GLOBAL INDEX 2012 KUBOTA CORPORATE COMMUNICATION MAGAZINE
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12 (株)福島クボタ相馬営業所――。福島県太平洋沿岸北部、福島県相馬市と相馬郡新地町の農家を対象とするクボタの販売拠点だ。お客様の多くは、稲作中心の営農を行っている。相馬市及び新地町は太平洋沿岸に接するため、津波による被害は甚大だった。死者・行方不明者数は573人(2012年3月1日現在)にのぼる。相馬営業所のスタッフは、震災直後からお客様全戸訪問による安否確認を開始、取引のあるお客様の約半数が何かしらの被害を受けていた。ソリューション推進部推進課販売係長の新妻敏宏も、お客様宅を訪問したスタッフの一人だ。 「相馬市と新地町を縦断するのが国道6号線です。6号線を境に農地は海側と山側に分かれます。3.11に襲ってきた津波は6号線が防波堤の役割を果たしました。逆に言えば海側の農地は津波によって壊滅的な被害を受けたということです。海側は大規模農家が多く、塩害のみならず、圃場としての基盤整備が必要な農地も少なくありません。地盤沈下によって水が引かず、圃場は一面海のような状態の中、お客様宅を訪ね歩きました」 そうした中で新妻は、津波被害を受けていない圃場を持つ農家の「育苗のハウスは津波に流されたが作付けはやりたい」という声を聞き、震災前から普及拡大に取り組んできた「鉄コ」が現状での最適な栽培方法であることを確信した。そして農家に提案、8戸の農家、全4.5haの圃場での実施が決まった。 しかし、新たな震災被害に直面することになる。福島第一原子力発電所の原子力事故、問題とされたのは汚染のレベルである。当時の食品衛生法上の暫定基準値は放射性セシウムが500ベクレル(※7、※8)。相馬市及び新地町の農地は、土壌調査の結果、放射性セシウムの暫定基準値を下回っていたが、行政サイドが判断を留保したため「鉄コ」による作付けは着手できない状況が続いた。ようやくGOサインが出たのは5月に入ってからである。新妻らは種籾を準備し、通常は1〜2週間を要する鉄粉のコーティング作業と酸化乾燥を急ピッチで進め、5月中旬、例年から約3週間遅れでの播種開始となった。 当初、「鉄コ」を導入した農家の多くは、直播であるため「苗もなく芽が出ていない水田」に不安を感じたものの、発芽後は順調に生育し、大地に復興の息吹ともいえる、青々とした緑をもたらした。そして収穫の秋。通常、相馬地区での育苗による収穫量は10a当たり480kgだが、「鉄コ」導入による収穫量は同350〜360kgとなった(※9)。しかし、導入しなければ収穫が皆無であったことを考えれば、「鉄コ」の実施は一定の成果を見たといっていい。新妻も確かな手応えを感じていた。 「収穫後、次回も実施したいという声を多数聞いています。それは『鉄コ』実施によって、生産資材の節減や労力の低減など、大幅な省力化を実感したからにほかなりません。この評判は他の農家にも波及しており、2012年2月時点で申し込みが11件、10haの作付けが決まっています。『鉄コ』の認知と理解が一気に進んだ感触がありますね」 では、今後の普及に向けて課題は? 相馬営業所所長の林久良は、「適切な栽培管理が重要になる」と考えている。移植栽培と同等の収穫量だった地区もあることから、圃場の状態に応じたきめ細かな栽培方法や技術の提案など、ソフト面の充実を図っていく考えだ。また、現在「鉄コ」は普及段階の位置づけであるため、コーティング作業や播種作業などに無償(一部有償)で対応しているが、近い将来、これら機械の拡販が求められる。 「まずは実施農家件数をさらに増やしていきます。積極的な営業活動を展開することで、30件、20haを今後の目標としています。それと並行して直播機の販売を進め、『鉄コ』の本格的普及拡大を図りたいと考えています」 自らの家も被災した新妻は、復旧・復興への想いも強い。 「福島は震災復興や原発事故で日本中から注目されています。それを武器にして、相馬営業所を全国のクボタから注目される販売店にしたいと思っています。『鉄コ』を通じてお客様とのコミュニケーションを深め、クボタファンを増やしていきたい。そうした活動が、私のふるさと福島の復旧・復興の一助になればと思っています」※7:※8:※9:2012年の作付けから暫定基準値は引き上げられ、100ベクレルとなる。この制限を受け入れると、福島県内では作付けできなくなる農家が少なくない。そのため農林水産省は、100ベクレル超から500ベクレル以下の放射性セシウムが検出された地区でも、全袋調査など一定条件を満たせば、作付けを認める方針を発表(2012年2月28日)した。ベクレルは測定した放射線そのものの量。シーベルトは、生体への影響を表す量全国レベルで移植栽培との比較で見ると、10a当たりの収穫量は同等から約30kg少ない程度(クボタ調査:平成22年県別収量調査結果)すべてはお客様のために“新技術で農家を救え”クボタグループ・スタッフの想い「鉄コ」で福島から発信直播機による鉄コーティング籾の播種風景

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