GLOBAL INDEX
September 2014

FEATURE
"UNITED STATES of AMERICA"

02

Quality of Life
[生活を支える。生活を高める]

透きとおるような青空と緑の芝生。芝生をきれいに手入れすることが一つのステータスとなっている。

なぜ、週末になるとトラクタに乗るのか?

週末は庭づくりを愉しむ、そんなライフスタイルの実態をレポートすべく、オハイオ州・ランカスターに住む、ヘッジスさん一家を訪れた。

オハイオ州は、アメリカの北東部と中西部をつなぐ要衝に位置する、製造業・金融業・農業などが盛んな州である。経済規模は全米第7位。豊かな自然に恵まれていることも特徴だ。余談だが、かのライト兄弟もオハイオ州出身である。

ご主人はカート・ヘッジスさん、警察官である。ご夫人は薬剤師で、3人の娘さんと幸せな日々を送っている。そんなカートさんの愉しみが、可愛い娘さんたちの子育てと、毎週末の庭の手入れという。「クボタBX2670を使っています」というカートさんは、花壇づくりや庭の芝刈りにトラクタを使っている。また、隣家の巨木から落ちてくる落ち葉拾いにもトラクタは活躍するそうだ。「前は他社の芝刈り機を使っていましたが、斜面の運転が不安で、せっかくの芝刈りの愉しみが味わえませんでした。でもエンジンは優れていて、調べてみるとクボタ製なのです。いっそ、芝刈り機からクボタ製のトラクタにしてみようかと、BXシリーズを買ったのが1年前。4WDで安定感があり、斜面でも安心です。操作も簡単なので、ようやく芝刈りが愉しくなりましたね。」

カートさんが鼻歌まじりにトラクタに乗ってくれる。しかし、今でこそ庭いじりの「マスト・アイテム」と呼ばれるクボタのトラクタではあるが、ここに至るまでには、さまざまな苦労があったのだ……。

1969年、クボタはアメリカでビジネスを開始する。当時、日本の稲作用トラクタのトップメーカーという実績を引っさげて、アメリカ進出を図ったのだ。だが、そこには大きな誤算があった。クボタのトラクタは15~50馬力。一方、アメリカの大農場で使われるトラクタは、数百馬力が一般的だった。アメリカの農業市場に受け入れられるのは難しいことが判明した。

ヘッジス家のダイニングにて。芝刈りの時間が短くなる分、家族とのだんらんに多くの時間を割くことができる。
トラクタに装着されるインプルメントをアメリカ国内で生産。現地ニーズに対応したモノづくりを行っている。

そこでクボタが着想したのが、このトラクタを芝刈り用として販売すること。芝刈り用のインプルメント(トラクタ装着用作業機器)をつけてテスト販売してみたところ、これが予想以上に好評だった。ガソリンエンジンが主流の芝刈り機市場において、ディーゼルエンジンを積んだトラクタを芝刈りに使用する発想は、当時のアメリカ人にもなかった。この転換によって、クボタトラクタは、急速にアメリカ社会に受け入れられていくことになる。

芝刈りだけでなく、穴を掘ったり、土を運んだり、いわゆるガーデニング全般に対応する、新しいトラクタへの期待に、いち早く応えたのもクボタだった。その立役者が、インプルメントである。代表的なものに、ローダーとバックホーがある。用途に応じてトラクタにインプルメントを装着することで、芝刈りから軽土木作業まで行える、これまでにないトラクタの姿を市場に提案したのだ。これによって、アメリカに「ディーゼルコンパクトトラクタ」という市場を固めた。そして、クボタは1980年代後半までに、40%のシェアを獲得するに至る。

カートさんは言う。「芝刈りは私にとって、最高のストレス解消法です。夕方にトラクタに乗って、スッキリして次の日は出勤するんです。ひとりの時間を持てて、没頭できるのも良いんでしょうね。家族たちも、その時間だけは庭仕事ということに免じて許してくれる(笑)」トラクタが生み出す時間が仕事も家族もハッピーにさせる。

若者たちにも広がる“自給自足”のライフスタイル

オハイオ州・サマセットに住むのがウィルソンさんご夫妻。8エーカー(約1万坪)の庭には、菜園があり、鶏小屋があり、ブランコがある。夫・クレイグさんは石炭採掘の仕事をしていて、休みがとれることもあれば、長期的に家を空けることもある。妻・リンゼイさんは公立公園で資金調達の仕事をしている。こちらのご家庭も共働きということになる。

「私たちは2年半前、ここに引っ越してきたの。それまでは街に住んでいたけど、広い土地で、自分たちのことは全部自分たちでやる、そういう暮らしに憧れていたのね」とリンゼイさんは話す。家の修理も、食物づくりも、自分たちでやる。こうした考え方はアメリカで広く受け入れられている。ウィルソン夫妻は三十歳代前半であるが、彼らに続こうとする若い世代も多いようだ。

ご夫妻が菜園を案内してくれた。この畑では豆やトマトなどの野菜を育てているそうだが、今年は豊作なのだとか。家族ですぐには食べきれないから、缶詰にしているという。「ここにきた2012年当時は、畑を耕すのだけは人にお願いしていたのね。その人がクボタのトラクタを使っていて。それを見たら操作もシンプルだし、自分たちにもできそうかなって。翌年の2013年にBXシリーズを購入したの。用途は芝刈り、畑を耕すこと、雪かきと決まっていたから、買う時には特段、迷わなかった。ただ、購入するまでの1年間はお金を貯めることに専念したわ(笑)」とリンゼイさんはいう。どうやら畑づくりはリンゼイさんの発案のようだ。菜園の他にも、トラクタを中心に、色々なプロジェクトが同時並行で進んでいるらしい。

それでは、トラクタはご夫妻のライフスタイルにどんな変化をもたらしたのだろうか。夫・クレイグさんに尋ねると、「2~3日に一回はトラクタに乗っている。それまで、庭仕事に1日5時間かかっていたんだが、トラクタのおかげで1時間半に短縮できた。その浮いた時間で、子どもたちと遊んであげられるんだよ」とニッコリ。休みが不定期なクレイグさんには、子どもたちと過ごす時間はどれだけ貴重なものだろう。

ご夫妻には、3人の娘さんがいる。「将来は農家のお嫁さんになってほしい」というのが両親のささやかな願いなのだとか。ウィークエンドファーマーから、本格農家へ。すでに、趣味の域は完全に超えているのだが。

クボタのトラクタは生活の一部としてウィルソンさん一家に溶け込んでいる。

Column

クボタの品質とサービス力への信頼と期待
Lashley Tractor Sales クリス・ラシュレーさん

オハイオは今、シェールオイルのおかげもあって非常に好景気だ。ホテルもないような田舎に、10軒もホテルが建ったほどだ。もちろん、トラクタの売上げにも良い影響を与えている。お客さんは「必要なモノを買う」という段階から、「欲しいモノを買う」段階へ、変化してきたように感じるね。

オハイオの東部には広い敷地の家が多い。敷地内で色々なことができる分、トラクタへのニーズも多種多様といえる。その点、BXシリーズは人気が高い。うちの年間600台の売上げのうち、1/3はBXシリーズだよ。インプルメントも豊富だから、まさに「欲しい」トラクタなのだろう。

私の店では、クボタの製品しか扱っていない。以前は他社を扱っていたのだが、そのブランドが別の会社からOEM供給を始めてから、品質が一定化しなくてね。その点、クボタはすべて自社工場の製品だから、高品質を維持できる。これは修理に必要とする時間にも影響してくる。他社だと色んな会社から部品を取り寄せたりするため6週間かかる修理が、クボタの場合は自社の倉庫から補修部品が直送されるから、お客さんからトラクタを預かってから、修理して返却するまで1週間もかからない。私の店は「サービス力」が売りだから、このスピード感はありがたいね。

クボタには、今の品質とサービス力を、これからも「維持」してほしい。新製品がどんどん増えていく、クボタに対してならではの期待だがね。

クリスさん(右)の父親・デニスさん(左)の代からクボタ製品を取り扱っている。アメリカでは親子代々ディーラーを続ける例が多い。