GLOBAL INDEX 2012 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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18 宮城県名取市――。他の太平洋沿岸エリア同様に、甚大な津波被害を受けた地域だ。死者・行方不明者は1,000人近くに上った。特に、津波によって街そのものが消失した閖ゆり上あげ地区の惨状は胸に迫るものがある。被災した水田も全体の41%、506haに及んだ(※11)。この名取市に農業機械の総合サービスを手掛ける、クボタ機械サービス(株)の仙台営業技術推進部がある。通常、農家の様々な課題解決に向けて営農技術提案を中心としたソリューション活動を行っているが、今回は早急な除塩対策の実施が求められた。その当事者が部長補佐の伐きり明あけ俊治である。 「除塩の計画を立てたのは5月。宮城県亘わた理り農業改良普及センターは、強制排水施設を最大限活用した湛水と代しろ掻かき(※12)の繰り返しにより、塩分を含んだ用水を排出させる方法を取り入れました。しかし名取市では、農業用排水路や用排水機場(※13)の多くが津波によって損壊しており、この方法は難しい現実がありました」 そのため伐明は、過去に熊本で行われた除塩事例(※14)を参考にした、独自の農地再生方法を提案。宮城県農業・園芸総合研究所や亘理農業改良普及センター、宮城県庁や名取市などの指導・協力のもと、名取市の農業法人(有)耕こう谷やアグリサービスから圃場の提供を受け、「雨水を利用した縦浸透除塩法」の実証試験を実施したのである。 (有)耕谷アグリサービスは、名取市内の農地を集積し大規模に水稲、大豆、麦などを生産する農業法人。津波の浸水により全農地面積76haの90%が塩害被害を受け、ほとんど農作物が作付けできない状況に陥った。そんな中でのクボタの提案に、同社の専務取締役・佐藤富志雄氏は、「溺れるものは藁わらをもつかむ気持ちで、二つ返事で」実証試験を引き受けた。 同社は、クボタの実証実験に先行するかたちで、排水可能な農地では「湛水―代掻き―排水」を繰り返す、真水のかけ流しによる除塩も実施していた。 「排水機場を経由せずに排水できる、作付け可能な農地が45aありました。まずはこの農地の除塩を行い、水稲作付けを実施したかった。震災発災の年である2011年に作付けを行い収穫することは、復興の一筋の光になると思ったのです」 5月から約1カ月にわたって実施されたこの除塩作業によって、塩分濃度を示すEC(※15)の値は当初の6.2から0.4まで低下(※16)、それを受けて6月からコメ作付けを開始(晩期栽培)。秋の収穫では10a当たり約600kgの豊作を達成した。名取市の農業法人で実施された除塩の実証試験※11:※12:※13:※14:※15:※16:宮城県亘理農業改良普及センター調べ本来は、田植の前に水田に水を入れて土塊を砕く作業。今回は除塩目的に同様の作業が行われた大雨による農地や農業用施設などへの水害を未然に防止するためにポンプを運転して雨水を川や海に排水するための施設を「農業用排水機場」という1999年9月、台風18号によって熊本県八代海・有明海の沿岸部に高潮が流入し、農地に甚大な被害をもたらした。ECはElectric Conductivityの略で電気伝導率のこと。ECと塩分濃度の間には密接な関係があり、EC値を測定すれば塩分濃度を推定することが可能となる一般に農地のEC許容値は0.3〜0.5とされる津波の被害を受けた排水機場。現在は修復し稼働している(宮城県名取市)津波の被害を受けたトラクタ。耕谷アグリサービス前に置かれ、津波の凄まじさを伝える夕闇迫る名取市閖ゆり上あげ地区。多くの尊い命が奪われた

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