビッグバッグ”数千個を東部の鉄道ラインに沿って約6km配置、侵入してくる大水を堰き止めた。その結果、洪水はバンコクの周辺エリアへ流れ込むことになった。ノンタブリ県はバンコクに隣接するだけに、大水の通り道となったエリアなのだ。気象観測レーダーの老朽化により大雨を正確に予測できなかったという指摘もあるが、今回の洪水は、灌漑、排水システムやダムの運用管理における課題を顕わにした。これまでタイ政府は様々な治水の整備は行ってきたが、「水のコントロール」という本格的な治水対策までは至っておらず、その多くは“首都防衛”に主眼が置かれていたといえる。今後、バンコク周辺を含めた治水体制の抜本的見直しや河川の統合管理、洪水の予測能力の強化など、災害に対するグランドデザインを描き直すことが急務である。※9:※10:最後の排水活動場所でもあり、バンコク都知事は12月23日に洪水終息宣言を出した。タイの米作りでは、田植えでなく種の直播きをする農家が多い水の街バンコクは、肉も魚も野菜も何でも揃う食材の宝庫だ一歩バンコクの都心を離れると、のどかな田園風景が広がる都市化が進むバンコク。渋滞緩和のために高架鉄道 BTS(Bangkok Mass Transit System)が整備されている「水をコントロールする」治水へ求められる災害へのグランドデザイン

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